会長と委員長とゲーム01
——翌日。
文化祭まで残り5日となった。
何か大がかりなことをやるのならば、ここらで動き始めないと間に合わなくなっちまうが……。
まだゆのは悩んでいるようで、机に突っ伏して口をきいてくれない。
……閃くまではそっとしておこう。
4限が終わって昼休みになると、俺は机の中の黒い袋に入った中古ソフトを手に取る。
昼休みだし、生徒会室行かねーとな。
ソフトを携え席を立とうと思った時——。
「あの、佐野くん……」
委員長が何かを抱えて来た。
「……よ、良かったらだけど」
こ、ここ、これはッ。
「お弁当、作ってきたから……」
「俺のために⁈委員長が⁈」
「ち、違うっ。今日は多めに作っちゃったというか……よければ一緒に食べない?」
飛び跳ねたいくらい嬉しいんだが……弱ったなぁ……。
昼は玉木先輩とゲームやる約束あるんだよなぁ、でも委員長もわざわざ俺の分も弁当を作ってきてくれてるし……。
なんだこの贅沢な選択肢。
モテ期に、感謝……。
「さ、佐野くん?」
「ごめんごめん。えーっと、すっげー嬉しいんだけどさ、実は生徒会長に呼び出し食らってて……」
「生徒会長って……若葉さんに?」
「だから弁当だけ貰うってのはなんか悪いし、そうだな、ゆのにでも頼んで——」
俺がゆのに声をかけようする俺を委員長は止めた。
「私も」
「?」
「私も、行く。生徒会室」
✳︎✳︎
わっぱ弁当の中におにぎりと卵焼き、ウインナーにシャキシャキのレタスとブロッコリーのコンソメソテーがひしめき合っている。手間かかってるなぁ。
和風なお弁当箱が委員長らしいけど、中は意外にも和洋折衷。
彩もあるし、俺が気まぐれで用意する一面茶色の冷食弁当とは大違いだ。
「うん! めっちゃ美味しいよ委員長!」
「良かった……。佐野くんっていつも学食のパンとかジャンキーなものばかり食べてるから口に合うか心配で」
委員長……優しくて、家庭的で……好きだ。
「また余ったら、作ってきてあげるけど……どうする?」
「うん、食べたい!」
「……し、仕方ないわね」
「はいストーップ。イチャイチャストーップ」
その声とともに横からピンクのネイルが割って入ってくる。
「やっとキミが生徒会室に来たと思ったら、弁当がどうとか言って南雲家のお嬢を連れてくるし、さっきからあたしの眼前でイチャイチャイチャイチャイチャイチャ」
もう皆さんご存知の通り、ここは生徒会室です。
「た、玉木先輩、そんな怒らないでくださいよ」
「怒ってない!」
「すみません若葉さん。私が来たばっかりに」
「お嬢は悪くないから。でも一つお節介という名のアドバイスするならこんな人でなし陰キャ男とイチャつくのは辞めた方がいいよ」
「そ、それは……そうですけど」
「そうですけど⁈ 納得しないでよ委員長!」
それにしても玉木先輩と委員長の2人……お互いの呼び方から察するに、どうやら面識あるっぽいよな。性格的には両極端なのに意外だ。
「とにかくお弁当は食べ終わったんだからお嬢は帰んな。あたしはこいつに用があんの」
「わ、若葉さんの方こそ、佐野くんを呼び出して何をするつもりなんですか?」
「あたしは……」
珍しく玉木先輩が言葉に詰まる。
レトロゲームをやるだけなんだから言いづらいってことはないだろ。
「俺と玉木先輩は、レトロ」
言おうとしたら玉木先輩が睨みを利かせる。
黙ってろと言わんばかりの野獣の眼光。
俺はそっと口を噤んだ。
それを不審に思ったのか、委員長が震えながら口を開く。
「ま、まさか——え、えっちなこと、するんじゃないですよね?」
生徒会室の空気が凍る。
い、委員長、急に何を……。
「——するよ。えっちなこと」
まさかの発言に驚きを隠せない。
なんだと……⁈
玉木先輩のマジ顔えっち宣言。真っ先に下半身が反応する。
俺が玉木先輩と、えっちなこと……!
や、やるんすね、今、ここでッ!
「だ、ダメですそんなの!」
「なんで?」
「なんでって……まだ高校生なのに、え、えっちなのはいけないと思います!」
「なんで?」
「なんでなんでって! 若葉さん意地悪しないでください!」
「なんで?」
「もー!」
あの委員長が顔真っ赤にしてハキハキ喋ってる。
珍しい光景だし、恥ずかしそうに話してる委員長……可愛いな。
「さ、佐野くんも、何とか言って」
「そこで俺に助け舟出されても……そうだなぁ。ちなみに委員長が思うえっちなことって?」
「へ⁈ それは、その……き、きっすとか」
どっかの26歳と同じ性知識なんだが。
「佐野くん。あたしが言うのもなんだけど、それを聞くのは……最低」
「す、すみませんつい」
委員長は恥ずかしさで真っ赤になった顔が元に戻るまで、手で顔を覆っていた。
「お嬢、からかってごめんね。本当は佐野くんとゲームする約束してたの」
「げ、ゲーム? えっちな?」
「頼む委員長。まずはえっちから離れてくれ」
余談だが不意に玉木先輩とえっちなゲームもしたいと思ってしまった。
「あたしたちがやるのはただのレトロゲームだよ」
「レトロ、ゲーム? それならなんで先に言わなかったんですか!」
「だって、お嬢にそんなこと言ったら没収されると思ったし」
玉木先輩は金髪をくるくる弄りながら話す。
玉木先輩って意外と委員長には頭が上がらないのか?
まさか南雲家って、この辺だとかなり力持ってる……?
「そんなことしないです……。前も言いましたけど、私は南雲の娘ですが高校のことには口出ししないので」
俺みたいな島出身の人間にはわからないような勢力図的なアレがあるんだろうな、きっと。
「……佐野くん、時間がもったいないし、ゲームのセッティングしといて」
「は、はぁ」
生徒会室の奥にあった薄型テレビに変換器やその他面倒な接続を済ませ、サ●ーンも接続していく。
サ●ーンのセッティングをしながら、俺は気になっていたことを尋ねた。
「優等生の委員長と玉木先輩が知り合いとか意外っすね。どこで知り合ったんすか?」
「なにそれ、佐野くんはあたしが問題児とでもいいたいの?」
金髪、赤メッシュ、着崩した制服、短いスカート——どこからどう見てもヤンキーです。
「若葉さんは私が入学する前から気にかけてくれていたから……」
「南雲家のお嬢がうちに来るとなったら、会長であるあたしが挨拶に出向くのは当たり前。本来ならお嬢に変な虫が寄り付かないようにしないといけないんだけど……時すでに遅し……」
玉木先輩がゴミ虫を見るような目でセッティングしてる俺を見下してくる。
ある意味ご褒美だな、これも。
✳︎✳︎
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