終わりの始まり


 玉木先輩との楽しいデートタイムは長いようで短くて。終わるのを惜しみながらも電車に乗って、高校へ戻ってきた。


「じゃ、あたしは自分の仕事に戻るから」


 玉木先輩は俺を校門の前に残してさっさと生徒会室に行ってしまった……。(最後にお別れのキスとかを勝手に期待していた脳内お花畑男)


 さてと、このサボリを先生にどう説明するべきか。

 言い訳をあれこれ考えながらとりあえず職員室に向かうと、ちょうど職員室から出てきた安西先生に鉢合わせた。


「佐野くん!」


 うへー、よりにもよってこの人か。

 実に面倒だ。めっちゃ怒られそう。


「その、だ、大丈夫でしたか⁈」


 大丈夫……? なんで俺、心配されてんの?

 俺は不思議そうに目を丸くしていると、安西先生は眉間に皺を寄せて首を傾げた。


「本当に大丈夫なんですか?」

「あの、大丈夫って?」

「え? 生徒会長から『佐野くんが熱中症っぽくて公園のトイレに入って行ったから様子を見る』って高校に連絡があったので」

「あ、あぁ……なるほど」


 あれだけ俺を連れながら大胆にサボってて、玉木先輩がまったく物怖じしてなかったのはそういうことだったのか。

 さすが生徒会長、アフターケアもバッチリってわけね。


「ちょっと脱水症状っぽくなっちゃって、公園で玉木先輩に対処して貰ってたんですよ。もう平気なんで!」

「そ、そうですか……もー! 心配したんですから!」


 涙目の先生を見てると罪悪感で押し潰されそうなんだが。


「一応保健室に行きましょう! 担任の先生の方には私から言っておくので!」


 安西先生に言われるがまま、俺は隣の保健室に連れていかれ、送り届けた安西先生は担任の杉山先生の元に向かった。


「あら、これはこれはおサボリの佐野孔太クンじゃない」


 スマホを片手に、保健室のクーラーの下で涼んでいる更科エリー先生。

 クールビズだからか、珍しく白衣を脱いでピンクのスクラブだけ着ている。

 こうしてみると、いつもは見え隠れている胸元がよく見える……程よい大きさ、良いね。


「目線がキモいわよ」

「す、すんません」

「あなたは病気じゃないんだから出て行って」

「もしかしてエリ先は全部知ってるんすか」

「エリ先言うな。ワタシはハバ卒だから何でも知ってるのよ」

「……ハバ卒、ねぇ」


 俺が疑いの眼差しを向けると、エリ先は目を背ける。

 やっぱりこの人、ハバ卒ではないな。

 当たり前のように経歴詐称するなよ。


「ハバ卒かどうかは置いておいて。ワタシはね、ちょっとだけ若葉と繋がりがあるの。若葉からあんたとサボるって聞いていたし」

「若葉……って、玉木先輩?」

「そうよ。若葉はワタシの従兄弟だから」

「従兄弟? 先生と玉木先輩が?」

「ほら、若葉もワタシに似て美人でしょ?」

「そりゃ、玉木先輩はめちゃくちゃ良い女ですけど」

「良い女って……あんた、若葉とどんな関係なのよ」


 エリ先は指で俺の腹部を突いてくる。


「それは秘密かなぁ」

「うっざ。所詮陰キャのくせに」


 校長先生、保健室からトンデモ発言出てますけど。


「若葉があんたみたいな陰キャのこと相手にするわけないじゃない」

「それがしてくれてるんすよねー。ほらプリもありますよー」


 俺は自慢気に懐からさっき撮ったプリをエリ先に見せびらかす。

 二人でピースしながら映っており真ん中に白字で『初デート記念』と書かれている。


「……あ、あの若葉が! 男に気を許すなんて! 叔父さんに報告しないと!」


 先生は俺の手の中にあるプリにスマホのカメラを向ける。


「ちょ、他人のプリを撮るとかやめてくださいよ!」


 俺はエリ先に撮られる前に、プリを財布の中へ仕舞った。


「あなたは若葉と付き合ってるの⁈」

「何マジになってんすか。遊んだのは確かだけど、俺なんかが玉木先輩と付き合えるわけないですよ」

「……そ、そうよね」


 エリ先は安堵の表情を浮かべて椅子に座り直す。

 なんか失礼だなこの人。


「とにかくワタシはあんたのことがもっと嫌いになったわ。さっさと出て行って」

「そんな! 前みたいに罵倒していただきたく」

「帰れっ!」


 強引に保健室から追い出され、引き戸をピシャンと閉められた。

 エリ先にまた嫌われてしまった。

 それにしても玉木先輩にはまだまだ裏がありそうだ。

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