モテ期の男は生徒会長の犬になる04
改札口を抜けて、玉木先輩に手を引かれながら街中をぶらぶらと歩く。
こんな時間に制服でぶらついていて補導されないのか心配する俺とは対照的に、先輩は道中でタピオカミルクティーを買って飲み歩いていた。
「さすが先輩、肝が据わってますね」
「ん? どして?」
「この時間に虹校の制服着て歩いてたら、普通変な目で見られるのに、堂々としてるし」
「……佐野くんってさ、エッチなことには見境無いのに、他の事だとビビリなんだね」
ごもっともすぎて否定できねぇな。
「そんなに緊張するなら、あたしのタピオカ飲む?」
「……い、いいんすか」
タピオカのカップから汗が垂れるように、俺の額からも汗が込み上げてくる。
か、間接(*^3(*^o^*)になってしまう。
「じゃあ遠慮なく」
俺がクソでかストローを吸おうとした瞬間、タピオカが俺の口撃を避けた。
「じょーだん。キミの場合ストローの方にしか興味無いだろうし」
「俺の純情を弄ばないでください!」
「それが不純でしかないと思うのはあたしだけなのかな」
その後も先輩はドーナツを買って食べ歩く。
なんか当たり前のように甘いもの飲んだり食べたりしてるけどこの芸術的なプロポーションは維持されてるんだよな。
……その理由が気になる。
「玉木先輩って普段は何をされてるんですか?」
「普段?」
「スタイル良いし、運動とかしてるのかなって」
「運動、ねぇ」
先輩はドーナツを食べきって、指についた粉糖を舌で舐め取る。
仕草の一つ一つに隠微な色気があって、その度に俺の股間が疼く。
「……やっぱひみつ。オトメにダイエットの方法なんて聞いちゃだめだよ」
「そうっすよね。すみません」
「でも適度な運動はしてるつもり。元々太らないから痩せて見えるだけだよ」
「そうなんすね。いやぁ、先輩のことだからてっきり喧嘩とかで身体鍛えてんのかなって」
「喧嘩、か。……喧嘩はもう飽きちゃった」
「飽きちゃった?」
「この辺は生徒会長になる前に制覇して、今はあたしの街だから」
「先輩の街、ですか」
す、すげぇ……。
そりゃ喧嘩が強くなきゃここまで高い地位にはいないと思っていたが、それほどまでとは。
ちょうどその話をしていた時、筋骨隆々な男たちが前を通りかかった。
いかにも道を外した風貌をしていたが、先輩を見つけると即座に上半身を傾け、膝に手を置いて頭を下げる。
「「姐さん、お疲れ様です」」
「お疲れ」
先輩は軽く手を振ると、特に話すことなくそのまま素通りした。
その光景を見て、この町の上下関係を理解するのに1秒もかからなかった。
「……俺、先輩の隣にいてそれかつ手も繋いでて、殺されないっすかね」
「大丈夫。もし攻撃されそうになったら守護ってあげるし、そもそもあたしの隣にいる人間に手を出す輩はいないから安心して」
「あざっす!」
こりゃ、どっちが男なのかわからんな。
玉木先輩の凄味がこの1日で嫌というほど分かった。
「佐野くん、そろそろだよ」
「先輩の行きつけのお店ですか?」
「うん。そこの角曲がったところにあるの」
先輩に言われ、角を曲がって大通りに出ると、そこには小さな店が構えられていて、意外にもそこは。
「げ、ゲームショップ?」
「中古ゲーム屋。あたしが暇な時、必ず来るお店」
古びた看板は台風が来たら今にも吹っ飛びそうなほど傾いていて、全体的に汚い。
隣のファミレスがあまりにも綺麗なので、その分景観の悪さが際立っている。
ショーウィンドウの中にあるゲームの箱もすでに日に褪せている。
「ここはお爺ちゃんが一人で切り盛りしてる中古ゲーム屋で、品揃えも良くてマニアも多く来る」
「へ、へぇ」
それにしてもここが先輩の行きつけの店……。
先輩のことだからヤバめの裏カジノとか想像してたんだが。
先輩は店内に入るなり、慣れた手つきで中古ゲームを漁り始める。
意外にも店内はしっかりレトロゲームが綺麗に並べられており、レジ前のウィンドウの中には既にプレミア価格のものまで揃っていた。
「先輩ってゲームとかするんですか?」
「あんまりしないかな」
「ならなんでこのお店に通ってるんすか」
「この店の匂いが好きだから。特にこの使い込まれてヤニがついたゲーム機の匂いとか、最高」
「か、変わってるんですね……」
そういえば、前に生徒会室に直談判しに行った時、中古ゲームが沢山あったような。
察するにあれは、ここから買ってきて置いてるのか。
「中古ゲームってね、不思議と可愛いく思えるの。一つ一つに前の持ち主の性格が出てるから」
「あぁ、前の人のデータとか入ってますもんね」
「それもそうだけど。ソフトに名前とか書いてあったりするとさ、兄弟で取り合いになったのかなって思っちゃったり」
先輩はそう言いながら優しい笑顔を見せる。
いつもは鋭い目つきの先輩も、この時だけは慈愛に満ちていて……あぁ、好き。
「あたしも名前書いとこうかなぁ」
「名前?」
「うん……キミがどっかの誰かさんに獲られないよーに」
先輩は人差し指を立てて、ネイルで俺の心臓をなぞった。
「俺みたいなゴミクズを、先輩の所有物にしてくれるんですか!」
「されたい?」
「はい! 喜んで! 今すぐにでも」
「はい嘘つき」
先輩は俺の心臓からおでこに指先を持ってきて本日6回目のデコピンを放った。
5回目の倍くらい威力があったんだが。
「本気だったのに!」
「これ、あたしのおすすめのゲーム。今日のデート記念で買ったげようか?」
「え、いいんすか? それより名前を書」
「お爺ちゃん、これお会計してー」
先輩はゲームをレジに通してから、箱無し剥き出しのソフトを俺に手渡した。
「これをあげる代わりに、毎日生徒会室に来ること」
「ははぁん、もしかしてそれ狙いで? やっぱり先輩って俺のこと」
「だってキミ、これのハード持ってないでしょ?」
「本体…………確かにサターンは無いですね」
「でしょ? だから毎日昼休みに生徒会室に来て、あたしの隣でこのゲームをやること。わかった?」
「分かりましたけど……。これって生徒会への勧誘じゃないっすよね」
「それは自意識過剰。別に佐野くんを必要としてないし」
グッ、俺が要らないってのは当たり前だが、面と向かってそう言われると結構メンタル的に来るものがあるな。
「生徒会ってあたし一人だから暇なの。遊び相手が欲しいって意味ではキミが必要かな」
「……え、生徒会って先輩だけなんすか」
「あたし一人いれば事足りるし、最初は他にも居たんだけど、消えちゃった」
そういえば先輩には反乱因子がいるとかゆのが前に言ってたな。
生徒会を抜けたってことは、そっち側についたってこと……かもしれない。
「でもいいよ。孤高でも、あたしは強いから」
先輩について、俺は知らないことばかりだ。
でも俺みたいな一般人が先輩のことを知りたいと思うことは、おこがましいのかもしれない。
「さ、次どこ行く? せっかくの初デートなんだから、記念にプリとか撮らない?」
「は、初ってことは次もあるんすか!」
「……やっぱ最初で最後のデートかな」
「なんで嫌そうなんですか! またしましょうよ!」
「……したいの?」
「し、したいっす」
「はい嘘つき」
7回目のデコピンは鼻の頭にされた。
激痛で鼻を押さえる俺を置いて先輩は走り出す。
「ゲーセンまで競争ー! あたしより先に着いたら、またデートしたげるっ」
「ちょ、待ってくださいよ先輩!」
俺は死ぬ気で走ったが、先輩に追いつけるわけなく、次のデートは未定となった。
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