モテ期の男は生徒会長の犬になる03

 

 学校をサボり、電車で隣町へ繰り出す。

 盗難していないだけ、15の夜よりはマシだが無断欠席してる時点で内申に傷がつくのは間違いない。

 しかし、生徒会長である玉木先輩からのお誘いを断るわけにもいかず。(デートのお誘いを受けたのだから、こちらも行かねば……無作法というもの)

 あれから数十分が経ったが、公園から駅のホームまで、玉木先輩は手を離してくれなかった。

 電車を待ってるこの時間も、玉木先輩の左手は俺の右手に繋がれている。


「手、離してもいいっすか」

「離したいの?」

「離したくないっす」

「なら繋いでればいいじゃん」

「せ、先輩が、嫌かなって」

「……あたしはどっちでもいいかな。キミに任せる」

「じゃあ、このまま、で」


 落ち着け、俺。

 変に意識したら俺がぼっち陰キャだってことが先輩にバレちまう!(少なくとも陰キャだということはバレてる)

 やっと電車がきて、朝にしては空いていた車両に乗り込み、2人掛けのクロスシートに座る。


「結構空いててラッキーでしたね」

「そう? この時間ならいつも空いてるし、むしろ今日は混み気味な方かな」


 この時間帯の電車事情に詳しいってことは……。


「先輩ってサボリの常習犯なんすね」

「勉強よりも大事なことが世の中にはありふれてるから」

「はぁ、さようですか」

「キミがやってるフリーハグだって、ちゃんとやれば意味のある活動になると思うな」

「一応、ちゃんとやってるつもりなんですが」

「下心ばっかりなのに?」


 完全に見透かされてんじゃねーか。

 なるほど、玉木先輩に嘘はつけないってことね。


「あたしみたいなのが言うのもおかしいけどさ、本当にフリーハグを求めてる人って、何かに飢えてる人なんだよ。愛、友情、承認……色んな欲求があって、それを紛らわす手段として抱擁を求める」


 玉木先輩は珍しく落ち着いたトーンで話す。

 いつもはヤンキーチックでおっかない印象しかなかった先輩だが、この時だけは知的に思えた。


「キミ自身だって、欲求があるからハグを受け入れているんでしょ?」

「欲求……ですか」

「あたしを抱いてる時、何考えてるの?」


 考えを巡らせてみるが、いつも突拍子もないことを考えてるので口に出せるわけない。


「せ、先輩がお美しいなぁ、と」

「嘘つき」


 玉木先輩はまたピンクネイルの指先で俺のおでこを弾いた。


「ほんとですって!」

「ふーん……じゃあさ、佐野くんはあたしのこと好き?」

「もちろんですよ!」

「嘘つき」


 本日3回目のデコピンを頂戴する。


「いったっ。なんで全部嘘だって断定するんすか!」

「あたしが好きなんじゃなくて、あたしの顔と身体が好きなくせに」

「あと髪も好きです! 匂いも!」

「気持ち悪っ」


 4回目のデコピンをくらったタイミングでちょうど隣町に到着した。

「降りるよ」と玉木先輩に言われ、手を引かれる。

 電車から降りると、駅のホームから見える街の景色に圧倒された。


「俺、ここに来るの初めてなんすよ」


 虹高周辺より栄えてる街だからか、駅のホームにいる人の数も段違いで多い。

 立ち食い蕎麦屋もあるし、充実してんなぁ。


「キミは離島出身なんだっけ。ゆのちゃんも?」

「そっすよ。俺たち高校からこっち来たんで」

「へぇ、じゃあ一人暮らししてるんだ……今度、部屋行ってもいい?」

「俺の、部屋っすか?」

「うん」

「……え、えっちぃこととか、するんすかね」

「それは佐野くん次第かなぁー。……あたしと、したい?」


 突然のお誘いに脳内が沸騰し始める。

 も、妄想が、現実になりかけて、いる……⁈


「はい! よろこんで!」

「嘘つき」


 5回目のデコピンはちょっと強めだった。

 でも、気持ちいい……。


「ってぇ……本当なのに!!」

「バカ言ってないで行くよ。もうそろそろ開店だし」

「か、開店?」

「あたしの行きつけのお店っ。特別に連れてってやる」

「あ、あざっす! 先輩!」

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