モテ期の男は生徒会長の犬になる01

 

 委員長とラブコメした翌朝。

 結局朝まで委員長との妄想で愉しんでしまった……。

 鏡を見ると目の下にクマができており、とにかく眠い。

 それでも悶々とした身体をベッドから起こした。


 あぁ、こんなに高校に行くのが楽しみなのは初めてだ。


 俺がニコニコで朝支度していると、誰かが部屋のドアをガンガン叩いてくる。


「おはよー! こーたくん!」


 なんだゆのか。やけに早起きだな?

 俺は着替えてすぐにドアを開ける。


「おはよう。朝からどうした? 水道でも止まったか?」

「早起きして朝ごはん作ってあげたから、部屋来てねー」


 ……騒がしいと思ったら、そういうことか。

 ゆのは滅多に早起きすることが無いのだが、夢の中で創作料理を思いついた日は驚くほど早起きして朝メシを作り、島にいた時から俺の家まで持ってきて俺の家族に振る舞っていたくらいだ。

 創作料理と言うだけあって、当たりとハズレの差が凄いから今日は当たりであることを願いたい。


「はやくしないと冷めちゃうよー!」

「はぁ……ちょっと気分が」

「もー、夜更かしするからそうなるんだよー」

「はいはいわかったわかった。説教は後で聞いてやるから」


 俺は制服に着替えてからゆのの部屋で創作料理朝ごはんを頂戴する。

 制服エプロン姿のゆのも悪くないな。

 学生結婚とかしたら毎朝こんな感じなんだろうなぁ。


「え、今すごいキモいこと考えてたでしょ? めっちゃ顔に出てるよ」

「俺とお前の将来のことを考えていたんだ」

「キモっ。わたしの将来とか2度と考えないでね、余計なお世話だから」


 相変わらず俺に対しては容赦ないな。

 まっ、罵倒されるのは気持ちぃぃから構わないんだが。


「はいっ、うどんマカロニサラダ」

「……」


 マカロニサラダのマカロニがうどんになっている、もはやうどんサラダ。

 ま、まぁ、今日の創作料理はマシな方だ。


「あとはー、味噌汁うどんと、うどんご飯」

「うどんご飯て……み、3つの皿全てに炭水化物があるんだが」

「勢いで4束ゆでちゃった♡」

「……」


 うどんご飯に関しては、ご飯の中にうどんが混ぜ込まれており……お、おぇ。もう解説するだけでお腹いっぱいなんだが。

 食わないことには終わらない。とにかく食うしかねぇ。

 俺が必死になって炭水化物を食ってる隣でゆのが何か落ち着かないそぶりを見せた。


「くんくん」

「ど、どした」


 ゆのが鼻先を俺の手の甲に近づける。


「孔太くん……もしかして香水つけてる?」

「や、やっぱ分かっちまうかぁ。今の俺、なんだかんだでモテ期だからよ、昨日の帰りに奮発して買っちまったぜ」

「陰キャなのに香水とか……」

「……おいそれ以上はやめろ、普通に差別だからな。陰キャだって香水をつける資格はある!」

「ふーん……」


 ゆのが白い目をこちらに向けてくる。


「孔太くんからラブコメの波動を感じる」

「は?」


「……もしかして、生徒会長と致した?」


 何故そうなる。

 否定しよう……と思ったのだが。


「……やっべぇ。バレちまったか」


 俺は平気に嘘をつく。

 一応、頭の中ではもう数十回生徒会長と致しておりますので、間違いございません。

 すると、突然ゆのの顔が真っ青になった。


「……ど、どどど! 孔太くんの、童貞が……あのヤンキーなんかに……あわあわっ」

「落ち着けゆの! 冗談だ!」

「冗談? ……べ、別に動揺とかしてないし。はー! 孔太くんの童貞とか1円の価値もねーしー。中古屋にあってもいらないしー」

「中古屋にある童貞って矛盾の塊か」

「とにかく! 勘違いしないでよね!」

「やっぱお前って俺のこと好きだよな。このツンデレめっ」

「……ごめん、それは無い」


 ゆのが真顔で否定する。

 ……どうやら本気で俺のことは好きでは無いらしい。(ったく、嘘ばっか言いやがって)


「俺のこと好きじゃないなら他の女と致したか否かでそんな動揺すんな」

「こ、孔太くんはわたしのペットみたいなものだから……これまでもしっかり調教してきたわけだし。孔太くんだって飼い猫がそこらへんの野良猫と盛ってたら嫌でしょ?」

「食事中に出てはいけないワードが平然と飛び交ってるんだが」


 途中、炭水化物の過剰摂取で嗚咽を漏らしながらもなんとか朝食を済ませ、二人で食器を洗ってから登校の準備を始めた。


「ゆの、歯磨き粉貸して」

「はいっ」


 洗面台の前で並んで歯磨きをする。

 ゆのの部屋で朝食を摂った後の恒例となっている。

 幼馴染だからって、これはもう付き合ってると言っても過言ではない。(同棲してる男女の距離感だもんなぁ)

 とりあえず、この事をトゥイッターで呟いて、陰キャオタクフォロワーたちにマウント取ってやるかぁ(ゲス顔)。


「本当はね、朝ごはん食べながら話したいことがあったんだけど」


 ゆのは先にうがいを済ませて話し始める。


「フリーハグを文化祭で話題にさせるために、サクラを用いる案を考えたの」

「サクラ?」

「偽客のこと。例えばラグビー部の田中くんにお願いして、ラグビー部20人をフリーハグの場所に並ばせたら、それを見た人はフリーハグが流行ってると思って興味本位で並びたくなるでしょ?」

「あぁ。要するにせこい事するって話か」

「せこくないよ! 心理学実験ではしょっちゅう用いる手法で、有名なのだとソロモンアッシュの同調心理学の実験では……」


 ゆのはさっきからくどくど話しているが、何を言ってるのかまったく興味が湧かない。

 話し始めたら止まらないんだよなぁ。これだから心理学者モードのゆのは面倒くさい。


「わたしたちのフリーハグにサクラを用いるのは正直、嫌だったんだけど」

「それやっちまったら別の心理が働くもんな」

「……やっぱり、違う方法を考える! 孔太くんもいいアイディアがあったら教えて」

「お、おう」


 そもそもフリーハグで客を集めるっていうのが間違っているのかもしれないが……廃部がかかっている以上、やるしかないな。


 ゆのも覚悟を持ってやってるもんな。

 俺も真剣に考えてみるか。

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