廃部!02
俺の決意に感化されたのか、ゆのは考える時間が欲しいと言って図書室へ向かい、先生はまだ16時なのに酒を飲み始めた。(ヤケ酒)
廃部が脳内に散らつきながらも、俺はフリーハグを続けることにした。
「佐野くーん。また来たっすよ」
玉木先輩や委員長を抱きたい、その欲求が止まらなくて俺はラグビー部の田中とハグしながら妄想に浸っていた。
「明日、試合があるんすけど良かったら見に来てくれないっすか?」
「……い、いいけど」
「もしかしてラグビーにあんまり興味ないすか?」
「そんなことないよ! 俺、観るだけならスポーツ好きだし」
「なら良かったっす。明日の朝10時にここからすぐのラグビーグラウンドでやるんで」
田中はそう言い残して屋上から降りて行った。
相変わらず激アツなバグだったな。
「……さのきゅーん。友達の前だとキャラ違うんでしゅねー」
「うっせぇな酔っ払い」
「うぇぇえええん! またそうやっていじめるー」
とりあえず先生を泣かせて、俺は虚空を見つめる。
色々な靄が頭の中でとっ散らかってる。
「文化祭でフリーハグを繁盛させるっていうのがこの活動の本筋から外れているような気がするんですよ」
「どーゆーことです?」
「久しぶりに真面目な話をするんですけど、俺たちがやりたいフリーハグって、数とかじゃなかったはずなんです」
「んー? どゆこと」
「あー。酔っ払いに話しても無駄だよな。よし、泣け」
「びぇぇぇん」
ゆのも同じことを思っているはずだ。
俺は下心ばっかりだけど、ゆのは違う。
あいつは昔から知的で、窮地に陥っても負けなかった。
今の状況も冷静に見れてるはずだ。
「さのきゅん、お客さんが来てますよー」
「お客さん?」
俺がぼーっと思いに耽っていたら、いつの間にか目の前に長い影があった。
「佐野くん」
顔を上げるとそこには……委員長がいた。
屋上の強風で髪が靡き、それを片手で押さえながら立っていた。
「……今日も、フリーハグ?」
「あ、あぁ」
「へぇ……」
会話が止まる。
クラスの文化祭準備はどう? とか、聞いた方がいいのか?
でも準備に参加してない俺がそんなの聞いたら皮肉ってるようなもんだよな。
さっさと会話を繋げないと、先生が空気を読まないことを言うかもしれねぇし。
「……安西先生、お顔が真っ赤ですけど大丈夫ですか?」
委員長が先生の顔を覗き込んで心配した。
委員長の方から爆弾に触っちまった!
「大丈夫大丈夫〜。南雲さんこそ顔赤いですよー」
「え? あかっ……赤くないです」
「えー? 赤いですよー。もしかしてぇ、さのきゅんにホの字なんでしゅかー? こんな男に惚れるとか、見る目ないですねぇ」
「……」
委員長は何も言わず、安西先生を見下していた。
え、あの委員長が怒ってる……のか?
とにかく話変えねーとな。
「い、委員長はどうしてここに? もしかしてフリーハグ?」
「……いいえ。実はクラスの子たちがみんな用事で帰ってしまって」
用事とか絶対嘘だな。
陽キャ共のことだ、急に気分が変わってみんなでカラオケとか行ったんだろ。
「私一人でも足りる量だと思っていたのだけど……少し嵩張りそうなの。良かったら佐野くんにも手伝って欲しくて」
「そういうことか。分かった、行くよ」
「えー! さのきゅんは私の面倒見てくださいよ!」
「酔っ払いは寝ててください」
「うぇぇぇええん」
先生が俺の腰に引っ付いて離れない。
俺がフラフープみたいに腰を振ると、先生が「気持ち悪ぃぃ」と言いながら嗚咽を漏らした。
「さっきから思っていたのだけど……安西先生はなんでこんなにベロベロなのかしら」
「あ、えーっと」
こんな先生だけど、一応名誉を守ってやるか……。
「さっき水と間違えてワンカッ●呑んじゃって」
「あぁ、そういうことでしたか」
いや納得するんかい。
委員長はペットボトル飲料水を鞄から取り出して先生の背中をさする。
「まだ開けてないので、よかったら」
「ま、ママ〜」
「ママ……?」
あーやっぱダメだこの人。
時間が経つごとに安西先生の株がどんどん落ちて、すでにストップ安なんだが。
「ふぅ……落ち着きました! では佐野くん、私も行きます」
「ついて来んなって」
「あなたは問題児なんですから野放しにできません! それに男女でお買い物なんて不純異性交遊です!」
「どこがだよ!」
「とにかく! 私も行きたいです!」
「はぁ……。お菓子は買いませんからね」
「あ、お酒はいいんですね」
「ダメに決まってんだろ!」
委員長がクスッと笑った。
「……夫婦漫才みたいね」
「は? 佐野くんみたいなキモい人と夫婦とか言わないでください」
いちいちイラッと来るなこの教師。
「……委員長もう行こうか。先生は職員室に戻ってくださいね」
「私も行きますからー!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます