廃部!01
「初めて任された部活なのに無くなるなんて嫌ですーっ」
「落ち着いてください! まだ無くなると決まったわけじゃないですから」
最初から玉木先輩は味方ではなかったってことか?
当然と言ったら当然なのだが。
「玉木先輩には助けてもらってばかりだから俺たちは文句言えないんですよ。活動場所である屋上も、文化祭の件も、全部玉木先輩じゃなかったら絶対に与えられてない」
「それは——そうなのかもしれませんが。佐野くんはいいんですか? 文化祭でコケたらこの部活は!」
「無くなる」
心理学実験同好会が、無くなる……のか。
「……先生、率直な気持ちを言ってもいいすか?」
「は、はい」
「——別にこの部活、潰れてもショック無いんすけど」
先生は無言で俺のほっぺをつねる。
「い、痛い痛い痛いって」
「あなたには部活愛とか無いんですか!」
「逆にあると思うんすか⁈」
俺の反抗にビビった先生が後ずさる。
「ま、まぁ、クズでキモい佐野くんのことですから無いとは思ってましたが……」
先生はやっとほっぺから手を離した。
「俺は結局クズなんです。学園を守るためにアイドル活動する輩は共感できないし、倒産寸前のアイドル事務所を立て直そうともする奴の気持ちもわからないし」
「なんで例えが全部アイドル作品なんですか……」
「でも、ゆのが悲しむ顔は——見たくないです」
「さ、佐野くん! 主人公みたいなこと言えるじゃないですか!」
「そりゃそうですよ! このままだとゆのは、廃部になったこの部活を取り戻すため学校のお偉いさんに身体を売ることに……ァァッ! 俺可哀想なのは抜けないタチなんで」
「やっぱキモい」
そんなことを話していたら屋上のドアが開き、呑気な顔してご本人が登場。
「みんなお待たせ〜」
俺と先生はアイコンタクトをとりながら、今回の件を話すか否か相談し合った。
『佐野くんから話してください!』
『そこは大人として先生が話すべきでしょ』
『佐野くんは幼馴染なんだから話しやすいでしょ!』
『顧問から伝えるのが筋でしょーが』
「どしたの? 二人して見合っちゃって」
「な、なんでもない! ね、先生」
「はいぃぃー」
先生の声が裏返って、聞いたこともないような奇声が上がる。
ゆのにこの事を伝えたら間違いなく落ち込むよなぁ。
「実はね二人とも。黙っていたことがあるんだけど……」
ゆのは荷物を下ろして座り込み、一呼吸置く。
「今年の文化祭でコケたら、この部活は廃部となります」
…………お前も知ってるんかい。
先生も俺も無駄な力が抜けてフニャフニャになる。
「え? もしかして2人も知ってたの?」
「さっき生徒会長がいらしたんです。そこで告げられました」
「……そ、そっか」
ゆのは見てわかるくらい落ち込んでいる。
無理もない。ゆのにとってこの同好会は、心理学者として必要な居場所なのだから。
「生徒会長も酷いですよね。文化祭まで面倒見てくれたのに急に手離すなんて」
「それは違います!」
ゆのは語気を強めて否定した。
ゆのがこんなに声を荒げるのは——中3の夏に俺が島を出るって言ったあの日以来だ。
「生徒会長は私たちのために1番の場所を用意してくれました。でも、実行委員長が昨年の生徒会選挙で玉木先輩と争った人で、1番良い場所を渡す代わり、無意味だったら廃部にしろって」
「そ、そんなのが許されるんですか⁈ 佐野くん!」
「むしろ先生に聞きたいところなんですか」
「実行委員会の担当教師も生徒会長の反乱因子らしくて……。校長に直訴して無理矢理認めさせたみたい」
「玉木先輩って敵ばっかりじゃねーか!」
ヤンキーっぽい風貌を見てもわかるように、玉木先輩はこれまでの校則とかバンバン破壊してるし批判や敵が多くて当たり前——なのかもしれないが。
「実行委員会の担当は佐野くんが好きな巨乳メガネですよ。あの人校長と不倫疑惑が出るくらいズブズブらしくて」
「数学の田村先生か。あんなポワポワしてる田村先生がそんな腹黒だったなんて!」
「とにかく生徒会長は、私たちのために自分のプライドが傷つく覚悟で実行委員長の要求を飲んでくれたの」
玉木先輩はそこまで俺たちに肩入れしてくれていたのか……。
それなのに俺とこのロリ教師は疑ったりして——本当に申し訳ない。
「俺たちのフリーハグはいつしか俺たちだけの活動じゃなくなってたのか。このままじゃ玉木先輩の面汚しになっちまうのかよ! そんなのダメだ!」
「そうですよ佐野くん! 今こそやる気を出す時ですよ!」
「俺は、こんなところで終わりたくない!」
「孔太くんっ!」
——だって俺は!
「まだ玉木先輩を抱きたいし! 委員長といちゃつきたいし! あと3人くらいはヒロインを増やしたい! あわよくば童貞卒業したい!」
「「……」」
「だからこの部活は誰にも潰させない!」
「「……」」
俺の熱い決意表明に、2人は言葉も出ないようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます