文化祭に向けて02
文化祭まで残り約1週間。
学校中が文化祭準備で忙しなくなっている。
どのクラスも本格的で、虹高名物『真夏の文化祭』は、近隣の高校の中で最も人を集める文化祭らしく、夜には花火を打ち上げるらしい。(どんな金満高校だよ)
ちなみに俺たちのクラスはメイド喫茶をやるらしい。
ベタすぎるのだが、うちのクラスには桔川ゆの・南雲花香という1学年の2大美女を抱えているわけで。それを活かさない手はない、ということになって賛成多数で決定した。
——まぁ、文化祭は陽キャ中心で事が回るのでぼっちの俺に仕事が来るはずもない。
同じくクラスの陰キャ男子たちは放課後クラスに残る事なく教室から出て行く。
さて、俺もフリーハグがあるから屋上に向かうとしようか。
✳︎✳︎
ゆのはクラスの事があるし、今日は一人でフリーハグすっか。
屋上へノソノソ階段を上っていると、後ろからうるさい足音が近づいてきた。
あー間違いなく"ロリ教師"だ。
「佐野くんっ!」
「おっす安西先生。相変わらず先生も暇っすね」
「暇じゃないです! あなたを監視するのが私の仕事ですから!」
安西先生は俺の尻をペチペチ叩きながら反抗してくる。
世のロリコンはこういうところにズッキュンなのかもしれねぇが、俺はそんな簡単に靡かないぜ。
「あれれ? 桔川部長は一緒じゃないんですか?」
「あいつはクラスの文化祭準備で忙しいんすよ」
「へぇ、楽しそう。同じクラスなのに佐野くんはやらないんです?」
「ったく察しろよこのロリ」
「なんでですか? ねー、なんでなんで?」
「空気読みましょうよ。そんなんだから職員室でもぼっちなんすよ」
「ぼ、ぼっちじゃないです! 私はですね、群れるのが嫌いなだけですっ」
そういうのをぼっちって言うんだが。
2人で屋上に出て、誰もいない屋上の真ん中に座った。
「佐野くんってコミュ力ありそうなのにぼっちなんですか?」
「陰キャって言うのは身内相手には饒舌なんすよ」
「あー内弁慶ってことですね。たしかに」
「先生もそうでしょ?」
「私は違います。ちゃんと大人なので」
大人……ねぇ。
このあいだ俺が日直だった時、職員室に用があって行ったら、1年生の担任たちが楽しそうに会話してる隣で、一人スマホに目を落としてる安西先生の姿がとても見てられなかったことは……黙っておこう。
「フリーハグ来ないですねー。……ちょっとお酒飲んでもいいですか?」
「ダメに決まってんでしょーが! また校長にお説教されますよ」
「むぅー! 暇なんだもん! お酒飲みたいですー!」
うわぁ……この人、早くクビにならないかなぁ。
「暇なので、次に人が来るまで私が佐野くんとハグしてあげます」
「えぇー。誰か来た時恥ずかしいし」
「恥ずかしいって! フリーハグなんだから問題ありません。さー、ほらー」
先生が俺の懐に飛び込んできた。
最近の先生はぼっちという同族意識からかやけに俺にベタベタしてくる。
「先生とハグしてるとフリーハグというか、子どものお守りをしている気分なんですが」
「この私を抱けるんだから、もっと光栄に思ってください。これでも学生時代はモテたんですから」
「そんな見栄張らなくてもいっすよ」
「見栄張ってないです!」
「てか、よく考えたら先生と俺って10歳差あるんすよね。10歳年下の生徒に甘える教師って……」
「甘えてないです! これはあくまでフリーハグですから!」
そんなことを言いながらも抱きつきながら俺の胸に顔を埋める先生。
——危ない。俺がロリコンだったら一発KOだった。
「あれー? 楽しそうだねお二人さーん」
この声は……っ!
その声と同時に屋上のドアがゆっくりと開く。
中から出て来たのは、生徒会の腕章を付けた生徒会長だった。
「しぇ、生徒会長!」
先生は情けない声を漏らしながら反射的に俺から離れその場で土下座する。
生徒に向かって土下座って……。
「佐野くん、久しぶり」
さっきまで安西先生を睨みつけていた玉木先輩が、俺の方を見るなり口元を緩ませる。
玉木先輩とは先週の生徒会室以来なのでリアルでは久しぶりなんだが……俺の妄想の中では毎晩お世話になっているんだよなぁ。(ゲス顔)
「お、お久しぶりです玉木先輩! 文化祭の件では大変お世話になり」
「堅苦しいのはやめなよ。キミとあたしの仲なんだから」
俺と玉木先輩の仲——うん、えっちだ。
俺たちの会話を聞いて、安西先生は目を丸くしていた。
「ふーん、佐野くんは他の女の子も抱いちゃってるんだ」
「な、なんか、すみません!」
「そりゃフリーハグなんだから当たり前だよ。意地悪を言ったかな? ごめんね佐野くん」
玉木先輩は人差し指を立てると、俺の鼻の頭を突いた。
あぁー、もっと玉木先輩に転がされてぇ。
「それで今日はどんな御用件で」
「ちょっと生徒会のお仕事でゆのちゃんの頭を借りたかったんだけど。いないならいいや。フリーハグだけして帰ろっ」
「フリーハグってそんな牛丼チェーンに寄る感覚でするものなんすか」
「いいじゃんっ。佐野くんだってまんざらでもないでしょ?」
「ま、まぁ」
先生の目を憚らず、玉木先輩は俺に身体を寄せる。
「他の女の残り香を、あたしで上書きしてあげる。光栄でしょ?」
「は、はい!」
先生に見られてんのに——なんだこの、新しいプレイ。
身体が重なってすぐ、玉木先輩は俺の鎖骨に額を擦り付ける。
「……佐野くんは先生のこと好きなん?」
「それは無いです」
先輩は小声でそう聞いてきたが、俺は即座に否定した。
「そっか。てっきりロリコンさんかと」
「俺は……の、ノーマルなんで」
「ふーん」
玉木先輩は俺から離れると、軽快な足取りで帰っていく。
「文化祭でどれだけ話題になるか楽しみにしてる。それによっては廃部にするから頑張ってー」
「分かりましたよ。玉木先輩に言われなくても俺たちは」
——ん⁈
——今、廃部とか言わなかったか⁈
「ちょ、廃部って!」
気がついた時には玉木先輩は屋上から姿を消していた。
「廃部⁈」
「佐野くん! この同好会無くなっちゃうんですか⁈」
「おいおい。まさか玉木先輩は」
単に俺たちに優しいんじゃなくて、俺たちを試そうとしている……⁈
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