文化祭に向けて01

 

【第2章に入る前にここまでのあらすじ】


 俺は変態高校生、佐野孔太。


 幼馴染で同級生の桔川ゆのに唆されて始めたフリーハグに夢中になっていた俺は、夜な夜なピンク色の妄想ばかりしており、目が覚めたら……。


 部屋がティッシュまみれになってしまっていた!!


 俺の部屋から異臭がするのが隣の部屋のゆのにバレたら、また恥を晒され危害が及ぶ。

 大家さんの助言でファブ●ーズの大量買いをすることにした俺は、ゆのに多すぎるファブリー●の使用用途を聞かれ、とっさに「夜の自慰が!!!止まらねェ!!!」と答えてしまった。(正直者)

 呆れ返ったゆのの誤解を解くため、俺はゆのの部屋に転がり込んだのだった。


「ゆの、さっきのは誤解だ! 俺は毎晩5回しかしてない」

「何の誤解を解きにきたのよ! もー、晩御飯の支度したいから帰って!」

「んだよ、ファ●リーズと一緒に晩の食材も買ってきたのに」


 俺は持ってきたエコバッグをゆのに差し出す。


「白菜と鶏肉……。意外とまともなんだね」

「久しぶりに鍋にしようぜ。今から箸取ってくるわ」

「ちょっ……。まぁ、いいけど」


 本当は嬉しいくせに。ゆののやつ、正直じゃねーんだから。


 2人で引っ越してきてから、最初の頃こそ一緒に食卓を囲んでいたが、いつしかその光景もなくなって行った。

 クラスに馴染んで友達が多いゆのと、内弁慶陰キャの俺とでは距離が離れて行くのは必然だったのだ。


 ……でも、心理学実験同好会の活動が始まったことで、俺たちはまた昔みたいな関係に戻れた。


「これもフリーハグの賜物だな」


 箸を片手にゆのの部屋に戻ると、ゆのは部屋着にエプロン姿で俺を出迎えてくれた。

 普段と違って髪を後ろに束ねているので、いつもは見えないうなじがよく見える。絶景だ。


「もうすぐできるからちゃぶ台の前で大人しくしててね」

「なんだよ大人しくって。まるで俺が何かするみたいじゃないか!」

「えー? 孔太くんのことだから目を離した隙に私の下着とか盗みそうだしぃ」

「普通に犯罪じゃねーか! しねーよ」

「ふーん?」


 さっきからゆのは懐疑的な目線をこちらに向けてくる。


「な、なんだよその目は!」

「仮に今、私のパンツあげるって言ったら?」

「もらうけど」

「キモっ」


 ゆのはミトンをしながら鍋を持つと、部屋の中央にあるちゃぶ台の前に置いた。

 俺が持ち寄った食材に加えて豆腐やネギ、にんじんが中に入っていた。

 小皿にポン酢を入れてから俺は手を合わせる。


「いただきます」


 うー、パイタンの味が野菜にもよく染みていて美味い。

 さて、次はどうしようか。

 パイタンのメインと言える鶏肉は、まさにラスボス。

 まずは鳥の出汁が染みた野菜で経験値を積んで、レベル上げをせねば。

 鶏肉、お前は最後に頂いてやるからな。


「また脳内で孤独なグ●メやってんの?」

「うん、うまい肉だ。いかにも肉って肉だ」

「はぁ……。それよりせっかくこうやって2人で集まった事だし!」

「家族計画でもするか?」

「しーなーいー! だから夫ヅラしないで!」

「彼氏ヅラからランクアップだな」

「そういう意味はないから! もー、話の腰を折らないで」

「ごめんごめん。で?」

「せっかく集まったんだから今後の予定を決めようと思うの」


 ゆのは食事中にも構わず、お得意のホワイトボードを鞄から取ってくると、ペンを走らせた。


「文化祭で私たちに与えられたスペースが決まりました」

「おい! そんな重要なことさっさと言えよ」

「まあまあ、話は最後まで」

「ん? ……な、なんか嫌な予感がする」

「私たちのスペースは」


 ゆのがホワイトボードをこちらに見せた。

 その瞬間、俺はそれを見て頭を抱えた。


「なんと! なんと! 校舎前でーす!」


 はい、ご近所から白い目で見られるの決定です。

 よりによって1番目につく校舎前って。なんでそんなことになるんだよ!


「いやー白米が進むねー!」

「俺、今からゲロっていいか。この鍋をゲロパイタンにしてやるっ」

「ちょ、孔太くん! やめてよ!」


 俺が鍋に顔を突っ込もうとするとゆのが容赦なく腹パンしてくる。


「余計に吐くようなことすな!」

「私たちにとってこれはチャンスなの! ここで身体を張らないでどうする!」

「フリーハグをやるのは俺なのに、それはタチ悪いぜ」


 こいつは俺がフリーハグしてる隣でニヤけてるだけなんだから気楽でいいよな。

 現場の気持ちがわかってねーぜ。


「新入生たちに面白いと思って貰えばそれでいいから。心理学実験部の命運がかかってるの」

「でもさぁ、流石に校舎前は……」

「実行委員の子によると、玉木先輩が凄い剣幕で頼んでくれたんだって。それも今までにないくらいの」


 あの人が必死になる理由が俺には分かんないのだが……それを出されると、その期待に応えなくちゃいけないし。

 俺はあの日、玉木先輩に言われたことを思い出す。


『あたしはキミのこと、気に入ってるよ』


 ……やっぱ俺のこと好きなんじゃね。


「孔太くん鼻の下伸びてる! 考えてる事が手に取るようにわかるよ」

「むしろ失敗して玉木先輩に嬲られたいなぁ」

「もー、今はMに目覚めなくていいから! 成功して、玉木先輩に褒められたいでしょ?」

「ま、まぁ」

「ならやるの、分かった」

「アイコピー」

「よしっ」


 こうして俺たちは、本格的に文化祭準備に取り掛かることになった。

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