心理学実験同好会へようこそ
夕日の下、夏風で委員長の黒髪が揺れる。
「あ、あなたが……私の家を知ってるなんて。別に嬉しいとかじゃないんだけれど、急に来られると、び、びっくりするっていうか」
委員長はあれこれ言って誤魔化そうとしているが。
俺は青い袋に目を落とす。
「そ、その袋……」
「袋がどうかしたの?」
アニオタなら誰でも同志だと認識できるその袋を持ってるってのはそういうことなんじゃないのかよ⁈
「これはお母様に頼まれて"お豆腐"を買いに行ったのだけれど、急なことでエコバックがなかったから」
豆腐……だと、何かの隠語か?
と、豆腐、腐………。
腐向け……⁈
委員長、俺は分かったぜ。
あんたが実は腐女子だってことをよ。
俺が勝手に勘繰ってニタニタしていると、委員長が不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「よくわからないけど、私に用があったからここに来たのでしょ? 鞄も持ってないようだし、急ぎで追ってきたの?」
「そうだった! 俺はこれを届けに」
俺は右ポケットから落とし物の鍵を取り出して委員長に差し出した。
「廊下で話した時に落としたみたいだったから」
「……これは、私の大切な鍵。もし失くしてたら凄い焦った。ありがとう、佐野くん」
委員長が珍しく笑顔を見せた。
委員長って、笑うとこんなにも印象変わるのか。
「えっと……家の鍵?」
「ううん、これは——」
その時、南雲家の大きな門が少しだけ開いた。
近所の中学のジャージを着たサイドテールの女の子がひょっこり顔を出す。
「おねーちゃん、お母さんが味噌汁作れんから早くしてって…………あ、こ、こんにちは」
俺に気が付いて会釈する女の子。
どうやら委員長の妹らしい。
「佐野くん、わざわざ届けてくれてありがとう。……何かお礼ができたらいいのだけど」
「別にいいよ。それより早く行ってあげて」
「ごめんなさい。じゃあ、また明日」
委員長は妹さんと門の奥へと入って行った。
委員長の妹さんも委員長に似てべっぴんさんだったな。
まぁ、ロリには興味がないのだが。
俺は要塞みたいな南雲家を眺めながら高校への帰路を辿った。
✳︎✳︎
鞄を取りに屋上へ戻ると、ゆのと先生が何やら話し込んでいた。
こいつらへの怒りが吹っ飛ぶくらい、色々と疲れていた。
生徒会長に野獣の眼光を向けられ、校長には激しく抱かれ、委員長が腐女子だと知り、刺激的な一日だったな。
「ただいま」
「孔太くん、ちゃんと罪を償えたんだね。ぐすんっ」
「お勤めご苦労様です」
「務所帰りみたいな扱いすんな! 全部お前らのせいだろーが!」
「まぁまぁそう怒らないでさ、私と先生が和解できたことだし、ここは3人で乾杯しよう!」
ロリ嫌いのゆのと和解するとか、安西先生凄いなぁ。
「どうやって和解したんですか?」と、俺は小声で先生に聞いたが、「ナイショ」とはぐらかされてしまった。
一体どんな交渉をしたんだよ。
ゆのが3人分の紙コップを取り出し、買ったばかりで汗をかいているオレンジジュースを紙コップに注いだ。
「私はワ●カップ大●があるので大丈夫です」
「教師がなんてもん持ち歩いてんだ!」
「あー、私のO関返してー」
俺は先生からワ●カップを取り上げるが、先生は即座に取り返して自分の紙コップだけにO関を注いだ。
おいおいまだ勤務時間内なのに大丈夫なのか?
「さぁ我々、心理学実験部の本格始動ということで! まずは文化祭に向けてー、頑張るぞー!」
「「……」」
「そこはおーっ、て言うところじゃん! あ、先生! 何も言わずに一気飲みしないでください!」
「こっちはお前ほどテンション高くないんだよ」
「そんなー」
俺たちが言い合ってる隣で、先生の顔がどんどん真っ赤になっていく。
「ちょ、先生大丈夫っすか」
「こっ、こーたきゅーん、膝の上すわらせてー」
「あ、これダメなやつだ」
先生が俺の足の中に座り、背中を預けてくる。
「ここわぁ、これから私のとくとーせきねー」
「だ、ダメです! 先生、孔太くんから離れてください!」
「やーだー」
「離れてー!」
「おい揺らすな! 頭がクラクラするだろ!」
騒がしい奴らばかりの心理学実験同好会。
今はまだゆのと俺、顧問の安西先生しかいないけど、これからもっと増やせていけたら……なんてな。
相変わらず2人とも頭がイカれてるけど、なんだかんだで一緒にいると楽しいかもしれない。
【1章 終了】
今後も頑張って毎日投稿するので、ブックマークとよろしければ、評価の☆☆☆を★★★にしていただいて、いいねをいただたら嬉しいです。
あと新作『ファーストキスの相手と結婚しなければならない社長令嬢と、目つきが悪くてぼっちの俺のペットボトル1本から始まる初々しい恋愛。』https://kakuyomu.jp/works/16817139556677836792/episodes/16817139556679459015
も、よろしくお願いします。
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