文化祭準備でも抱きたい
文化祭を次のゴールに設定した翌日。
心理学実験同好会の俺たちはフリーハグのスペースを確保するべく、生徒会室の前まで来ていた。
「ちょっと待てい!」
「どーしたの孔太くん。ノブは本人が面白いだけで、第三者の真似は寒いよ」
「俺は大吾のつもりで言ったんだが……そんなことより! 文化祭は実行委員会が主導なのに、なんで生徒会室なんだよ!」
「だって……玉木先輩にお力添えいただいた方がスムーズに事が進むし」
「お前なぁ。ただでさえこんなクソみたいな同好会が実験の許可を貰えてるのすら奇跡だってのに、図々しいにも程があるだろ」
「うるさいなぁー! 部長はわたしなんだから従えよ」
急に口悪いなあ。
そのうち『このハゲーッ!』って言わなければいいが。
「じゃー入るよー」
「へいへい」
ゆのが生徒会室のドアをノックする。
「失礼しますっ」
生徒会室のドアだけ引き戸じゃなくてやけにしっかりした開き戸なのが、流石と言うべきなのか……。
生徒会室内では生徒会長がゲーミングチェアにふんぞり返りながらスマホを弄っていた。
校長が座る系の書斎椅子だと思っていたが、やけにサブカルチックなんだな。
部屋の中の物もテレビとレトロゲーム機、漫画や雑誌などが乱雑に置かれていて、申し訳程度に会議に使う長机の周りだけは片付けられていた。
「どうしたのおふたりさん? もしかしてフリーハグの訪問販売?」
「そんなサービスは無いですから」
「あたし今日は忙しくてさぁ。屋上に行けそうもなかったから困ってたんだよね」
「なんでフリーハグがライフラインになってるんすか」
生徒会長は金髪に混ざる赤メッシュだけを指に絡ませてくるくると弄っている。
「訪問販売じゃないなら何か用があるんでしょ? 心理学実験同好会を部活動にして欲しいとか?」
「してくれるんですか⁈」
食い気味でゆのが生徒会長に迫る。
おいおい当初の目的を見失ってるぞ。
玉木先輩はその妖艶な手で顎を撫でながら考える。
「そうだなぁー。佐野くんを生徒会にくれるなら、部活動にしてあげてもいいよ」
「それはダメです」
「即決かよ。俺、玉木先輩の犬になりたいから売ってくれ」
「佐野孔太はうちの副部長であり、彼は私の!」
「私の?」
「わ、私の…………し、親友! なので」
ゆの……お前。
嬉しいこと言ってくれるじゃねーか。
そんなにも俺を手放したくないのか。
「なーんだおふたりさんはもう付き合ってると思ってたけど……親友ねぇ」
「はい! 孔太くんはキモいし、そもそもタイプじゃ無いので」
「10秒前の感動を返してくれ」
一瞬でも「ゆのってやっぱ俺のこと好きやん」って思った俺が馬鹿だった。
玉木先輩は椅子から立ち上がると、ゆのの前に仁王立ちする。
「さっきのは冗談だよ。佐野くんは目つきがいやらしいし、要らない!」
「ですよね! 孔太くんキモいですもんね!」
散々な言われよう……ごめん、泣いていい?
「ま、部員が4名以下だと部活になれないのは生徒会長のあたしが決めたことだしー、揺るがないかな。トップに立つ人間として、意見を変えるつもりはないから」
玉木先輩はいつもヤンキーチックでチャラチャラしてるイメージがあったが、生徒会長として確固たる意志を持っているようだ。
「私たちはその部員集めのためにも文化祭でフリーハグをやりたいんです!」
「文化祭で……?」
「はい。今のまま校内でフリーハグを行ってるだけではサンプルが足りないんです。調査範囲を広くして、多くのサンプルを集めたくて」
「それで?」
「どうかお力添えを」
「ダメ。自分たちでどうにかしたら?」
恐ろしくも速い即答。
玉木先輩は俺たちには優しいイメージがあったが……急に冷たいな。
「お願いします! 今からの申請だと、もうスペースを貰えないんです!」
「それはキミたちの失態であって、私が手助けする筋合いは無いよね?」
「そ、それはそうですけど……そこをなんとか! 来年の入学生を囲い込むためにも必要なことで! 孔太くんもあげますから!」
「おい! この裏切り者ッ」
ガチで追い込まれたからって、こんな簡単に俺を売るとは……。
「ダメ。あと佐野くんは要らないから」
「玉木先輩、これ以上俺にバーサーカーソウルするのやめて貰えますか。ライフ0なんで」
「生徒会長! お願いします! 力を貸してください!」
ゆのは土下座する勢いで玉木先輩の前に跪く。
すると、玉木先輩はゆのを舐めるような目で上から見下ろした。
「桔川さんって、いい身体してるよね」
「え?」
「頼み事があるなら、その身体で払ってもらおうかなぁ」
それを聞いたゆのは、腕で胸元を覆った。
「身体で」って言われた瞬間、胸の心配をするのがなんかえろい(ゲス顔)。
「今日のハグはゆのちゃん指名しちゃおっかなぁ」
「わ、わたしが、ハグに応じたら、力を貸して貰えるんですか?」
「少し考えてあげる。だから、おいで」
俺は、玉木先輩の手招きに応じるしかないゆのをただ見ていることしかできなかった。
「うわぁ、後ろからみてもこんなに大きいんだぁ」
「や、やめてっ。そんなこと言わないでくださいっ」
「だーめ。今はあたしに逆らうことはできないよ」
玉木先輩はゆのに背後から抱きついて、そのまま2つのメロンを鷲掴みにする。
「あっ……んん——ッ」
え、えちちちちちちぃぃぃッッ!(点火)
お、オデモ、オデモ混ぜてくれッッ!
唾液がエメラルドスプラッシュするくらい分泌される。
俺はルパンダイブしそうになる体を必死に抑えた。
ゆ、百合に挟まってはならない。俺は藤●みたいになりたくないからな!(戒め)
そこから数分間、玉木先輩のいやらしい手つきに耐えたゆのの足は、既にガタガタになっていた。
「ふうー、堪能したぁ。大きい子の身体って柔らかいよねぇ」
「ごめん孔太くん……わたしの身体、汚されちゃった」
「悲しくて興奮できない系NT●ヒロインみたいなセリフを吐くな」
「まぁ……でもやっぱり佐野くんかなぁ」
「え? それって」
「佐野くんの方が身長的に体を預けやすいって意味だから」
「そ、そっすか」
玉木先輩は満足気な顔でゲーミングチェアに座った。
ゆのは「ちょっとトイレ」と言い残してガクガクの身体で生徒会室から出て行った。
「ゆのちゃんが身体張ってくれた訳だし、実行委員会にはあたしの方から言っておいてあげる」
「本当にいいんですか玉木先輩? こんなことで自分の意思曲げちゃって」
「キミはゆのちゃんの仲間なんだから喜びなよ。ちょっと意地悪言ったけど、最初から協力するつもりだったしねー」
玉木先輩は悪戯っ子みたいに無邪気な笑顔を俺に向けた。
この前の時みたいに不良っぽいところあるけど、俺たちの前だとだいぶ柔らかい表情を見せるよな。
「玉木先輩、こんなヤバそうな部活のことを変に気に入らないでください。ゆののやつ調子に乗ってもっとヤバい要求するかもしれないし、それに」
「あたしはキミのこと、気に入ってるよ」
「……え」
玉木先輩が指を鳴らすと、どこからか三毛猫が部屋に飛び込んできた。
よく見ると、その三毛猫はペンを咥えている。
「この子はシャテー。あたしの飼い猫」
「へ、へぇ(舎弟……?)」
「あたしはこの後、書類整理の仕事があるからもう出て行って貰える?」
玉木先輩は猫から受け取ったペンを回しながら、鋭い目線を送った。
またその目……。
「玉木先輩、色々とありがとうございました。失礼します」
俺は生徒会室を後にする。
色々と解決したような、していないような。
文化祭に向けて一歩前進したが、モヤモヤがさらに増えたようだった。
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