クール委員長を抱きたい03
「なんで……あんたが」
突如、屋上に現れたのは、何を隠そう——
「ウッス! ラグビー部の田中っす!」
美女、じゃなかった。
そこは普通、次なる美女が入ってきて、もっとウハウハになる展開だろーがッ!
「田中ちゃん来てくれてありがとー」
「は、はい!」
んだよ、ゆのとは親交あるのか。
ラグビー部の田中は親が相撲レスラーで、その地を受け継いだからか、ガタイが既にプロラグビー選手並みにいい。
肩幅も俺の2倍くらいあって、今にも破れそうなくらいパツパツな制服を着ていて、ついてに顔もデカい。イケメンでもない。
でもモテる。そこが腹立つ。
「オレ明日大会で、まだ緊張してて……できれば佐野くんにハグ、して欲しいっす」
俺にハグされて落ち着くわけねーだろが。
「ほら孔太くん。フリーハグ担当なんだからさっさとやって」
「はいはい」
俺は甘く見ていた。フリーハグをすれば美少女とハグしながらハーレムを築いて、ウッハウハになると思っていた。
でも、これが現実だ。
「行くっすよ——ッ」
田中はそのデカすぎる体躯を俺の華奢な身体に重ねる。
あぁー、玉木先輩の温もりが汗くさラグビー部に上書きされて、イクぅぅぅぅううう。
サヨナラ……玉木先輩の温もりと感触。
サヨナラ、今晩のお供……。
俺の意識が戻った時、田中が満足気な顔をして屋上を出て行った。
「田中ちゃんのハグ、なんか凄かったね。漫画にしたら間違いなく激写タッチになるよ」
「あ、あぁ」
「必勝祈願にフリーハグ……そういう人もいるんだね」
「……なぁゆの。提案があるんだが、フリーハグを分担しないか? 女子は俺、男子はお前って感じで。男子はお前が担当した方が嬉しいだろうし」
「ダメに決まってるじゃん! そもそもこれは慈善活動じゃなくて実験! 誰かの為じゃない、心理学実験部の為にやるの!」
「えー」
「やるのよ孔太くん」
「お前、昨日エ●ァで夜ふかししただろ。さっきからNER●の上司みたいになってるが」
「あんたバカァ?」
「今時、●ヴァネタはキツいし寒いぞ」
ゆのとクッソ寒い漫才をしていると、また屋上のドアが開いた。
ドアに背を向けていた俺は、さっきのトラウマから振り向くのを辞めた。
「へいへい、次は野球部? それとも柔道部か?」
「こ、ここ、孔太くん」
「どした?」
「う、後ろ」
振り向くと、そこには。
「……佐野くん」
そこにいたのはゴリゴリ野球部でもムチムチ柔道部でもなく。
可憐な一輪の花、大和撫子。
「委員長……」
俺は朝のことを思い出す。
委員長は反対派っぽい雰囲気だったよな。
「桔川さん。少しだけ外してもらえるかしら」
「私は心理学実験同好会の部長だから、席を外すのは」
「ゆの、外してくれ」
「でも」
「大丈夫だからっ」
「……っ」
ゆのはそれ以上何も言わず、心配そうな顔で屋上を後にした。
俺と1対1で話したい……ってことは、ゆのみたいな頭のキレるやつがいると都合が悪いってことだよな。
つまり、フリーハグ
「委員長。お、俺たちは生徒会長に認められて活動してるっていうか」
せっかく玉木先輩に認められたんだ。
俺は……辞めたくない!(直訳:まだ玉木先輩抱きてぇぇええ)
「俺は、ぜんぜん辞めるつもりは無くて!」
「……してほしいのだけど」
「は?」
委員長は目を逸らしながらその小さな口を開く。
「わ、私も、フリーハグ……しに来たのだけど」
(/ ᐛ)/ ぱぁ⁈
「今、なんて?」
「……何度も言わせないで。私は、フリーハグをしにきたの」
…………え?
「だって委員長は反対派で」
「反対派……? 何の?」
俺の勘違いだったのか?
「……ダメなら、もう帰るわ」
「そ、そんなことない! やる、やるから!」
えっと、脳の処理が追いつかないのだが。
委員長は全然反対派とかじゃなくて、フリーハグをしに来たと。
……なんで?
委員長は恥じらいながらも、俺との距離を縮める。
クールで他人に無関心そうな委員長が……ハグ⁈
「……来て、佐野くん」
俺は生唾を飲み込み、委員長を抱き寄せる。
これはまた、新鮮な感覚ッ。
俺の胸板に顔が来る玉木先輩と違って、委員長は身長が高く、委員長の黒く長い髪が俺の頬に触れる。
香水?の香りも、シトラスの爽やかな香りがして、股間が疼く。
総じて言えるのが、女の子って柔らかい。
これ以上強く抱きしめたら、泡となって消えてしまいそうなくらい……。
「佐野くん。もう、いいから」
「ご、ごめん委員長」
委員長に言われて、俺はいつもより長く抱いていたことを自覚する。
時間を忘れてしまうくらい、委員長の抱き心地が良かった。
俺としたことが、下手したらそのままキスに移行しそうなレベルでときめいてしまった……。(童貞)
「あのさ、委員長はなんでフリーハグをしようと思ったの?」
「別に、したいから来たとかじゃなくて……試しに来てあげただけ。誰も来なかったら、あなたが可哀想だと思ったから」
「ちなみに、ゆのに外すよう言ったのは?」
「……恥ずかしいから」
ほほーん(ゲス顔)。
「な、なに? その顔やめて」
「ゆのがいたら恥ずかしいなんて、委員長も乙女なんだなぁって」
「……もう帰るから」
委員長は不機嫌そうに屋上から出て行った。
最後の一言は余計だったかな。(陰キャ特有の反省会)
委員長と入れ替わるようにゆのが帰ってくる。
「孔太くん! 大丈夫だった⁈」
「あぁ……今晩はフルコースだぜ」
舌舐めずりをしたらゆのに腹パンされる。
容赦ないなぁ。
「で、委員長は何しに来たの? やっぱりフリーハグ?」
「そうみたいだが」
「……面白くなってきたわね」
ゆのは含み笑いを浮かべる。
「無駄に強キャラ感出すな」
「だってあの委員長だよ⁈ 彼女がフリーハグに来るなんて何かあるに決まってんじゃん!」
「委員長自身は、情けで来てくれたみたいだが」
「そんなのウソだよ! 孔太くんみたいなキモ男子とハグしたいとか有り得ないし!」
「グッ! 正論すぎて股間が」
「ほらさっそくキモいし」
実際、ゆのの言う通りなんだよな。
玉木先輩といい、なんで俺みたいなキモ男子とハグを。
いや、案外キモ男子では無いのでは?
「キモ男子だよ」
「勝手に他人の脳内を読むな」
「とにかく今はこのフリーハグ実験を続けていずれ報告会をするの。実験が認められたら同好会から部活になれるかもだし!」
「お前の中ではとっくに部活だったんじゃないのか?」
「現実から目を背けてはダメよ、孔太くん」
「だから声を三石さんに寄せるな」
「でもね、そもそも部員を集めない限り部活にはなれないの」
「当たり前だろ」
「そこで! 私は考えました!」
「急に大声出すな」
ゆのは背中に掲げているホワイトボードに何かを書き足した。
「今月末、虹高の3大行事の一つ、真夏の文化祭があります」
「そうだな」
「そこで、一般人も対象にしたフリーハグを開催! この高校を目指す中学生たちとフリーハグをすれば来年は部員がバンバン来るの!」
「そんな安直な」
「そうと決まれば明日実行委員会に許可取りに行こー!」
ただでさえ校内では異端児だってのに、このままだと近所の皆様にも異端児認定されちまう。
「文化祭、やるぞー!」
「……おー」
✳︎✳︎
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます