クール委員長を抱きたい01

 

 玉木先輩を抱いた日の夜(意味深)のことはあまり覚えていない。

 ただ、朝目が覚めたら、ゴミ箱がパンパンになっていたことだけは確かだ。(意味深)


 さて、気持ちの良い朝を迎えたことだし、ここで俺のことを話しておこう。


 俺の名前は佐野孔太、16歳。

 島で産まれ育った俺は、今年から都会にある私立高校の虹村咲高校に入学した。

 ちなみに幼馴染の桔川ゆのも、同じ船に乗ってこの高校に来た。


 田舎者で根が陰キャの俺に気軽に話しかけられる友達なんてできる訳もなく、入学して3ヶ月が経つが、友達はゆのしかいない。

 一方ゆのの方は、頭も良くてクラスメイトの前ではおっとり系優等生を演じていることから、いやでも周りに人が群がってくる。

 それを羨ましい……とは思わないところが陰キャなのかもしれないが。


 朝支度を済ませ、洗濯物を干してから部屋を出る。

 コーポの隣の部屋に住んでいるゆのをドアベルで起こす。


「……おわぁよ〜」


 あくびをしながらドアを開けるゆの。

 『恵体』の文字が真ん中に書かれた白T(昨年の俺の誕プレ)をパジャマ代わりとして着ている。

 Tシャツが、真ん中から張り裂けそうなくらい胸の主張が凄い。(朝から刺激的過ぎるからやめてくれ)


「起きたなら早く支度しろよ。俺は先に行くから」

「孔太くんはせっかちだなぁ〜」

「お前がのんびり過ぎるんだよ! それと、ちゃんと髪も梳かしてから来いよ。つーか、いい加減髪切ったらどうだ?」

「もー孔太くんったら。——そうやってすぐ彼氏面しないで」

「へー? そんなこと言っていいのか? 明日から起こさないけど」

「え⁈ ごめんなさい! あ、謝るから毎日起こして。わたし——孔太くんがいないとダメダメだからっ」

「お前の方こそ依存系彼女面すんなよ」


 毎朝のように起こしに来てやってんのになんだあの態度は。

 けしからん巨乳だ。


「孔太くんっ、先に行かんといて」

「だから彼女面すんな。俺日直だし、早く行かねーと。また後でなー」

「……う、うん」


 ——とまぁ、朝はいつもこんな感じ。

 だいたい、寝起きで機嫌が悪いゆのと喧嘩をしてから登校するのだ。


 ✳︎✳︎


 1年生の教室は4階にあるので、毎日4階まで登るのは心底疲れる。

 早く3年になって楽をしたいものだな。


 ——さて、まずは教室の鍵を職員室に貰いに行かないと。


 職員室の引き戸に手をかけたちょうどその時、勝手にドアが開いた。


「失礼しました」


 職員室から出てきたのは——。


「い、委員長。おはようございます」


 俺のクラスの委員長、南雲花香なぐもはなか

 普段から寡黙であり、小顔で艶のある長い黒髪とSっ気のあるつり目が特徴的な大和撫子。

 佇まいがとても上品で、見た目からも和服が似合いそう……と勝手に思っている。


「えっと、委員長も日直だっけ?」


 委員長は不機嫌そうな顔で頷く。

 お、俺みたいなキモブタが話しかけたから気分を害したのかな? だとしたら申し訳ないが……ブヒィ↓。

 ——その後は花瓶の水を替えたり、黒板のチョークを整えたりして日直の朝仕事を終わらせる。

 あとは日直の黒いのを時間ごとに書くだけなのだが——委員長が持ってるみたいだし、頼んでもいいかな。


 そう思った時、俺の机の前に委員長が歩いて来た。

 あぁ、黒いのを書けってことかな。

 そりゃ暇人の俺なんかより委員長の方が忙しいわけだし……俺がやるべきだよな。


「……佐野くん、あなた、は」

「ご、ごめん! 黒いのを書くのは俺がやるよ!」


 俺は委員長の手の中にある黒いのを受け取って、シャーペンを懐から取り出す。


「え? ちがっ」

「もう朝のやることは終わったし、席に戻っても大丈夫だよ、委員長」

「……そ、そう」


 やけに渋い顔しながら自分の席に戻る委員長。

 俺が察し悪いから、怒らせちゃったかな。

 まて、よく考えたら俺が「大丈夫だよ」とか委員長に対して命令みたいに……おこがましい。何やってんだ俺!

 ——とまぁ、陰キャ特有の発言反省会を脳内で繰り広げ、朝の時間を過ごした。


 それにしてもやけに陽キャたちから冷たい目線を向けられているような。

 後ろの席のギャルコンビや陽キャ男子グループが小声で俺の名前を出しているのが痛いくらい分かる。

 原因は例のフリーハグだろう。


「孔太くんおはよっ」


 ゆのがご機嫌な声で教室に入ってくる。

 この女……さっきまでボッサボサの髪だったのに。


「ね、朝のこと怒ってる?」

「怒ってねぇって」

「でも、顔怖いよ」

「……正直言って、怒ってはいる」

「何で?」

「んなのアレのことに決まってんだろ!」

「アレ?」

「もういい! お前はさっさと陽キャグループの方行けよっ」


 俺が追い払うと、ゆのはポカンとしながら行ってしまった。

 あいつ、昨日フリーハグ画像が出回ったことを忘れたのか?

 ゆのは陽キャグループのギャル2人から、俺がフリーハグをしていることについて色々と聞かれていた。


「孔太くんは部活動の一環でやってるんだよー」


 おい、強制的にやらされたんだが。


「えーなんそれー。それならゆのがやったほうが人来るんじゃねー? おっぱい目当てでさー」

「それなー。ゆのもやりなよー」

「えー、わたしは恥ずかしいから無理だよー」


 恥ずかしいという自覚がありながら、俺にやらせてるのかあいつは。

 しかしながら、俺はフリーハグのおかげで生徒会長を抱けた。その事実がある以上、俺はこの教室にいる全男子より先に行っている。


 残念だったな陽キャども! 俺は恥を捨て、生徒会長の身体を奪った!

 お前たちには一生無理なことを成し遂げたんだよ俺はッ!


 俺は脳内で優越感に浸る。

 こんな風に一人でニタニタしていたら、机の前に誰かが来た。


 ——また委員長だ。


「どうしたの、委員長?」

「ほ、放課後!」


 委員長が喋り出した瞬間——。


「孔太くーん! って、委員長?」


 委員長が話し始めた時、最悪のタイミングでゆのが戻ってきた。

 なんでこいつは会話してる最中にぶった斬って入ってくるかなぁ。


「そっか、日直だもんね。話続けて続けて」

「あ、別に……。放課後に、黒いのを担任の先生に届けるの、頼んでいいかしら?」

「う、うん」


 委員長はそれだけ言ってまた自分の席に座り直した。

 何か、言いたげな表情だったが……。

 今の俺に汚点があるとしたらフリーハグ。

 フリーハグを辞めるように注意しに来た、とか?


 だとしたらまずいな、どうやら委員長は怒ると怖そうだし……。

 実際、委員長に睨まれて失神した女子生徒がいたそうな。


 いつの間にか先程の優越感を忘れ、恐怖に震えながら、俺は2日目のフリーハグを決行する。

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