花冠をその火で燃やせば

 鬱。

 よくわかんないや。

 私の友達に一人、鬱だ鬱だって言ってる子がいるけど、多分鬱じゃないよね。本人はつまらないように演じてるけど、心の中では楽しそうだし。笑顔が咲くってことは、鬱じゃないよね。

 と、ここでスマホを確認。夜更かしする悪い子が、私の数少ない友達だからね。朝起きたらその子からのラインを確認するのが、毎朝の楽しみでもあるんだよね。


「……ふふっ」


 笑っちゃうなあ。毎日鬱々言ってるのに、本当はただの寂しがり屋さんだもの。かわいい所だねえ。

 おや、グループラインの方にも何か送ってる。三人しかいないグループライン、昨日の夜11時から今朝の時刻7時までに、このグループで発言しているのは一人だけ。かまってあげたいけど、睡眠が優先だからねえ。せめて今からでも。

 この子は夜更かしする癖に朝は早いんだよね。きちんと寝てるのかな?なんて思いながら、グループラインにチャットを送る。

 するとすぐに既読が付いた。今までずっと反応を待っていたのかな。

 だけど、既読をつけたのは寂しがり屋じゃない方。軽くグループ内で会話を済ませたら、私はスマホをスリープして、ベッドから降りた。朝だからね、支度をしないと。

 顔を洗って、歯を磨いて。母さんが朝ご飯を作り終える前に着替えちゃおう。

 という事で、私は着替え終わった。学校に行くのは面倒くさいけど、友達とあえるのはとっても嬉しい。二人しかいないけど、私はその二人が大好きだから、数なんて関係ない。

 ……あれ?おかしいな。

 二人の顔が思い出せない。なんでだろう。あれ?

 声が思い出せない、名前も思い出せない。なんでだろ、大親友なのに。大好きなのに。大ボケにもほどがある。

 あれあれ?なんだか段々、いろいろなものを忘れて行ってる気がする。

 思い出そうとしても、もう消えているから思い出せない。


「あれ?あれ?あれ?」


 記憶がどんどん消えていく。なのに、どんどん思い出していく。今まで覚えてもいなかったことを、私の脳はどんどんと思い出していく。

 そしてそれが、消えていく。

 止めようとしても無駄。記憶の濁流が、滝となって落ちていく。それは記憶の底なのか、それとも記憶の外なのか。

 やめて、やめて。それでも記憶は消えていく。あの日の事を、あの時の事を。

 私のキャンバスは、白一色になってしまった。

 そしてその白を水で流せば。


「……っと、いけないいけない」


 何をボーっとしてたんだろ。早くしないと遅刻しちゃうよ。

 今何時だろ、と思ってスマホを確認。ロック画面には、数件のラインの通知が。


「こんな朝っぱらから……誰だろ」


 ラインを開いてみると、そこは知らないグループ。知らない人たちのやり取りが。


「誰だろ……」


 涙が出てきた。

 何故だかは分らないけど、涙が私の頬を伝っている。


「…………あれ?」


 気が付けば、玄関の前。なんだったんだろ。


「いってきまーす」


 そうして、今日も一日が始まる。

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