第117話 隣国王女視点5 偏屈爺さんに襲われたのに、誰も庇ってくれませんでした
私は偏屈老人の雷撃を食らっても何とか生きていた。体中黒焦げで痙攣していたが。
気がつくと王宮の客室で寝ていた。
「殿下、大丈夫ですか」
スカンディーナから付いてきてくれた伯爵令嬢のロヴィーサが看病してくれたらしい。
聖女がヒールをかけてくれたらしく、どこも傷は残っていなかった。
「あのクソジジイ、本当に許せませんよね。直ちに本国からクレームを入れてもらわないと」
ロヴィーサは言ってくれたが、やってきたスカンディーナの大使は、困惑顔だった。そして、来て早々、追い出されるように王宮を出たのだ。
「当然王国にはクレームを入れましたが、王宮からは殿下の対応が悪かったのではないかと返されまして」
「何ですって! 私はスカンディーナの王女なのよ。それを魔術師風情が攻撃してきて、何故私が言われないといけないのよ」
私は切れていた。私は王女なのだ。平民のアンとは違う。その王女が王宮で襲われたのに謝罪も無いとは何事だ。
「そもそも、殿下は許可もなく王宮を歩かれて立入禁止地域に入られたのです」
「そんな、聖女と一緒だったじゃない」
「聖女も含めてです。あの魔術の塔は王宮の中でも機密の多い所で一般人は立ち入りが禁じられていると」
「でも、誰も静止しなかったわよ」
「その結果がこれだと言われました」
「そんな! 普通は前もって言ってよ」
私は当然の文句を言った。
「王国としては、殿下の留学は特例措置で受け入れただけであって、これ以上問題を起こされると退学もあり得ると言われたのですが・・・・」
「何ですって、それとこれは別でしょう。王宮で襲われたのに、何故王族が一人も見舞いに来ないのよ。それもこんなふうに逃げるように王宮を出るなんて」
私は怒りが収まらなかった。
「外務卿が言われるには、大魔術師はこの王国では腫れ物扱いなのだそうです。皆避けているのに、わざわざ喧嘩を売りに行った殿下が悪いと言われました」
「な、何ですって」
私は更に切れた。
「そもそも我が摂政殿下は大魔術師の弟子だったそうです」
「父上が、あの偏屈爺さんの?」
「そして、元王妃殿下は大魔術師が一番可愛がっていた弟子だったようで、それに罰を与えられた殿下を未だに大魔術師は許していないと」
そうか。それで父の名を出した時に爺さんは怒り出したのか。
でも、娘の私とは何の関係もないのでは?
「これ以上問題を起こさないでください」
私が文句を言っても大使は取り上げてくれなかった。
聖女に文句を言ったら、
「うーん、あの爺さんは無理。あの爺さんを見た時に逃げなかった私達が悪いわ。昔、本当に酷い目に合わされたのよね」
あっけらかんと言われたが、そういうことは行く前に言えよ、と私は思った。
「ごめんね。忘れていた」
この国の聖女は馬鹿だという事がよく判った。動物でさえ、昔、酷い目にあわされた奴のことは覚えて避けるのに、忘れているとは。こいつは本当に馬鹿だ。
聞く所によると爺さんは王妃や大司教にさえ、牙を剥くらしい。
嵐にあったと思って忘れるしか無いわよ。そういう聖女は本当にお気楽だ。
そして、次にやってきた外務卿の息子はもっと他人事だった。
「殿下。王宮の裏庭には悪魔が住んでいるのです。しばらく、王宮に出入りは禁止です」
「な、何でよ」
「あなた、悪魔に喧嘩を売ったのですよ。次に会ったら殺されかねません。自分の身が可愛くないのですか?」
自国の大魔術師をそこまで言うかと思わないでも無かったが、聞いたところ、こいつの父の外務卿も、昔、爺さんに攻撃されて命からがら逃げ帰ったらしい。2年間は王宮に出入りも禁止されたと。
「そんなことより殿下、数学の勉強ですが」
「えっ、また?」
私は嫌になった。なんでこの歳になってまで勉強しなければならないのだ。
「またとはなんです。またとは! あなたを退学にさせたいやつはこの王国に嫌ほどいるのですぞ。赤点はなんとしても回避しなければなりません」
「本当に皆、こんな難しい問題解いているの? スカンディーナの学園にはなかったわよ」
「えっ? これは中等部の問題です。学園の生徒ならば誰でも解けるはずです。あの聖女ですら解ける問題ですから」
「えっ、あのおバカの聖女が?」
私には信じられなかった。XとかYとか訳の判らない記号が教科書に散乱していて、本当にやる気がないのだが、あの聖女よりも馬鹿と言われるのは流石にまずい。
しかし、私のやる気は10分後にはなくなっていた。でも、マックスはそれから延々2時間、私に勉強を強制したのだった。
そんな馬鹿な! 天才魔術師と呼ばれた私が、よぼよぼ爺さんの不意打ち攻撃にやられ、なおかつ、ここで訳の判らない数学の勉強をさせられるなど、絶対にこの国の教育はおかしいぞ!
私の心の叫びはあっさりとマックスには無視されてしまった!
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