第118話 隣国王女達の口撃を、親友たちが寄ってたかってぶっ潰してくれました
翌朝、私は朝食をエルダとイングリッドと一緒に食べていた。
相も変わらず、私の食器の上は食べ物が満載だ。だって朝はたくさん食べないと!
朝練を終えた騎士候補生のアルフ達と同じ量だ。エルダとイングリッドの倍はある。
もう二人は慣れているのか諦めたのか何も言わないんだけど。私の食器を見て、ため息を付くのは止めてほしいんだけど・・・・
「何かアンの食器見ているだけで、胸焼けしてきて、お腹がいっぱいになって来るんだけど」
そう言えば、少し前に珍しく早めに起きてきたメリーに言われたことを思い出していた。
そんな時だ。
ダンッ
大きな音がして食堂の扉が勢いよく開けられて、勢いよく一団が入ってきたのだ。
見るとB組の女性陣だ。王女を中心に一団となっている。凄い、10人くらいいる。その中にはピンク頭もいた。
どこに行くのかなと見ていると、
「あっ、いました」
先頭は確かレーア・ヨンソン伯爵令嬢だったと思われる女が、目ざとくこちらを見つけたまっすぐにこちらに来るのだ。
ええええ! こっちに来る!
私一人ではないし、イングリッドにでも用があるんだろうか?
一団が私達の前で止まって王女が前に出てきたのだ。これは絶対に面倒事だ。私はうんざりした。
「そこの平民のアンさん。あなた平民のくせにこの国の王太子殿下に近づき過ぎではないこと」
王女が私を指さしていってきたのだ。
「えっ、私?」
私は唖然とした。それは私は平民のアンだし、王太子殿下の横にいるのはよくないとは思うけど、何しろ私がフィル様の婚約者だと、フィル様自体が言いはるし、離してくれないのもフィル様だ。そもそも、関係ないあんたに言われたくないと私が話そうとした時だ。
「あああら、誰かと思えば、一昨日、我が国の大魔術師様を怒らせて、雷撃食らって王宮出入り禁止になったテレーサさんではありませんか」
いきなりイングリツドの嫌味が炸裂した。
「何ですって。この国の侯爵令嬢風情が隣国の王女の私に楯突くの?」
「何を言っているか判らないけど、ここは王立学園よ。身分についてとやかくいうのはご法度。そんな常識も知らないの?」
馬鹿にしたように王女に対してイングリッドが言い切った。
「イングリッドさん。あなた、隣国の王女殿下にその言葉使いは酷いのではなくて」
ええええ! 何かレーア・ヨンソン伯爵令嬢が虎の威を借りて侯爵家令嬢に言っているけど、本当に良いのか。イングリッドに逆らって?
私はまじまじとレーアとイングリッドを見た。
イングリッドがニコリと笑ったのだ。ニコリと・・・・。この笑みは絶対に怖い笑みだ。
「はあああ、何を言うのやら。私はバーマン侯爵家の令嬢なのよ。レーアさん」
悪魔のような笑みでイングリッドは言った。
「誰に向かって言っているの?」
地獄に君臨する閻魔様もかくやと言わんばかりのオーラを放ってイングリッドは言い切ったのだ。
「で、でも、彼女は隣国の王女殿下です」
もう息も絶え絶えにレーアは最後の抵抗をしたみたいだけど。
「何言っているのよ。テレーサさんは王女ではなくて前の王女の娘でしょう。そう王妹の娘なのよ。正当な王女殿下は今あなた達の眼の前にいるアンネローゼ様よ」
イングリッドは私を見て言い切ってくれたのだ。
「えっ?」
B組の連中が私も含めて固まった。私は平民のアンなんだけど・・・・。
「何を言っているの。今の王女は私よ」
テレーサが言い張った。
「そうよ、テレーサが今の王女よ」
ピンク頭も一緒になって言ってきた。
「そう、汚い手段を使って簒奪したね。我がバーマン侯爵家は絶対に認めないけれど」
「我がオールソン公爵家も認めないわ。テレーサさん。娘のあなたには関係ないかもしれないけれど、私達はあなたを王女とは認めていないのよ」
エルダまで言い切ってくれた。でも、この国の公爵家の令嬢がそんな事言って良いのか?
「そう、王の妹の娘じゃ、良くて伯爵家の令嬢と同じよね」
「そう、だから私達の前で親友のアンネローゼ様を貶めるのは止めて頂ける?」
二人はニコリと笑った。これも怖い笑みだ。
「何言っているのよ。あなた達、スカンディーナに逆らうの?」
傲慢王女が叫んでいた。
「何を言っているのか判らないわ。スカンディーナの王女殿下はアンネローゼ様だけなのよ。あなたは単なる王の妹の娘なだけよ」
「そうよ。身分平等の学園でこんな事は言いたくないけれど、隣国の伯爵の娘風情が我が公爵家になにか言うの?」
「な、何ですって!」
傲慢王女は完全に切れているんだけど。二人はどこ吹く風だ。
「ちょっと、二人共、隣国の王女様にそんな事を言うなんて酷すぎない。外交問題にも影響するんじゃないの」
ピンク頭がらしからぬことをいう。外交問題なんて知っていたんだ!
「そうよ。外交問題よ。お父様に言って小麦の輸出を止めるわ」
ピンク頭に援護されて王女がいう。
「好きにすれば。我が家は15年前からスカンディーナとの取引は全面禁止しているわ」
「我が家もよ」
その言葉に二人共一顧だにセずに言い切ったのだ。えっ、そうなの?
「えっ」
そう返されて傲慢王女は次の言葉が続かなかったみたいだ。
「偽物王女の後ろにいる皆もよーーーく考えるのね。我がオールソン公爵家はフィルの婚約者としてアンネローゼ様だけをこの16年間ずうーーーーーっと認めてきたのよ」
「我がバーマン侯爵家もよ」
「別に学園にいる間はその偽物王女と付き合ってもいいけれど、その意味をよーーーーく考えなさいね」
「そうよ。この事はお母様に報告しておいたほうが良いかしら」
悪魔のように微笑んでエルダがいうんだけど。彼女もよく考えたら公爵家の令嬢なのだ。その家の影響力たるや王家に次いで大きいわけで、エルダの母は社交界の中心人物の一人なのだ。そんな母に睨まれたら社交界では生きて行くのが大変なはずだ。自分の婚約にも影響するはずだ。
「ええええ! やはりもう報告しないといけないのではなくて」
「でも、考える時間くらい与えてあげないと・・・・」
イングリッドの言葉にエルダが考えるふりをして言うんだけど。
「も、申し訳ありません」
震えていたレーアが真っ先に叫んで頭を下げると一目散に逃げ出したのだ。
「ちょっ、ちょっとレイアさん」
「も、申し訳ありません」
「すみませんでした」
令嬢たちは次々に頭を下げて逃げ出した。
「ちょっとあんた達、待ちなさいよ」
最後に残ったピンク頭と偽物王女もみんなの白い視線を受けてまずいと思ったのか
「あなた達、覚えていなさいよ」
傲慢王女は捨て台詞を吐くと逃げるように食堂を出て行ったのだった。
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