第116話 大魔術師をお菓子で釣りました
そして、翌日、私は侯爵家の馬車でイングリッドとエルダの3人で馬車で王宮に向かった。
私と一緒に乗れなくてフィル様は不満タラタラだったが、アルフたちの馬車に乗ってもらった。
空は今にも雨が降りそうなお空なんだけど。ちょっと幸先が悪すぎない?
「大丈夫だって、アン! あなたならできるわ」
エルダが根拠のない慰めくれるんだけど、機嫌の悪いガーブリエル様に、お菓子食べさせる事なんてできるんだろうか? 私は全く自信がなかった。
魔術の塔の空は今にも雨が降りそう、いや、違う、火の粉が本当に降っているんだけど。
「あちいいい」
火達磨になって飛び出してきたのはヴィルマル師団長だった。
イングリッドが躊躇なく頭の上から水魔術をぶっかける。
「ありがとう、助かったぜ」
濡れ鼠になりながら師団長がお礼を言った。
「大丈夫ですか?」
「これが大丈夫に見えるか」
確かに大丈夫には見えない。
「あのう、ヴィルマル様」
「嫌だ。絶対に無理」
私は声をかけただけなのに、聞くまでもなく断られてしまった。
「ヴィルマル様、まだ、何も申しておりませんが」
「どのみちガーブリエル様を呼んできてくれっていうんだろ? それは絶対に無理だ。いくら俺でも、怒ったガーブリエル様に殺される!」
せっかく火の粉を被らないで、慣れているヴィルマル様にガーブリエル様を呼んできてもらおうと思ったのに、あっさりと断られてしまった。
魔術師たちも皆、腫れ物を触るような感じで、ガーブリエル様の部屋に近づこうとはしていなかった。
と言うか、全員魔術の塔から避難しているんだけど。
そんな中、やれっていうの?
私はエルダとイングリッドを見ると
「アン、あなたがやるしか無いわ」
「そうよ。魔術師の皆のためにもぜひとも行くべきよ」
二人は他人事だ。
「ええええ! それは私でも無理なんじゃ」
「大丈夫、あなたなら出来るわ」
「ちょっとエルダ、何よ、その根拠のない理由は!」
「でも、このお菓子は母の自慢の逸品なのよ。ひとくち食べてみてよ」
私は誤魔化された上に、爪楊枝に刺された葛菓子を口に強引に入れられた。
それは半透明のプヨプヨ震えた外見だが、口の中に入れるとふんわりと溶けてとても甘かった。
「これ、むちゃくちゃ美味しい」
私は思わず口に出していった。
「でしょ! アン、あなたにはこのお菓子5つ上げるから、頑張って」
エルダが言うんだけど。
「ちょっとエルダ。そらあこのお菓子は美味しいけれど、お菓子5つと命とどちらが大切だと思うのよ」
私が文句を言うと
「判った。10個上げるから」
ええええ、倍になっても、行くわけ・・・・いや、これ10個なら価値があるかも・・・・障壁を張っていけば良いだろう。
私はあろうことか、命よりもお菓子10個を取ったのだった。
イングリッドとエルダは能天気にも手を振ってくれるけど、こちらは命がけだ。
私は火の海になっている魔術塔1階を歩いてガーブルエル様の部屋の前まで歩いた。
そして、ノックをする。
返事は当然のごとくなかった。
仕方なしに、扉を開けると次の瞬間火の玉が飛んできたのだ。
「げっ」
私は一瞬でそれを避ける。後ろは魔術師団長以下歴戦の兵がいるのだ。なんとかしてくれるだろう。
「えっ」
「アン!」
「避けるなよ!」
何か言っているが、当然被害は皆で被らないと。私一人で対処するのは無理だ。
後ろが大声で騒がしくなるが、爆発音がした気もするが、気にしない。怒り狂ったガーブリエル様の前にか弱い女の子を一人で行かした罰なのだ。
まあ、なんとかしてくれるだろう。
次々に火の玉が飛んでくるがそれを全て避ける。
「おい、アン」
「いい加減にしろ」
後ろが煩いが無視だ。
「ガーブリエル様」
私が声をかけるが、
「今忙しいのじゃ。部屋に入ってくるな!」
ガーブリエル様の罵声が聞こえる。
「ええええ! でもこのお菓子美味しいですよ」
私は盆に載せてきたお菓子のうちの一つを食べた。
「美味しい」
本当に美味しいのだ。私はニコリと笑った。
ガーブリエル様の手が止まってこちらを見た。よしよし、その調子だ。
「でも、忙しいのなら仕方がないですよね。エルダのお母様の自慢の逸品ですのに、あっ、本当に美味しい」
もう一つ食べる。
「私は忙しいのじゃ。菓子なら置いていけばよかう」
「ええええ! でもこんな熱いところではすぐに溶けてしまいます。冷やして食べないと」
「なんじゃと」
「美味しいです」
私は次々にお菓子を食べる。もう殆ど残っていない。このお菓子食べだしたら止まらない。
「儂の分はどこじゃ」
「ヴィルマル様のところにおいておきましたけど、でも、周りに魔術師団の方々が群がっておられましたから、早くいかれないとなくなるかも知れません」
「な、なんじゃと」
私の言葉を聞いたその瞬間だ。
ガーブリエル様が、私の目の前から転移で消えた。
「ギャッ!」
後ろからヴィルマル魔術師団長の悲鳴が聞こえた。
後ろを振り返るとガーブリエル様は倒れたヴィルマル魔術師団長の上に座って、お菓子を食べようとしたいた。
私はホッとした。これで少しはガーブリエル様の機嫌も直るはずだ。
外に出るとヴィルマル様を椅子にしてガーブリエル様はお菓子を美味しそうに食べていた。
それからヴィルマル様ら魔術師達は最高級の緑茶を準備しろとか、食器が足りないとか、ガーブリエル様の為に王宮に使い走りさせられていたのだった。
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