第115話 怒り狂っている大魔術師を天の岩戸からお菓子でおびき出そうと考えました。

それからが大変だった。怒り狂ったガーブリエル様の怒りは凄まじいもので、魔術師達はその漏れてくる魔術の波を食らって真っ青になっていた。私は怒りの波動を申し訳ないが障壁で防いでスルーしたけれど。ついでに横のフィル様にもかぶせてあげた。フィル様がこちらを見てくれたので、ウインクしたら微笑んでくれた。


それがガーブリエル様に見つかってギロリと睨まれたんだけど・・・・




「儂はしばらく、魔術の塔に籠もるぞ」

最後にガーブリエル様が叫ばれて転移して消えられた。


皆唖然としていた。


「これは下手したら火の粉が魔術の塔に降ってくるのでは」

「いや、爆裂魔術が破裂して1階が火の海になるのでは」

「ああああ、最悪だ。あのボケ王女何してくれるんだよ」

魔術師の方々は恐慌に陥っていた。



ええええ! 明日から訓練はどうなるんだろう?


私はどうしようか悩んだが、まあ、なるものはなるだろう。


私はあっさりと明日考えることにしたのだ。




邪魔なピンク頭と傲慢王女はいつの間にか運び出されていた。


私は訓練が早く終わったので、イングリッドの所に帰る気満々だったのに。


「シャーリーさん。どこに行こうとしているのかしら」

でも、その場を立ち去ろうとした時だ。あっさりとルンド先生に捕まってしまったのだ。


「えっ、先生。演劇の練習をしに、イングリッドの所に行こうと思いまして」

「まあ、お休みの時に大変ね。でも、その前に礼儀作法の練習しましょうね」

「でも、先生。演劇の練習もありますし」

「礼儀作法が終わった後にやればいいのよ。さあ、行きましょう」

私はガッチリとルンド先生に捕まってしまった。

フィル様を探したが、いつの間にか、いなくなっていた。そんな、酷い・・・・


それから昼食も取る暇もなくてルンド先生に3時間みっちりとしごかれたのだった・・・・


その後はオースティン王国の歴史の一部を一部の貴族の顔つきで歴史の先生に親切丁寧にお教え頂けた。


オースティン王国の領土の中でエルダとイングリッドとクリスティン様の家で国土の10%弱を占めているのがよく判った。この3家を蔑ろに出来ないはずだ。公爵家と侯爵家すべて合わせると国土の15%になる。王家の直轄地は20%もない。伯爵領が30%子爵領が15%男爵領他が残りとなる。

もっとも王家には各家から税収の一部が治められているが、それは国軍等を維持するのに必要な金だ。


3家は特設騎士団も所有しており、一つの戦力となっていた。


その3家が反旗を翻したら、王家と言えども対抗するのが大変なのは判った。


でも、本当に疲れ切ってしまった。


トボトボと歩いていると、

「アン大丈夫?」

フィル様が私に追いついてくれた。


「もう、フィル様、ルンド先生が来た途端にいなくなってしまうんですから。酷いですよ。あの後3時間絞られました」

「いやあ、俺も仕事が貯まっていたからね」

「でも、助けてほしかったです」

「でも、俺があそこで余計なこと言ったら、下手したら倍になっていたかもしれないよ」

そう言われると確かにそうかもしれない。


「王太子殿下の隣に立つにはまだまだです」とか言われて更に3時間、十二分に有り得た。


「それよりも、アン、疲れた」

何故か帰りの馬車もフィル様と二人きりなんだけど。


別に二人きりなのはいいけれど、でも、フィル様が私の肩に顔を寄せてくれるんですけど、近いっていうの!




もう、真っ赤になってイングリツドの家に着いた時はゆでダコのようになっていた。

着いたら3時のおやつを食べる時間もなく、演劇の練習だった。


そして、終わるとお風呂だった。イングリツドの家には何故か大浴場があったのだ。前世の日本の大浴場みたいな感じだ。2代前のイングリツドの家の侯爵夫人がお風呂が好きだったとかで、女子20人で入っても十分な広さだった。


「アン、今日は大変だったんだって」

お風呂に浸かっていると、エルダが聞いてきた。

「そうなのよ。スカンディーナの王女と聖女が訓練している所に現れて、ガーブリエル様の激怒をかってふっとばされたのよ」

「そうなの。また、アンが吹っ飛ばしたのかと思ったわ」

イングリッドが失礼なこと言うんだけど。まあ、たしかに聖女は私の水鉄砲で吹っ飛ばしたけれど、それもガーブリエル様の指示だ。


「あの王女も静かにしていればいいのに、よりによってガーブリエル様の前に行くなんて」

「本当よ。お母様に聞いたんだけど、ガーブリエル様は本当にアンのお母様を目にかけていたのよ。スカンディーナの王家などに嫁にはやれんって言ってたって」

「えっ、そうなの?」

私は初耳だった。


「でも、その当時のスカンディーナの王太子殿下も留学してきて、ブルーノもいるからと仕方なしに認めたのよ」

「そのブルーノがアンネ様を殺したと聞いてガーブリエル様は本当に怒られてしまって、そのままスカンディーナの王宮に攻撃に出ようとされたのよ。皆で止めるのに大変だったって母が言っていたわ」

「それ以来ガーブリエル様は人に教えるのを止められて魔術の塔に籠もられるようになったのよ」

エルダとイングリッドの二人が交互に話してくれた。


「でも、また、しばらく塔に籠もるって言われたんだけど、明日からどうしようかと思って」

「それは皆大変ね」

「下手したら天から火の玉が飛んでくるかもしれないわよ」

「何よそれ」

「怒ったガーブリエル様が火の玉を周りにばらまくのよ。元々ガーブリエル様のお部屋は特別仕様で防御も完璧なんだけど、怒りが収まらなくて魔術が暴走して悪さをするのよ。16年前もガーブリエル様が落ち着くまで1年位大変だったみたいよ」

エルダが説明してくれた。

それで、魔術師の方々は、呆然としていたんだ。


じゃあ私はしばらく近づかないほうが良いんじゃなかろうか?

私がそう考え出した時だ。


「でも、ガーブリエル様はお菓子に目がないそうよ」

「そうなの。でも、お菓子なんて見ても、もらえないんじゃないかしら」

私が懸念を口にすると


「大丈夫よ。お母様のお菓子には目がないそうだから、何か作ってもらうわ。それ持って明日行けば良いんじゃない」

「でも、いきなり火の玉が飛んでこない?」

「大丈夫だって。あなたはガーブルエル様の一番のお気に入りなんだから。あなたが持っていけば絶対に大丈夫だから」

イングリッドとエルダが言ってくれるけど、怒り狂ったガーブリエル様にお菓子が通用するんだろうか。お菓子ごと燃やされたらどうするのよ?


私は懸念したが、


「アンなら大丈夫よ。ガーブリエル様の目の前で美味しそうにお菓子食べたら絶対にガーブリエル様もお菓子に興味が行くから」

エルダが言うんだけど、何か命がいくらあっても足りないような気がするのは私だけだろうか?


まあ、しかし、それ以外の方法が見つからないので、私はその案を取ることにしたんだけど、大丈夫よね?


私は不安しか残らなかった。

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