第73話 王太子は王妃に婚約者を変えない旨をはっきりと宣言してくれました
「母さん!」
私が母が気になって客室に飛び込んだ時だ。
パシン!
王妃様が母を引っ叩いていた。
「あなたに何が判るのよ」
そして、王妃様の大声が響いたのだ。
私は王妃が私の母に何をするんだ、と思わず身の程知らずにも母を助けようとした。
「それはアンネ様の仰ることよ。あなたは約束したことを何一つ守っていないじゃない!
天国でアンネ様はあなたに言いたいことがいやほどあるでしょうよ。嘘つき!」
でも、母も王妃様に負けずと言い返していたのだ。
王妃様に言い返すなんて、なんて命知らずなんだろう。私は思わず母さんを見直していた・・・・
「何ですって!」
王妃はもう一発引っ叩こうとしてしばこうとして、フィル様の手に止められていた。
「な、フィリップ。何するのよ。この無礼な女を引っ叩かしなさいよ」
王妃様が叫ぶ。
「母上。病人になんてことするんですか。ご自重ください」
フィル様は王妃の前に立った。
「何言っているの。これもそれも全て、そこのアンのせいじゃない」
私は王妃に指差されてぎょっとした。やはり私のせいか。
「何を言っているのですか。母上。彼女は私の婚約者、アンネローゼなのです」
私はフィル様の声にどきりとした。フィル様が、愛しのフィル様が王妃様の前で私を婚約者だと言ってくれた。私はその言葉だけで良かったのだ。
「何を言っているの。フィリップ! この前も言ったでしょ。あなたはこの国の王太子、あなたがアンネローゼを婚約者にするということは、スカンディーナ王国を敵に回すということなのよ」
王妃様は正論を述べられた。
「私の婚約者はこのアンネローゼです。元々生まれた時から決まっていた婚約者です。アンネローゼの両親が殺されたからといって、私はアンネローゼを見捨てたりはしません」
フィル様がはっきりと言ってくれた。私を庇ってくれた。それも王妃様の前で。はっきりと!
「何を言っているの。そんな自分勝手な者が王太子なんて務められると思っているの?」
「母上。母上は自分の婚約者すら守れない者がこの国を守れると本気で考えておられるのですか?」
「はあああ! 何を綺麗事を言っているのよ。そんな綺麗事だけでこの国の王太子がやっていけるとでも思っているの?」
「綺麗事だろうが無かろうが関係無いのです。私は約束を守るだけですよ。あなた達国王夫妻とスカンディーナ王国の国王夫妻が、結ばれた約束をです。元々この婚約を結ばれたのはあなたではありませんか。母上。私に言われましたよね。どんな事があってもあなたの子供を守るから、この婚約を承認して欲しいって私のために頼んだのだと」
「えっ、いや、そんな事は言っていないわ」
王妃は慌てた。
「いいえ、私が小さい時には確かに、そう仰っていらっしゃいました」
フィル様が言い切ってくれた。
「でも、状況が変わったのよ」
「だからアンネローゼを見捨てるのですか。あなたが名付け親のアンネローゼを」
「だから状況が・・・・」
「私は約束は守るべきだと思います。元々どんな事があってもアンネローゼを守るという約束をしているのですから。約束はスカンディーナ王国夫妻が亡くなろうが何しようが関係ないのです。私はこの国の王太子として、いや私、個人、フィリップ・オースティンとしてこの婚約を守るだけです。これが私の矜持です。もし、それが王太子としてふさわしくないというのならば王太子を廃嫡して頂いて結構です」
「フィリップ、なんてことを言うの?あなた正気なの」
「私の意見に、オールソン公爵家もカールソン公爵家もバーマン侯爵家も賛同は頂いています。
大魔術師のガーブリエルも騎士団長のシェルマンも魔術師団長のポールソンも、宰相のヘドルンドの賛同してくれました」
「な、何ですって。ふ、フィリップ本気なの?」
王妃は驚いた表情でフィル様に言われた。フィル様はいつの間にそこまで手を回されたのだろう。皆知っている人だし、もっとも公爵様とかはその娘と母しか知らないけれど、私は皆が私を支持してくれると聞いて嬉しかった。
「この件については絶対に曲げませんから」
きっとしてフィル様は王妃様を見られた。
「な、何ですって! 絶対に私は許さないから」
王妃様はそう言い残すと女官長を連れて来た道を戻って行かれた。
私達は唖然としてその姿を見送ったのだった。
パチパチパチパチ。
いきなり後ろで拍手が響いた。
「凄い、フィル、やれば出来るじゃない」
「本当によくあの母親相手に言い切ったわ」
「見直したわ、フィル」
そこにはクリスティーン様を始めエルダやイングリッド、そして、その母親がいた。
「アン、無事で良かった」
「豚大使を殴り倒したんですって。さすがアンよ」
エルダとイングリッドが私に抱きついてきてくれた。
私も二人を交互に思いっきり抱きしめていたのだ。
そして、まだ、フィル様とずっと一緒にいられるかどうかは判らなかったけれど、しばらくは一緒にいられそうだと私は安心していた。この地のスカンディーナの勢力を叩き潰したのが自信につながったのだ。
しかし、スカンディーナは私をそっとしておいてくれなかったのだ。
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