第72話 侍女視点2 王妃が乱入してきましたが、それがどうした! 約束を盾に詰りまくりました
私はアンが客室を飛び出すのを、ただ見ているしか出来なかった。
本当はアンをこの手にもう一度抱きしめたかった。
母さんの為によくスカンディーナの奴らをやっつけてくれたねと抱きしめてやりたかった。
でも、アンは私の娘でなくて、スカンディーナの王族アンネローゼ様なのだ。
もう、アンは平民アンではなくなったのだ。
私は心を鬼にして、アンを見放したのだ。
心で泣きながら・・・・
私の目からは心せずに次々と涙が溢れてきた。泣くつもりなんて無いのに・・・・
涙が止まること無く次々と流れてきた。
「アン! ごめん、抱きしめられなくてごめんなさい」
私は顔を覆って泣くしか無かった。
どれくらい経っただろうか。
「王妃様。困ります」
外で声がした。
王妃様? ローズマリーか。
私は苦いものを感じた。
絶対に会いたくない相手だった。
折角生まれた愛子アンネローゼ様を国外にはあまり出したくないと、アンネ様もオスヴァルド様も思っていらっしゃったのだ。
そのアンネ様に強請られたのがローズマリー様だった。ご自身が伯爵家の出身だからか、国内の貴族からあまり良く思われていないローズマリー様は生まれたばかりのお子様の地位を固めるために、いや違う、ご自身の地位を固めるために、我がスカンディーナ王国の王女アンネローゼ様との婚約を欲っせられたお方だ。
なのに、アンネ様が殺されると同時にアンネローゼ様を見捨てられたお方だ。
私は平静を保てる自信がなかったのだ。
そこへ扉を開けて女官長と思しき女性を頭に、ローズマリー様が入ってこられた。
私はその姿を見て、いきなり怒鳴りそうになった。それを抑えるために必死に下を向いた。
取り敢えず頭を下げたのだ。心のなかは煮えくり返っていた。
「あなたがアンの育ての親なのですか?」
「いいえ、違います」
王妃の言葉に私ははっきりと否定した。
「私はアンネローゼ王女殿下の専属侍女、グレタ・シャーリーでございます」
私はアンネローゼ様が王女だとはっきりと王妃の前で言い放ったのだ。その態度を改めよと。
「な、何をいきなり言い出すのです」
王妃は慌てたみたいだ。
でも、私はアンネ様の代理でここにいるのだ。天国でアンネ様は私を見守ってくれているはずだった。
「ローズマリー様にお会いするのは学園以来ですね。ローズマリー様とのことはようく、アンネ様からお伺いしております。グスタフ様とのことも含めて」
私は何か言おうとした王妃を牽制した。すべて知ってるのだぞと王妃を脅したのだ。
「あなた、侍女の分際で妃殿下に名前呼ばわりするとは失礼ですよ」
女官長が言った。
「これは申し訳ありません。アンネローゼ様のことをアンと呼び捨てにされたので、私もつい学園に通っていた気分になってしまいました」
私は更に牽制した。
「アンネローゼ様と言われるが、今は平民のアンとして通っているのではないのですか」
女官長が言うが
「アンネローゼ様の名前は元々アンネ様とローズマリー様のお名前から頂いております。その御方の前で、他の名前で呼ぶのは失礼に当たるかと」
「・・・・」
これには女官長も何も言えなくなった。そうだ、アンネローゼ様の名前をつけるにあたって、ローズマリー様からたっての希望があったのだ。
「私はアンネローゼ様の名前の由来を、アンネ様からはっきり伺っております。
『グレタ、この子の名前だけれど、ローズマリーが何としても自分の名前をもらって欲しいと言ってきたの。たとえ、私が死んでも絶対にこの子の事はローズマリーが守ってくれるそうよ。だからアンネローゼという名前にして欲しいって』」
「何を言っているのです。ぜひとも名前を欲しいってアンネが言うから」
「殿下。そう言う嘘はやめてください。その言葉、天国のアンネ様が聞いていらっしゃるのですよ」
私ははっきり言った。
元々王妃には会うつもりもなかった。こんな事を言うつもりはなかったのだ。
アンネ様は殺されたのだし、王女としての価値の無くなったアンネローゼ様を見捨てるのも、一国の王妃ならば当然だろうと。
しかし、アンに対する態度を男爵に調べてもらうとアンは王妃に虐められているのではないかと。話が違うと私は思ったのだ。命に変えても守るから息子と婚約させて欲しいと言ってきたのはローズマリーの方だと、手紙を見せられてはっきりと私は知っているのだ。追い出そうと虐めるのはあまりにも露骨ではないかと。そこまでやるのならば一度言ってやらねばと思っていたのだ。
「な、何を言うのです。平民の分際で妃殿下に意見するのですか」
女官長が地位を笠に着て言うが、それがどうしたのだ。
「申し訳ありませんが、私もアンネ王妃殿下の代理でここにいるのです。嘘を付くわけには参りません」
「何言うの。アンネはもう王妃ではないわ。今スカンディーナの施政者はブルーノ様です」
「そうです。アンネ様達はその反逆者ブルーノらに殺されたのです」
「な、何を言うのです」
「事実です。妃殿下は親友のアンネ様よりも、簒奪したブルーノの肩を持たれるのですね。アンネ様は天国で友の裏切りに泣いていらっしゃるでしょう」
私ははっきりと言ってやったのだ。これだけは会ったら絶対に言ってやろうと思っていたのだ。それをノコノコ私の前にやってくるなんて、余程の馬鹿なのか。
「国のためには仕方がないでしょう。この国を争いに巻き込まれないためには仕方のないことよ」
王妃は苦しそうに言った。しかし、私はその王妃の言葉に完全にキレた。
「何言っているのよ。あなた、アンネ様に手紙ではっきり書いたわよね。どんな事があってもあなたの子供は絶対に守るって。
どんな事があってもよ。
たとえどんな事があっても守ると」
私は何回も繰り返してやった。王妃はそれをただ聞くしか無かった。
「国のためにはという以前に、あなたには個人としてやることがあるのではなくて。
また、あなたは手紙にこうも書いていたわ。『アンネがもし、この世にいなくなっても、神に誓って、自分の子供として大切に育てるから、だから自分の名前をもらってほしい。自分の子供と婚約してほしい』そう手紙には書いていたじゃない!
それは全て嘘だったわけ! よくそんな嘘がつけたわね。アンネローゼ様の名付け親のくせに、何一つ助けようとしないばかりか、アンネローゼ様を追い出そうと画策しているじゃない。
天国でアンネ様は泣いていらっしゃるわ!
あなたの行いにね!
王妃が嘘をついていいと思っているの!」
私は王妃殿下に対して不敬も礼儀作法も何も関係なしに大声で啖呵をきっていたのだ。
もう不敬罪で殺すなら殺せばいいわ。
私は覚悟が出来ていた。アンはこれからアンネローゼとして、貴族社会で生きて行くのだ。その為には私がどうなっても、言うべきことは言わなければならない。アンがアンで無くなって、私もヤケになっていたのかもしれなかった。
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