第71話 侍女視点 娘として育てた王女に本当のことを告白しました
私はグレタ・シャーリー。アンネ様の侍女だった。そう、あんなことがあるまでは。
孤児院にいた10歳の私を、アンネ様と同い年の侍女として父の伯爵様が孤児院から連れて帰ってくれたのだ。それからはずうーっとアンネ様と一緒だった。
隣国のオースティン学園に留学するのも同じだった。
留学した時はクラスはアンネ様と違ってCクラスだった。折角入った学園だから、あなたもいろんな方と友達を作りなさいと言われて別行動することも多かった。それが後に役に立つ時が来るなんて思ってもいなかった。また、アンネ様はスカンディーナ王国でも人気があったが、オースティン王国でも人気があった。そのためか私に接触してくる人も多かったのを覚えている。最も私に接触してきたところでそのままアンネ様に紹介するはずもなかったのだが・・・・。
そんなアンネ様がオスヴァルド王太子と結ばれてスカンディーナ王国の王妃となられるのは当然の話だった。私は王太子妃となられたアンネ様について王宮に入った。
アンネ様の配偶者のオスヴァルド様は見た目も凛々しく、剣術も優れていたけれど、唯一の欠点は女の涙に弱いという点だった。隣国のドロテーア・エスカール王女に泣かれて、強引に側妃にさせられていたのだ。私には信じられなかった。これはアンネ様に対する裏切りでないのかと。それを傘に着て言い寄ってくるブルーノも最低だったが・・・・。
そのドロテーアとの間に第一王子が誕生して、アンネ様が暗くなっておられた時にアンネローゼ様が誕生されたのだ。
アンネローゼ様がお生まれになってから、私はアンネ様に言われてアンネローゼ様の専属の侍女となった。アンネローゼ様は本当に可愛い赤ちゃんだった。私はアンネ様と一緒に心からアンネローゼ様をあやして可愛がった。眠っている時はこの子が王国で一番かわいいと思ったけれど、目をさましている時は世界で一番かわいく思うのと、留学時代の友人に手紙を送ったりした。子供が出来たらこんなかわいい子供がほしいと思ったものだった。
王太子殿下もアンネローゼ様が生まれてからは側妃の元には全く足を運ばれなくなり、アンネ様の憂いも晴れた。
そう、あの事件が起こるまでは。
あの時は、朝から何か不吉な予感がしていたのだ。
王太子殿下というか国王陛下が亡くなられて、国王になられようとしていた陛下から執務室に来るよう言われていたのに、アンネローゼ様は何故かむずがって時間通りに行けなかったのだ。
そして、扉を開けたその先で、血まみれで陛下が倒れているのを私達は見つけだ。
「オスヴァルド!」
アンネ様が叫ばれた。
そして、その先には血まみれになったアンネ様に懸想していたブルーノがいたのだ。
叛逆だ! 何も出来ない私はただただ立ち尽くすしか出来なかった。
アンネ様が渾身の力を込めた魔力はブルーノによって反射され、それはアンネ様を直撃した。アンネ様はボロ布のように弾き飛ばされたのだ。
「アンネ様!」
私は思わずアンネローゼ様を抱えたまま、アンネ様に駆け寄ったのだ。
「グレタ、アンネローゼをお願い!」
そうアンネ様が叫ばれると同時に私は金の光に包まれた。
その後王宮でどうなったかは知らない。それどころではなかったのだ。私はアンネローゼ様を抱えたまま、見ず知らずの街の中にいた。
呆然としている中で、立ち尽くしていると、目の前の扉が開いた。
「グレタ!」
そう、そこにいたのは親しくしていたクラスメートのマーヤだった。
マーヤは確かアベニウスの出身だったはずだ。
取り敢えず、マーヤは私を匿ってくれた。
そして、自分の隣の空き家になっていた家に、夫をなくした未亡人としていさせてくれることになったのだ。彼女の婚約者が衣服店をしていたので、そこのお針子として雇ってくれたのだ。
そこの領主のヤーコブ様も何かと私達に気を使ってくれた。ヤーコブ様とはアンネ様のお供をしている時に何回かお話したことがあるので、私達のことはわかったと思うけれど、何も言わずに匿ってくれたのだ。
私はアンネローゼ様を私の実子、アン・シャーリーとして育てることにしたのだ。
アンには私の知っていることを全て叩き込んだ。礼儀作法も勉強も。
でも、学園に行きたいとアンが言ってきた時にはどうしたものかと迷った。ヤーコブ様にも相談したのだが、
「これも運命だろう。いつまでもアンをあなたの子供として匿っておくわけにも行くまい」
そう言われてしまった。
「娘も一緒に学園に行くから、何かあっても大丈夫だよ」
そう言ってもらって、私は諦めて娘を送り出したのだ。
でも、アンは私の予想の上をいった。いつの間にかアンネ様の友人の子供達と仲良くなっていたのだ。私は運命を感じていた。
学園に球技大会を見学に行ったとき、アンは本当に輝いていた。高位貴族の中で見劣りすること無く、アンネ様のように輝いていたのだ。
そして、驚いた事に、そのアンの横には彼女の本来の婚約者のフィリップ様の姿が見えたのだ。
私は信じられなかった。
でも、こんなに大っぴらにアンを学園に入学させるのではなかったのだ。さすがにアンは目立ちすぎた。
今後の事をヤーコブ様に相談している時に、いきなりスカンディーナの賊に襲われたのだ。
完全に私もヤーコブ様も油断していた。私を守ってヤーコブ様が斬られるのが見えた時には私は気絶させられていた。
それからスカンディーナの大使の別荘に連れて行かれて拷問にかけられたが、私がアンがアンネローゼだとは口が裂けても言えなかった。
アンのために死ねるならば本望だった。
でも、その私の前にアンが連れて来られたのだ。
私は心臓が止まる思いだった。
でも、アンネ様のように魔力のない私は見ているしか出来なかった。
アンネ様のように命をかけて実の娘のようにかわいがったアンを助けることも出来なかった。
しかし、驚いたことにか弱くて何も出来ないと思われたアンは、スカンディーナの兵士たちをあっという間に退治してしまったのだ。あの豚の大使も一緒に。
アンネ様以上の魔力量のようだった。
私はアンの母の役割を終えたのを実感した。
もう、アンは私の娘ではないのだ。
「で、母さん。皆私のことをアンネローゼだって言うんだけど、本当なの?」
「やっぱりあなたには本当のことを話すしか無いのね」
アンに聞かれて、私は真実を話す時が来たのだと思った。
「今まで黙っていてごめんなさい・・・・いえ、申し訳ありませんでした」
私はアンに向かって頭を下げた。今まで娘として育ててきたアンに!
アンが固まったのが判った。
でも、私は、今、言うしか無いのだ。
「貴方様はスカンディーナ王国のアンネローゼ王女殿下であらせられます」
「えっ、母さん。何でそんな口調で話すの?」
アンが戸惑っているのを感じた。出来たらアンを抱きしめたかった。でも、もう、そうしてはいけないのだ。
「申し訳ありません。アンネローゼ様。私はあなた様の母ではありません。あなた様の母上はお亡くなりになったアンネ様です。私はあなた様の専属侍女グレタ・シャーリなのです。今まで秘密にしていて本当に申し訳ありませんでした」
私は心を鬼にして言った。
そう、私は、もう、愛するアンの母ではないのだ。アンネローゼ様の侍女なのだ。混乱する娘を思いっきり抱きしめたかった。まだまだ、母でいたかった。
でも、こうなったらもう無理だった。
私は本当の母ではないのだ。
私は心を鬼にして震えるアンネローゼ様を突き放すしか無かったのだ。
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