第70話 泣いている所に王太子が来て慰めてくれました
私は母さんの態度の激変に驚いていた。小さい時から肉親は母さんだけだと思っていた。その母さんが他人行儀で話してくるのだ。
私のたった一人の母さんが・・・・母さんが・・・・
私はアンネローゼだろうが、なんだろうがどうでも良かった。
ただ、母さんがいなくなったことがショックだった。
私はいたたまれなくなって思わず部屋を飛び出した。
「アン!」
その廊下の机のところで寝ていた誰かが私に声をかけてきた。
でも、無視して、私はそのまま外に飛び出したのだ。
でも、王宮で知っているところなんて殆どない。
そのまま魔術の塔の裏庭に走り込んでいた。
そして、壁に手をついて私は泣いていた。
優しかった母さん。
厳しく叱ってくれた母さん。
針仕事の夜なべを遅くまでしていた母さん。
料理を教えてくれた母さん。
礼儀作法マナーを厳しく指導してくれる母さん。
特に礼儀作法マナーは厳しくて、何で貴族の礼儀作法マナーが私にいるのかよく判らなかった。母は、いつかこういう時が来るかもしれない、と私に知っている全ての知識を分け与えてくれたのだ。
そして、そんな母さんがいなくなってしまったのだ。私が余計な事を聞いたから
「アン」
後ろから声をかけられてて、慌てて私は振り向いた。
「えっ、フィル様!」
その場に立っている人物を見て驚いた。
そういえばさっきはよく見ていなかったけれど、部屋の前で寝ていた人は金髪だった。
えっ、フィル様が部屋の前で寝ずの番をしてくれていたの?
そんなの知らずに私は母の横でぐっすり寝ていた!
「どうしたの? アン、そんなに泣いて。自分がアンネローゼだと知ってそんなにショックだったの?」
心配してフィル様が聞いてきた。
「フィル様は私がアンネローゼだとご存知だったのですか?」
「いいや、はっきりとは分からなかった。アンネローゼではないかと思ってはいたのだけど」
そうか、フィル様も判っていたんだ。私がアンネローゼだと。判っていなかったのはひょっとして私だけだったとか。
皆、そう思っていたんだ。
「そんなに嫌なの。アンネローゼだったのが」
再度、心配してフィル様が聞いてきた。
「いえ、それは、今、わかったところで、私がアンネローゼであるという事は実感としては全然ないんです」
「そうか、じゃあ、アンネローゼだったと判って泣いていたんじゃなかったんだね」
フィル様はホッとしたみたいだった。でも、何故フィル様は私がアンネローゼということに拘られるんだろう? 私にはよく判らなかったが、
「ええ、母がいきなり敬語で話してきたことがショックで」
私は母に一線を引かれて話されたことを話した。
「そうだろう。敬語で話しかけられたらショックだろう! だから私には敬語でなくて普通に話してほしい」
フィル様がそう言うと一歩近づいてきた。
えっ、何故そうなる?
「えっ! だってあなたはこの国の王太子殿下ではないですか」
「そして、君は俺が探していた俺の婚約者だ」
私はフィル様の言葉に固まってしまった。
そうだった。アンネローゼはフィル様の婚約者だった。そう言えば馬車の中で、アンネローゼを探していると言われた記憶がある。
ええええ! 私、本当にフィル様の婚約者になってしまったのなの? 私は混乱した。
「ずっと、ずーーーっと君を探していたんだ」
フィル様がずいっと近づいてきた。
「えっ、フィル様、私はアンネローゼだと言っても今は平民です」
「そんなの関係ない。君がどうなっていようとも私の婚約者であるのは変わらないんだから」
フィル様が近づいてくる。
ちょっ、ちょっと待ってフィル様、そんなに近寄らないで。
私の手をフィル様に握られてしまった。
ウッソーーー! フィル様に憧れのフィル様に手を握られた・・・・
確かに今までダンスの稽古とかでフィル様に体に触れられることはあったけれど、こんな情熱的に迫られたことなど無かった。
「ちょっと、フィル様、近いです」
更にフィル様が私にドアップで迫ってくるんだけど・・・・
私の慌てふためくのにかかわらずにフィル様は私を抱きしめたのだった。
嘘っ! 私は憧れのフィル様に抱きしめられていのだ!
バチン
私はその瞬間、私は耐えきれなくて頭が沸騰してしまった。
気がつくとフィル様が私に弾き飛ばされて地面に転がっていたのだ。
「えっ」
私は唖然とした。フィル様を弾き飛ばしてしまったのだ。
「ひ、ひどいじゃないか。アン」
フィル様がムッとして抗議してきた
「いきなり抱きつくなんて無理です」
私が必死に言い募った。
「本当だ! フィル! いきなり迫りすぎ」
後ろからアルフの呆れた声を聞いて私は固まってしまった。
ホッとしたと同時にアルフに見られたと知って私は真っ赤になっていた。
「邪魔するな、アルフ! やっと、やっとアンネローゼに会えたんだぞ」
「いきなり迫ると逃げられるぞ。なあ、アン」
興奮しているフィル様にアルフが言ってくれた。
私はもう真っ赤になっていた。恥ずかしくて穴の中にこもりたかった。
しかし、次の瞬間私は正気に戻った。
「フィル、大変だ! 王妃様がアンの母親の部屋に我々が止めるのを無視して入っていかれた!」
バートがとんでもない情報を持ってきたのだ。
そうだ、私がフィル様に近付くのを好まない王妃様もいたんだった。
私は慌てて母さんの部屋に戻ったのだ。
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