第69話 モブですら無いと思っていたのに、実は悪役令嬢だった真実をしりました
豚を退治した後、私は慌てて母の所に戻った。
「母さん。しっかりして」
私は傷だらけの母を抱いて泣き叫んだ。
「アンっ」
後ろから大声でフィル様が駆けてきた。
「ふぃ、フィル様」
私は驚いた。まさか、また、フィル様が助けに来てくれるとは思ってもいなかったのだ。もう二度と会えないかもと思っていのだ。でも、フィル様が助けに来てくれた!
「ヒール」
後ろからガーブリエル様の声が聞こえた。
母の傷は一瞬で治ってしまった。
私は唖然としていた。
「愚か者。何を泣き叫んでおる。ヒールくらい自分で出来るだろう。呆けているでないわ」
「すいません。忘れていました」
ガーブリエル様の叱責に私は謝るしか無かった。
「まだまだじゃな。もっと修行をせよ」
「はい」
ガーブリエル様の言う通りだった。
「取り敢えず戻るぞ」
「どこに戻るのですか?」
「お前の母の治療が先じゃろう。王宮に戻るしかあるまい」
「しかし、私はスカンディーナの大使に魔術を叩きつけてしまいました」
「ふんっ、儂の弟子に手を出そうとしたのじゃ。当然のことじゃ。気に悩む必要はない」
「しかし」
「いや、アン、それは俺が何とでもするよ」
フィル様が言う。
「ということじゃ。アン」
ガーブリエル様はそう言われると後ろを向かれた。
「後はよろしく頼むぞ、ヴィルマル」
「了解しました。しかし、また、派手にやられましたな」
後ろに控えていた魔術師団長が私を見て言った。
「すみません。母の傷ついた姿を見て完全に切れてしまって」
「まあ、良い。行くぞ」
母はフィル様が抱えてくれた。
そのまま王宮に帰ると客室の一部屋に案内されたのだ。
母はその日は高熱を出していた。ヒールだけではすぐには全ては治らないのだ。
私は母を看ながら、大使に言われたことを思い返したいた。
大使は私が完全にアンネローゼだと思っていた。母はアンネ様の侍女でアンネローゼの専属侍女だったと。
それは本当なんだろうか?
もし、本当なら、私はどうなるんだろう?
私がアンネローゼ!
ええええ! アンネローゼはゲームの悪役令嬢じゃない!
モブですら無い平民だと思っていたのに、まさか、悪役令嬢だったなんて。
神様もひどくない? 私はヒロインが良いってお願いしたのに!
うーん、ピンク頭のヒロイン、聖女とは既に散々やりあった。これから仕返しに処刑されるんだろうか?
というよりも、このままここにいるとスカンディーナの暗部が出てきて殺されるかもしれない。
私は絶対絶命のピンチに立っているのを知った。
でも、まず母さんに本当のことを聞くしか無いと思ってその日は隣のベッドで寝たのだった。
翌朝、私が目覚めて母さんのベッドを覗くと、母さんの顔が普通に戻っていた。
おでこを触ると熱も下がっていた。
「アン」
母さんが目を覚ました。
「ここはどこなの?」
私の最初のときと同じで、母はこの豪華なベッドに驚いていた。
「王宮よ。殿下とガーブリエル様に連れてきていただいたの」
「で、殿下に!」
母の顔が白くなる。
「大使は?」
「母さんを酷い目に合わせた、あの豚は私が退治したわ」
「あなたが?」
母さんは私を見た。
「魔術適性検査で全属性持ちだったのは手紙で伝えたじゃない。その時にガーブリエル様の弟子にしていただいたの」
「大魔術師のガーブリエル様の弟子に!」
母は驚きっぱなしだった。
「そうなんだ」
母は唇をかんで私を見た。
「で、母さん。皆私のことをアンネローゼだって言うんだけど、本当なの?」
私は何気に聞いてしまったのだ。そう、ただただ、本当のことが知りたかっただけなのだ。
でも、その事が母さんとの親子関係を無くす事だと理解していなかったのだ。
「やっぱりあなたには本当のことを話すしか無いのね」
しばらく扉を見ていた母は私を見上げた。
そして、身を起こしたのだ。
「えっ、起きて大丈夫なの?」
私は慌てて枕を母さんの腰に押し当てた。
母さんの目は決意した目をしていた。
「今まで黙っていてごめんなさい・・・・いえ、申し訳ありませんでした」
母がいきなり謝りだしのだ。それも敬語だ。
えっ?
私はその母の態度に固まってしまった。
私はアンネローゼかもしれないとは思っていた。
でも、母は母だとどこかで思っていたのだ。
何で母さんが敬語で私に話しかけるの?
「貴方様はスカンディーナ王国のアンネローゼ王女殿下であらせられます」
「えっ、母さん。何でそんな口調で話すの?」
私は思わず言っていた。
「申し訳ありません。アンネローゼ様。私はあなた様の母ではありません。あなた様の母上はお亡くなりになったアンネ様です。私はあなた様の専属侍女グレタ・シャーリなのです。今まで秘密にしていて本当に申し訳ありませんでした」
母は私に頭を下げたのだ。
私はアンネローゼだったということよりも、母の態度に棒で殴られたようなショックを受けて固まってしまったのだった。
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