第64話 母が拐われたと扉の所に手紙が挟まっていました。

「何をやっているのですか?」

食堂での100叩きの途中で、駆けつけてきた先生たちに聖女はやっと開放された。

その時聖女はもうボロボロだった。

あまりの痛さに声もあげられないみたいで、あられもなく泣いていた。


クリスティーン様はそのまま学園長室に連行されてしまった。


なんでも気絶してしまった聖女はお尻をパンパンに腫らしているみたいだ。私に対してあんなことをしたのなら当然の罰だと思うけれど。私はピンク頭には全然同情はしなかった。


圧倒的な存在感を示したクリスティーン様だが、さすがに聖女の100叩きはまずかったみたいで、1週間の謹慎処分が下されてしまった。


その上、エルダとイングリッドも呼び出されて、3日間の謹慎を食らってしまった。


なんでも、一緒に聖女に対して扇動したからだとか。いや、本来なら聖女はもっと罰を食らって当然でエルダとかイングリッドが罰せられるのは違うだろうと私は思った。


そうして、私は一人ぼっちになってしまったのだ。


もっとも、クラスの皆はメリーとかドーソンとか私を守ろうとはしてくれたが、どうしても手薄になってしまう。



そして、翌日朝、ルンド先生が教室にやってきて、座席がもとに戻されたのだ。


私の席は一番うしろになってしまった。


「先生、おかしいんじゃないですか。何故アンさんの席が一番うしろになるのですか」

ドーソンが怒って言ってくれた。


「そうです。席順は名簿順のはずです」

メリーも言ってくれる。


でも、アルフたち男性陣は黙ったままだ。フィル様に気を使っているのだろう。

もう二度とフィル様とは話すなと王妃様には言われているし、私も席が隣でないほうが嬉し・・・・くはないが、それは席が離れるのは悲しいけれど、隣りにいても話せないのでは辛いだけだ。


「私もそれについて詳しいことは聞いていません。学園長命令です」

「そんな」

皆の視線がルンド先生に突き刺さる。


「先生。でも、それはおかしいと思うんですが」

そこに意を決してフィル様が立上って言われた。


ええええ! これはフィル様の考えでもあるのではないの? 王妃様に言われて納得されているものだと思っていたけれど。


「はいっ? これは殿下のお考えだと伺っていますが」

「はいっ? 私はそんな事は一言も言っていません。それは母がそう言っているということですか?」

フィル様がなんか怒っている。


「それはなんとも申せませんが、殿下がなんとかしていただけますか。学園としても王家の考えを持ち込まれるととても困惑しております」

「わかりました。母には、夜、私から話します」

殿下がブスッとして座られた。


いや、もう良いですから。フィル様と平民の私が仲良くするのは元々おかしかったんだ。私は諦めようと思った。




お昼はメリーやドーソンら女性陣が一緒に食べてくれた。


でも、いきなり、クリスティー様やエルダ、イングリッドがいなくなったAクラスはお葬式みたいに静かだった。いかにあの3人が存在感を持っていたか知らしめさせられた。



そして、クラス以外の他の皆の態度も冷たかった。

私は何回か令嬢達の冷たい視線を感じた。


トイレに行こうとしてB組の男にいきなりぶつかられた。あれは絶対にわざとだ。男は謝りもせずに去って行った。


「あーら、庇ってくれる人がいなくなるとあなたも形なしね」

確かB組の子爵令嬢だ。その言葉の端々に平民のくせにと言っていた。

「本当に身分も卑しいくせに、王太子殿下と仲良くするから、王家から睨まれるのよ。良い気味だわ」

女達は笑って去って行った。


私は唇を噛んだ。


まあ、学園はもともと貴族の多い世界だ。こんなものなのだ。今までエルダとかイングリッドに守られすぎたのだ。


私は諦めて教室に帰ろうとした時だ。



頭の上から大量の水が落ちてきたのだ。


私はずぶ濡れになった。


上を見ても何もなかった。近くで女達が笑いながら見ていた。あの中の誰かが水魔術を行使したのだ。


風魔術を御見舞することも考えたが、そんな事したら下手したら死人が出る。


怒りに震える濡れ鼠の私は我慢して、着替えるために部屋に戻った。




そして、扉に挟まれている不審な手紙を見つけたのだ。


「なにこれ?」

私は不審に思いつつ手紙の封を切った。


そこには文字が書かれていた。

『グレタ・シャーリーを預かった。無事に返して欲しければ今夕18時に一人で馬車ターミナルに来い。誰かに話せばその瞬間グレタの命はない』

私は驚きのあまりその場に固まってしまった。


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