第63話 ブルーノ視点 好きだった王妃を殺してしまいました
俺はアンネが好きだった。
貴族の集う中等部のクラスの端からいつもアンネを見ていた。
しかし、俺はブルーノ・カッチェイアというしが無い男爵家の令息に過ぎない。アンネは伯爵令嬢だった。可能性はゼロではないが限りなく少なかった。
だから、俺は必死に魔術の勉強をした。少しでも認めてもらうように。
魔術の強い者が集められて隣国オースティン王国に留学することになった。
アンネも俺も選ばれたのだ。一緒に留学できると聞いて俺はとても嬉しかった。
クラスはアンネはAクラスで、男爵家の俺はBクラスだった。クラスが違うので一緒になれる時は少なかったが、偶に食堂に出会うくらいだった。
魔術はアンネはオールマイティで俺は珍しい闇の魔術だった。
俺とアンネは留学生の中でもずば抜けて力が強くて、ガーブリエル様の弟子になれたのだ。
その中にはオーステン王国の王太子や、多くの高位貴族の面々がいた。アンネはその中でも輝いていて、皆のマドンナ的な存在だった。俺たちは必死になってアンネの心を掴もうとした。
でも、最終的にそのアンネの心を攫っていったのは我が国の王太子オスヴァルドだった。3年生の時に留学してきた彼は一瞬でアンネをかっさらっていったのだ。
俺は抜け殻のようになってしまった。
俺たち留学組は帰ると各々役割を与えられた。
俺はなんと大魔術師の地位を与えられたのだ。
抜け殻のようになっていた俺はここで死ぬわけにも行かず、何とか新しい職務に励もうとした。
そんな俺に王太子の妹の王女が近づいてきたのだ。
アンネが取られてもうどうでもいいと思っていた俺は王女の配偶者となった。
王太子の婚姻は盛大に行われた。
しかし、王太子には隣国の王女が側妃として既にいたのだ。
事情はよく判らなかったが、強引に王女が押しかけてきたらしい。
それを側妃するとはどういうことだと思ったが。
それよりも俺はアンネ以外に側室を迎えた王太子のオスヴァルドを許せなかった。アンネ一人を愛するのではなかったのかと。隣国の王女がいればアンネも大変なのではないかと心配もした。
だが俺の心配は杞憂だったようで、最初こそ嫡男を生んだ側妃だったが、いつも王太子と一緒にいるのはアンネだった。
でも、それはそれで俺は地獄にないるような気分だった。好きだった女が別の男と一緒にいるのをいつも見なければならないのだから。
そんな悶々としている俺にその側妃が接触してきたのだ。
その側妃は全然相手にしてこない王太子に絶望していた。そして、自分と王太子の間に生まれた息子に継がせたいと。
ベッドの中での会話だ。俺は黙って流そうとした。そうしたら側妃が悪魔の囁きをしたのだ。
「王太子が死ねばアンネを貴方の物に出きるわ」と
それは本当に悪魔の囁きを囁きだった。
俺の心はその時、まさに闇に堕ちてしまったのだ。
そして、病弱だった国王が死んだ。
俺は事を起こしたのだ。
闇に染まった俺は憎き王太子を後ろから刺し貫いたのだ。
一刺しだった。
王太子は
「何故?」
驚愕に見開いた、目で俺を見ていた。
「お前がアンネを奪ったからだよ」
俺は余程そう言い放っていた。
それを見て王太子の側近たちが俺に向かってきた。
しかし、大魔術師の俺に敵うわけもなかった。
そして、側近共を肉片に変えたところで、後ろで悲鳴が上がったのだ。
「オスヴァルド!」
そこには何と目を見開いたアンネがいたのだ。
アンネからは凄まじい殺気が俺に向かって放たれていた。
俺は何をとち狂ったか、思わずその魔術を反射してしまったのだ。
アンネは自分の放った莫大な魔術を受けてボロ布のように弾き飛んだのだった。
「アンネ!」
俺は叫んだ。でも、もう、アンネは虫の息だった。
アンネは残りの全ての魔力を自分の後ろに控えていた侍女とその娘のアンネローゼを守るために発動しのだ。
二人は転移して消えた。
「アンネ」
俺は駆け寄ったが、もうアンネは息をしていなかった。ある全ての魔力を自分の娘を守るために発動しのだ。
俺を頼ること無く。
俺は自分がとんでもないことをしてしまったのを理解した。
「なあに、ブルーノ。その女をあっさり殺してしまったの」
残念そうにドロテーア側妃が言った。
「何だと、貴様が悪いのだ。貴様が俺をそそのかしさえしなければ」
俺は怒りのあまり、魔術の全てをドロアーテに叩き込もうとした。
「姫様!」
俺の渾身の一撃は前に飛び出した侍女を肉片に変えただけだった。
「な、何をするのよ」
「き、貴様さえいなければ」
俺は次々に爆裂魔術を叩きつけたが、側妃は隣国からこのときのために優秀な魔道士を連れていたのだ。
この国を乗っ取るつもりだったみたいだが、怒りに満ちた俺の前に次々と倒れていった。
しかし、その家来が犠牲になっている間に何とか側妃は逃げ出したのだ。
俺はまず、この王宮をまとめるのに精一杯で追う余裕はなかった。
結局優秀な兄と義姉に嫉妬して、よく思っていないというか憎んでいた俺の配偶者の王女が女王となった。俺は王配となり、強権を発動して言うことを聞かない奴らを次々に討ち果たしていったのだ。
もう、俺にとってアンネのいないこの国に未練など無かった。
しかし、始めてしまった以上どうしようもなかった。
逃げ出した側妃は隣国エスカール王国との国境部分の一部を占拠して独立した。エスカール王国はこの国よりも規模が大きく、脅威だった。ただし、その優秀な魔術師の多くを俺が倒したことでエスカールも打ち手がなく、こちらも敵が多すぎたので、やむを得ず、その新スカンディーな王国を認めエスカール王国と手打ちした。
そして、摂政となった俺は以来20年近くこの国を支配していた。何の希望もなく。ただただ惰性で。陰で闇の帝王とか言われて怖れられているようだが、どゔても良かった。逆らうやつは肉片に変えるだけだった。
その俺のところにアンネの娘が隣国オースティン王国で生きているらしいと情報が入ってきたのだ。俺は久しぶりで、その事を詳しく報告するように命じたのだった。
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