第57話 王妃のところに呼ばれました

私は疲れ切っていたのか、久しぶりにぐっすり寝てしまった。

ハッと気づくと知らないところにいた。


ここはどこだ?

なんか寝ている寝具もとてもフカフカで、そもそも大きなベッドに天蓋があるんだけど、こんな立派な布団に寝たことなんてない。それに装飾も立派だ。ここはひょっとして・・・・。


確か、ガーブリエル様とフィル様が助けに来て頂いて気を失ってしまったのだ。


「お目覚めですか?」

侍女が顔を出してくれた。この制服は王宮の侍女だ。


ええええ! 


「あの、ひょっとしてここは王宮ですか?」

「はい、そうです」

私の反応に侍女は驚いた顔をしていた。


「この部屋って」

「王宮の部屋です」

「本当ですか。このふかふかのベッド。夢にまで見た天蓋。ひょっとしてこれは客用寝室というものではないですか」

私は王宮には毎週末来ていたが、いつも行くところは魔術の塔で王宮の中に入ったのは王妃様に呼ばれて以来だった。


「そうですよ」

面白そうに侍女が私を見ていた。


「すごーーい。私、小さい時からどこかの客用寝室で寝るのが夢だったんです。まさかそれが叶う日が来るなんて。それもお貴族様、いえ王宮の客用寝室で寝られる日が来るなんて思ってもいなかったです。ああん、こんなことなら何で気絶していたんだろう」

私は気絶していたことを後悔した。


「ぷっ」

侍女はいきなり吹き出した。


「えっ」

私はその様子に驚いた。


「ご、ごめんなさい。あまりにも、反応が面白くて、つい。殿下にはご内密に」

侍女は慌てて謝ってきた。


「まあ、アン様。そこまで喜んで頂けるなんて、私としてもとても嬉しいです。これよりは劣るかもしれませんが、客用寝室でよろしければ、また、ご用意は出来ますよ」

侍女が分けのわからないことを言ってくれる。私があまりにも落胆したからだろうかか。


「いえ、そのようなことは畏れ多いですし、私の戯言として忘れてください。それよりも私はどうしてここに?」

私は慌てて話題を変えた。これ以上、侍女さんの仕事を邪魔するのは良くないし。


「王太子殿下がここまで連れて来られたのです」

「そうですか。殿下がここまで・・・・」

私はそれがとても嬉しかった。


基本的にモブですらない平民の私が、王太子殿下にそんな事されるのは間違っている。ありえないのだ。今だけこの学園にいる間しか、許されないことだ。でも、今だけはそれが許されたい。


本来ならば許される事などあり得ないのに、私はそう思ってしまったのだ。


「宜しければお食事をお持ちしますね」

「えっ、あ、すいません」

思わず考え事をしていた私に侍女が言ってくれた。


私は服を見ると、いつの間にかふわふわの寝間着に着替えさせられていた。彼女が着換えさせてくれたのだろうか? それに横に置かれている制服は洗濯までされていたのだ。私は侍女が食事を持ってきてくれる間に制服に着替えた。


侍女は豪勢な朝食を持ってきてくれた。

私はベッドの傍の机の前の椅子に腰掛ける。


「凄い」

私は感動した。でも、なにか忘れているような気が・・・・。


「あっ、今何時ですか」

私は慌てて叫んでいた。そう言えばガーブリエル様の特訓の時間に遅れてしまった。


「もうお昼前です」

「えっ、やばい! 遅刻だ」

私はあ立てて立上った。


「ガーブリエル様は朝一番にいらっしゃいまして、疲れているのならば今日は休みだとおっしゃっていらっしゃいましたよ」

「えっ、そうなのですか。良かった」

それを聞いて私はホッとした。


私はもう一度椅子に座る。ならばせめて朝食は食べる時間くらいあるだろう。


私は温かいスクランブルエッグにスプーンを入れる。


「美味しい」

ふわふわした卵に対しての塩加減が絶妙だった。


ご飯はとても美味しかった。さすが王宮。


「アン様はとても美味しそうに食べられるんですね」

「アン様なんて止めてください。私は平民なので、普通にアンとお呼びください」

「いえいえ、お客様ですから。それは出来ません」

侍女さんが首を振ってくれた。でも、王宮に務めている侍女さんは下手したらお貴族様だ。


「そうですか。でもあなたの方が絶対に私よりも身分は上だと思いますよ」

「そのようなことはございません」

侍女さんはそう言ってくれたけど、それはおそらく違うはずだ。


「王宮でお食事を頂くなんて、もう二度とないと思うので、味わって食べているんです」

「えっ、でも、アン様は王太子殿下の御学友では」

私の様子を侍女は不思議そうに見て言った。


「何をおっしゃっていらっしゃるんですか。私はたまたまクラスで席が殿下の隣になっただけですよ。それだけです。それに、殿下に婚約者が決まったら、私なんか、見向きもされなくなりますし」

卑屈にならないように注意しながら私はそう言った。


でも、胸が少し痛かった。


私が無理して微笑もうとした時だ。


ノックがされて、女官長が入ってきたのだった。

私はゲッと思った。


「いつまで寝ているの? 平民のくせに」

早速嫌味炸裂だ。


「女官長。まだ、アン様はお食事中です」

侍女が逆らってくれた。えっ、良いの?


「はあああ、王妃様がお待ちなのよ。なぜもっと早く食べさせないの」

女官長がムッとして言う。


「殿下からはアン様が起きるまでは寝かせておくようにと言われております」

ムッとして侍女が言ってくれた。

えっ、でも、女官長は侍女の中では偉いはずだ。一介の侍女が逆らって良いはずはないのに、大丈夫なんだろうか?


「あ、あの、王妃様がお呼びなのですか?」

私は二人の間の剣呑な空気に思わず聞いてしまっていた。


「そのようですね。でも、折角の王宮のお食事なのです。アン様にはじっくりと味わって頂きたいのですが」

「ご好意ありがとうございます。でも、王妃様をお待たせしていると思いますと、食事も喉を通りません」

「まあ、アン様は思ったよりも小心なのですね」

侍女が笑ってくれた。うーん、まあ侍女のほうが高位貴族だとは思うけど、そうあからさまに言わなくても良いんじゃないかと思うんだけど。だって王妃様は怖いし。


「仕方がありませんね。王宮の全ての人間がお客様の食事の時間も待てないほど礼儀知らずではありませんのよ」

えっ、この侍女、絶対に女官長に喧嘩売っている。良いのか?

女官長はムッとした顔をした。


やばい、これは絶対に侍女さんが怒られる。


私は慌てて立上って話題を変えようとした。


でも、女官長は歯を食いしばってなんか耐えている。

侍女さんのほうが面白そうに女官長を見ているんだけど、何故こうなっている?


怒った女官長を先頭に、怯えている私と鼻歌を歌いそうな程機嫌の良い侍女さんが殿を勤めて私は王妃様のところへ連行されたのだった。


どうなるんだろう私・・・・

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