第58話 王妃に隣国の王女と似ているからという理不尽な理由で王太子に近寄るなと言い渡されてしまいました

「王妃様、連れて参りました」

女官長はそう言うと私を中に招き入れた。


そこには待ちくたびれた感満載の王妃がいた。


「よくもまあゆっくり眠れたものね。能天気なこと」

いきなり王妃の嫌味が炸裂した。


「も、申し訳ありません」

そんな、待っているなんて知らないわよ・・・・と言いたいのを飲み込んで慌てて私は謝った。


「平民の分際で、フィリップに王宮に連れて来られて舞い上がっているの?」

「そ、そのようなことは」

王妃の嫌味に思わず私は否定しようとした。


そうだ。基本的にフィル様との付き合いは学園の間だけだ。それは判っている。それに今回は私が頼んだのではない。


「判っていないのであれば、言い聞かせますが、あなたは正妃になれる身分ではないわ。妾になって王宮ですごすならばいざしらず、そのようなことは望まないでしょう」

「それは判っております」

私は冷めた声で言い放った。


フィル様はこの国の王太子であり、普通は隣に立てるのは伯爵以上の令嬢だろう。平民の私なんかが立てるわけはない。そんなわかりきったことを何故この王妃が聞くのか私にはわからなかった。


「そして、もしあなたが、アンネローゼだったとしても、それは同じことなのよ」

「はい?」

私は王妃が何を言おうとしているのか全然判らなかった。アンネローゼは隣国の元王女だ。確かに私がにているのかもしれないが、似ているだけではないのか?


「えっ、アン様はあのアンネローゼ様なのですか」

いきなり侍女さんが横から言ってきた。今突っ込むかと私が危惧すると

「あなたは黙っていなさい」

凄まじい剣幕で侍女さんは怒られていた。


「申し訳ありません」

侍女さんは即座に謝ったが、侍女さんは私の方にウィンクを飛ばしてきたのだ。


ええええ! この侍女さん何なの? 王妃様に怒られてもびくともしていないんだけど・・・・



「あなたが隣国の元王女アンネローゼではないのかと聞いているのよ」

王妃様は侍女さんを無視して私を睨みつけてきた。


「何を仰っていらっしゃるのか全くわからないのですが」

私はそう言うしかなかった。私は末尾がeだがれっきとした平民のアン・シャーリーなのだ。アンネローゼではないのは確かだった。



「あなた本当に知らないの?」

「知らないって、何をですか?」

「自分がアンネローゼだってことをよ」

王妃様は驚いて聞いてきた。


「はいっ? 私はアン・シャーリーなんですが」

何を王妃様が言われているか理解出来かなった。私がアンネローゼ様の訳がないではないか。


「えっ?」

「?」

私の言葉に王妃様が驚かれたんだけど、私がアンネローゼ様の訳はないではないか?



「だってあなたのいるの領地はアンネと親しかったアベニウス男爵家だし、あなたの母親はアンネの侍女によく似ているわ。スカンディーナの大使からはあなたに面会させろと言ってきているし」


えっ、なにそれ? 母が、アンネ様の侍女に似ている? それで隣国の大使が会いたいって何だ? 私が元王女に似ているから会いたいってこと?

もう私の頭はこんがらがっていた。



「あのう、王妃様。何を仰っているか全くわからないのですが」

「あなたがフィリップの周りをうろついているのは、あなたがアンネローゼだからではないの? 昔のつてを頼ってスカンディーナに復讐して欲しいって言い寄るためではなくて」

「はいっ?」

この王妃様は何を言っているのだ。昔のつてをも何も私は王族につてなんかないし、知らない王妃のために復讐してほしいなんて言う訳はない。身に覚えのないことを言われても私には判らなかった。


「何を仰っていらっしゃるのか全く判りません。殿下が私に良くして頂けるのは私がたまたま隣の席にいるからだと思いますが」

私は理解できなかった。


「まあ、良いわ。はっきり言っておきます。あなたがたとえアンネローゼだとしても、申し訳ないけれど、我が国は隣国のスカンディーナ王国との関係を悪化させる訳にはいかないのよ」

「はあ?」

いきなり隣国の話が出てきて王妃様が何をおっしゃりたいのか更に理解できなくなった。と言うか私はアンネローゼではない。


「隣国の王配であられるブルーノ・カッチェイア様は未だにアンネローゼを探していらっしゃいます。もしあなたがアンネローゼだった場合、そのあなたがフィリップと親しいとなると余計な紛争の種になるのよ」

「あのう、私はアン・シャーリーであってアンネローゼ様ではないのですが」

私はいい加減に切れそうになっていった。


「本当にあなた違うの? その見た目も仕草もアンネそっくりなんだけど」

「他人の空似です」

そんな話母さんに聞いてことはなかったし、手紙でだって他人の空似だと書かれていた。それに母さんはこの国の人だもの。

もう私は全く判らなかった。隣国の元王女に似ているからフィル様に近寄るなって、絶対におかしくない?


「あなたがあくまでもしらをきるなら良いわ」

なんか王妃様は一人で納得しているんだけど、私は全く納得できない。私はアンネローゼではなくてアンなのだ。


でも、次の一言で私は絶望の淵に叩き落されてしまった。


「あなたがフィリップに近寄ると隣国との関係が悪くなるの。だから、これ以上フィリップに近寄らないで。話もしないで頂戴」

「そんな」

「この件はフィリップも納得しています。学園には席変えも含めて話は通します。私の話は以上です」

「・・・・」

私はショックのあまり何も話せなかった。


そして、そのまま王妃様の部屋から叩き出されてしまったのだった。

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