第14話 ちっぽけな火の玉で倉庫を破壊してしまいました

ダンスの授業の後皆の私に対する視線がメチャクチャ強くなったと思えたのは気のせいだろうか。

まあ、ダンスのステップも強引なフィル様のおかげで少しは覚えられた。


授業の終わった時は私はもうへとへとだった。


そのまま、エルダとイングリッドに食堂に連れて行かれたけれど、何故かまた、フィル様の横に座らされているのは何でだろう?


それで、イングリッドが

「ええええ、今日は人参がない!」

とさっき叫んでいたんだ。


でも、何故私がフィル様の横なの? イングリッドかエルダが座りなさいよ。

後で文句言ったら「だって私にはイェルド様がいるもの」

ってイングリッドは言うし、

「あなたには兄は無理よ」

「ふーん、じゃあ、何故あなたは座らないのよ」

「私もフィルはパス」

「とか言って、私の兄は無理よ」

「そんなんじゃないから」

「ふーん」

イングリッドがそのエルダを面白そうに見ていたし。



今はイングリッドがお誕生日席にわざわざ隣のテーブルから椅子を持ってきて座っていた。


「そう言えばアンは次の魔術実技の授業はどうするんだ?」

「そうよね。どのクラスに行くの?」

「取り敢えずグランドに来るようにって言われているんだけど」

魔導実技のクラスは適正ごとに分かれるのだ。アルフが火、エルダとイングリッドが水、バートが土、フィル様とルーカスが風だった。

アルフとエルダが心配してくれたけど、取り敢えず、私はグランドに来るようにとしか言われていないのだ。


「グランドか、俺ら火のクラスは訓練場だから違うな」

「水のクラスはプールだから違うよ」

「土のクラスは中庭」

「風のクラスは教室だからな」

「えっ、グランドってどのクラスもないの?」

私は驚いて聞いた。


「そうみたいだね」

フィル様が心配したように言ってくれるんだげど、グランドで一人何するんだろう?

私は不安になった。


「判った。アンは授業態度が悪いから補習だ」

「それ言えている」

イングリツドとバートがとんでもないことを言ってくれているけれど、そんな訳あるか!

ないよね?




私はおっかなびっくりで取り敢えず、ジャージに着替えて、グランドに行った。ジャージと言っても学校のダサいジャージじゃなくて水色の結構デザインに凝ったジャージだ。


でも、グランドは誰もいなかった。


シーンとしている。


ええええ! 本当に授業態度が悪いからグランドに立っていなさいって感じなの?


私は唖然とした。


遅れているだけで、誰か来るはずだ。


でも、5分過ぎても誰も来ない。


いい加減に不安に思った時だ。


職員室の方からルンド先生が歩いてきた。


ウッソーーー、本当に補習なの?


「シャーリーさん。どうしたんですか?」

しかし、どうやら違うようだ。私はホッとするとともに、更に不安が増した。


「魔導実技の授業なんですけど、グランドに来るように指示されたんですが、誰もいらっしゃらなくて」

「あのジジイ、また研究に没頭して忘れているのね! もう少し待っていなさい」

そう言うと先生は慌てて職員室に戻っていかれた。



そして、職員室から大声で誰かと話している声が聞こえる。魔道具で誰かと連絡を取っているみたいだった。

時間にルーズだとか、だらしないとか聞こえるんだけど、どんな人が来るんだろう? そう思って待っていると次の瞬間に目の前にガーブリエル様が転移で現れたのだ。


「すまんな。少し打ち合わせが延びての」

そう言うガブリエル様の足元に目が行く。右足は靴だけど、左足がスリッパなんだけど。絶対に打ち合わせなんて嘘だ。


「ん、どうかしたか」

私の白い目を見て、思わず足元を見て気付いたようだが、そこは大物。


「ほっほっほっ、まあ、なんじゃ、弘法は筆を選ばずじゃ」

とか訳の判んないことを言って誤魔化していた。



「まあ、儂も忙しい身じゃ。忘れていることもある。その場合は先程のヒステリー女に言えばよい」

私は頷いた。ルンド先生をヒステリー女と呼べるガーブリエル様は凄い。最もそう言っていたと言いつけたら面白いかもと思ったのは内緒だ。


「ではアン、早速、講義に入るぞ」

「はい」

私はガーブリエル様を注視した。


「その方は全ての属性を持っておる希少な存在じゃ。まあ、もっとも魔力量は少ないがの。まずは一つずつ、基本からやっていこうか」

「はい」

「ではまず火じゃ。出でよ炎よ」

ガーブリエル様は手の上に大きな火を出された。


「凄いです」

私は思わず感動した。


「まあこんなのは大したことはないが」

謙遜するが頬が緩んでいる。この先生はおだてに弱いんだ。


「次はアンがやってみよ」

「はい」

私は頷くと


「出でよ、炎よ」

そうやったが、全く出なかった。


「まあ、最初はそんなものじゃ」

ガーブリエル様が慰めてくた。


「心の中に炎を思い浮かべるのじゃ」

「炎ですね」

私は心のなかで小さな火を思い浮かべた。


「出よ。炎よ」

そうしたら、私の手の上に小さい炎が出たのだった。


「ガーブリエル様。出ました」

私は感動した。生まれて初めて魔術が使えたのだ。


「今度はもう少し大きくやってみよ」

「はい」

私は構えるともう少し大きな炎を思い浮かべた。

「出よ、炎よ」

今度は先程よりも少し大きな炎が出た。

でも何回やってもそれよりも大きくはならなかった。



「ま、最初はそんなものじゃろう。何回も練習すれば大きくなるはずじゃ」

「はい」

私は後で何回も練習しようと思ったのだ。


「では、少し攻撃魔術もやってみようかの」

「攻撃魔術ですか」

「そうじゃ、まずは見ておれ」


言うや、ガーブリエル様は構えた。

「出よ、火の玉」

そう言うと手の平太の火の玉が現れて飛んでいく。


それはガーブリエル様が張った障壁に当たるや大きな爆発音を残して四散した。


「では、その方もやってみよ」

「はい」


私は構えると心のなかで火の玉を思い出した。

「出よ、火の玉」

本当に小さな火の玉が生まれた。


そして、それはポヨポヨと揺れながらゆっくりと飛んでいった。


「うーん、これは途中で消えてしまうじゃろ」

ガーブリエル様は障壁を消した。


「うーん、その方はやはり、まだまだじゃ。取り敢えず、まず、炎の魔術になれることが必要じゃ。そのためには何回も・・・・」


ドカーーン

その時だ。凄まじい爆発音がして私が飛ばした火の玉の方向にあった倉庫が爆発していた。


「えっ」

「まさかの、あんな火の玉で倉庫を爆破してしまうとは」

私は驚いたが、ガーブリエル様まで、あまりのことに唖然としていた。




その後、慌ててと音を聞きつけた先生方や騎士たちが駆けつけて来て大変だった。教室からは何が起こったと皆顔だして見てくるし・・・・。


「大魔術師と呼ばれているガーブリエル様がついておられながら、どうしてこうなったのですか・・・・」

私とガーブリエル様の二人はルンド先生を前に1時間位怒られることになった。


私はガーブリエル様の言う通りにしただけなのに、何で怒られているんだろう? 解せぬ!


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大魔術師の予想の斜め上を行くアンでした!

そろそろ、敵役というかヒロインの聖女も登場する予定です。

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