106 憑依スライム・アリス&カナタ28


 遥さんがいる。

 え?

 どうして?


「まぁ、あれだけ神聖魔法が強ければそうなるだろうな」


 そっか。

 いまの僕でも使えない神聖魔法・聖域が使えるんだし、ここの人たちに目を付けられたのかな。


「なんとか接触できないかな?」


 遥さんがここで暮らしているのなら、色々と相談できるかもしれない。

 でも、ここの空間はどれだけ見渡しても外へと出られる場所が見当たらない。

 たぶん……ていうか確実に、ここは女風呂を覗くためのだけの場所だ。

 最低の空間だ。


「それなら、そこの穴から向こうに行けばいいではないか」

「へ?」


 どうにかできないかと考えているとアリスがそんなことを言う。


「え? でも……この穴小さいよ?」


 覗き穴はドアスコープぐらいに小さい。

 通り抜けるなんてとてもできそうにない。


「なにを言っている? いまの我らはスライムだぞ? 骨もない不定形生物だぞ」

「あっ、そうか。いや、でも……」


 でもそれって女風呂に入ることになるんだけど?

 いいのか?


「それしか方法はあるまい? ほれほれ」

「う、うう……」


 アリスに押されるように、僕は覗き穴を抜けることに挑戦した。


 透明化して、気配遮断もオーケー。

 覗くつもりはないけど、バレたりなんてしたくない。

 たとえスライムの姿だとしても!

 なんとなくだけど、僕の尊厳が死ぬ気がする。


 よし、行こう。


 意識をすると簡単に細い穴を抜けて向こう側に出ることができた。


 やった。

 とりあえず、風呂の中を見ないようにしてアリスが出てくるのを待つ。


 ぽてんと透明ななにかが僕の上に落ちてきた。


「アリス?」

「うむ」

「よし、じゃあ行こうか」

「なんだ? 湯船に入らないのか?」

「するわけないよね⁉」

「つまらん奴だ」


 たとえその欲望があったとしても、奥さんの隣でそれを発露できる人がいたらかなりの変態さんだと思うけどね!


 脱衣場のある方向を見つけて浴場から脱出。

 そのまま脱衣場も抜けて外の廊下で遥さんが出てくるのを待つ。

 しばらく待っていると、白いローブを着た遥さんたちが出てきた。神官のローブというよりは浴衣かパジャマみたいな立ち位置の服かな。ムームーだっけ? それっぽい感じもする。

 この場面だけを切り取るとスーパー銭湯みたいだ。

 他の女性と仲良さそうに話しながら進んでいく彼女を追いかけると、一人で部屋に入っていく。

 なんとか彼女の足をすり抜けて先に部屋に入る。


 いざとなるとぽてんぽてん移動ではなく、すぴょん移動もできるのだ。


「うん?」


 足元を通り抜けた時に気付いたみたいで遥さんが首を傾げている。


「遥さん」

「え⁉」


 ドアを閉めたところで姿を見せて話しかけた。

 変身を使ってスライムから僕の姿になる。


「彼方君?」

「はい」

「彼方君!」


 と、いきなり距離を詰めてきたかと思うと僕の肩を掴んだ。


「え? え?」

「どうして、あの時の小さい姿じゃないの?」

「え?」

「あの時の姿が良い!」


 せっかく変身に慣れていまの僕の大きさに慣れたっていうのに。


「やはりこいつ、ショタだな」


 赤スライムのままのアリスが僕の肩に乗ってそう言った。


「彼方君!」

「はい、わかりました!」


 やや自棄気味に答えて、小さ目な自分を想像する。

 うん、うまくいったみたいだ。

 遥さんはとても満足そうに微笑んだ。





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