105 憑依スライム・アリス&カナタ27


 通り抜けられるのを確認してから一度結界の中に戻る。

 まだ準備は終わってないからね。

 これから隠密行動をするから気配遮断も一気に30にアップ!


「えっと……他に何か必要なのはあるかな?」

「カナタ、忘れているぞ」

「え?」

「上げれるときには生命と魔力!」

「ああ、そうだった」

「まったく、素のカナタは弱いんだから安全をちゃんと確保しろと前にも言っただろう」

「はーい」


 お母さんかと思ったことは内緒。

 というわけで仮想生命装甲と魔力最大値増加も30にアップ。


 まだまだ貯蓄魔力値が余っているので、きりよく魔眼を30にして遠視を5にアップさせておく。

 キリよくっていうなら他のスキルも30を目指したらいいかもしれないけど、それだと途中でなにかが必要になった時に貯蓄魔力値が足りないってなったら困るので、今回はここでストップ。


「他は大丈夫かな?」

「たぶんな」


 さすがのアリスも全部は読み切れないかな。


「じゃあ、とりあえず結界を出ようか」

「これからどうするつもりだ?」

「ドアを開けてくれるのを待ってみるけど……」


 開けてくれたらそのまま透明&気配遮断で脱出するんだけど。


「開かなかったら壁に穴をあけて出るしかないよね」

「ふむ。考えているならいい」

「それじゃあ」


 というわけで神聖魔法・聖鎧を僕とアリスにかけて結界を脱出。

 部屋の中はもともとなにかを保管するための部屋なのかなにもない。

 白い壁に囲まれている環境にずっといるのは精神衛生的によろしくない気がする。

 赤い部屋だと狂暴になるんだったかな?

 なんかそんな雑学か都市伝説みたいなのがあった気がする。


「カナタ、こっちに来てみろ」

「なに?」


 結界を出て外の気配を探ろうかと思っていたらアリスに呼ばれた。

 見れば一方の壁と床の角にいる。


「結界にいる時から気になっていたんだが……ほら」


 アリスが何をしたのかわからないけれど、壁の下部分に花弁風の魔法陣が展開した。

 魔法陣学が教えてくれる。

 これは……。


「空間魔法系?」


 っていうのはわかったけど、それ以上わからない。

 ああ。これって魔法陣の発生部分にある魔法への理解が足りないってことだ。

 さっきの結界は神聖魔法が関係していたからすぐにわかった。

 けどこれは、僕の空間魔法lv10より高いスキルレベルで作られているからわからないんだ。


「空間魔法のスキルも上げる?」

「それはまた今度にしておこう。答えは、転移門だ」

「転移?」

「さてどこに出るのか……行ってみるか?」

「うん。でも……転移した先が石の中とかないよね?」

「はは。転移先に対象物を受け入れるだけの空間がなければ、普通は魔法が発動しない。……普通ならな」

「軽く脅しを混ぜるのやめてくれない?」

「カナタが怖がって我を頼ってくれるとすごくうれしい」

「さっきまで僕にやらせようとしてたくせに?」

「カナタの成長は嬉しくもあり、寂しくもあるな。もっと我に頼って欲しい。震える子犬のように」

「アリスってば……」

「ふふふ。さて、冗談はこれぐらいにして行ってみるか」

「そうだね」

「では、魔法陣を起動させるぞ」

「うん」


 アリスの赤いスライムがぴょんと跳ぶと、魔法陣が起動して視界が暗転した。


 暗かったのはほんの一瞬で、すぐに光が飛び込んできた。

 あれ?

 でもこの光、一点からしか差し込んでない。周りは変わらず暗いまま。

 どこか狭いところ?

 アリスがぴょこたんと跳ねて小さな穴に張り付いた。


「ほほう」

「え? なに?」

「見てみるか?」

「危なくない?」

「ある意味で、カナタには危険ではあるな」

「どういうこと?」

「見るか?」

「……じゃあ見る」


 挑戦的なアリスの誘いに乗った。

 考えてみれば失敗だ。

 アリスは明らかに、僕がこの選択を採るとわかっていて、いや、こうなるように誘っていた。

 だけどまさか、僕だってこの向こうにどんな景色があるかなんてわかるはずもない。

 むしろ恐怖映像的な物が待っているのではないかとちょっとドキドキしながらアリスが退けた穴に張り付いて覗き込んだ。


 そこに広がっているのは白い靄?

 あ、違う。

 これ湯気だ。


 え? 湯気?


 それってつまり……。


 ザバッと、水の動く音がした。

 そして視界に肌色が過ぎていく。

 湯気が動いて、その向こうに隠れていたいくつかの影の正体がはっきりする。

 肌色だらけ。

 いやそれだけじゃない。


 あ、これってお風呂だ。

 しかも女風呂。


 しかもしかも……すぐ目の前を過ぎていった肌色が戻って来る。

 湯気が動いたからか、顔が見えた。


「うひゃぁ!」


 スライムの時の声は意識しないとアリスにしか通じないからよかった。

 聞こえていたら大騒ぎだ。


 穴の向こうにあるのは女風呂だ。

 そして、僕が思わず声を上げた肌色の人。


 遥さんだ。

 どうしてか、遥さんがここにいた。




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