87 モンハン会お終いの夜
キムチ鍋を食べ終わり、それからさらに数狩りしてから掛井君は帰っていった。
一色は残ってる。
「送ろうか?」
「泊まる」
「そう?」
「泊まる」
「そっか」
意地でも動かないという顔をする一色をそのままにして、汁しか残っていない鍋が冷めているの確認して冷蔵庫に入れておく。チーズとご飯を足してキムチリゾット。明日の朝食だ。
さすがに狩りには行かず、リビングでだらだらとする。
「ところで、どうやって寝る気だ」
「アリスと一色がベッドで寝て、僕は床で寝るけど?」
掛井君が泊まるときからそういう話になっていた。
「三人で寝ればよかろう」
「っ!」
「三人で寝るには狭いよ」
「(ショボーン)」
なんだか一色の表情が目まぐるしい。
そんな一色を見ていて、思い出した。
「そうだ。一色って、阿方先輩って知り合い?」
「? ああ、陸上部の先輩だけど。どうした?」
「実はさ」
先夜のことを説明する。
途端に一色の顔色が変わった。
「それは本当か?」
「うん。……まずかった?」
表情を見ればわかる。
「実は、阿方先輩、今週ずっと休んでいたんだ」
一色が暗い顔で言う。
「そんなに長く休むのはおかしいとは思っていたけど、まさか……」
「やばい?」
「かもしれない。その場所は?」
「僕も行くよ。アリス」
「んん? はいはい、結局関わるのだな」
お人好しめと笑いながら、アリスがベッドから起き上がった。
スーパーの駐車場に到着する。
「あっちだよ」
阿方先輩が黒い人型に引っ張られた場所に案内すると、一色はあちこちに視線を巡らせる。
僕も魔眼・霊視をオンにする。
なにかないかなと思ったけど、以前に教室で見たような黒い靄がまばらに散らばっているだけ。
なにもな……。
あった。
あちこちに散らばっている黒い靄がどこかに動いているなと思って目で追っているとそれを見つけてしまった。
「なにあれ?」
僕の指摘で一色もそちらを見る。
「うっ」
彼女も息を呑んだ。
それは黒い靄で出来上がったドアの枠みたいに見えた。
あるいは鳥居かもしれない。
「これは……どこかに通じているのか?」
「そうなの?」
黒鳥居はマンションの敷地内にあった。オートロックの玄関の側、壁に沿うようにしてある。
まるでマンションの裏口だとでも言いたげだ。
「ここって、阿方先輩の住んでるマンションだったりする?」
「いや。どうして?」
「家、近くだからってこっちの方向に行ったのは見たから」
「そんなはずはない。先輩の家は……」
一色の行った住所はこことは全然違った。
「……迷わされてるのかもしれない」
「迷う?」
「神隠しのようなものだ。こことは別の場所に」
「あれが、そこに通じているかも?」
「どうする?」
「……先輩には恩がある。助けられるならそうしたい」
「恩って?」
「…………彼方のアレを私が訂正して回ってる時、陸上部で立場が悪くなりそうになってた」
「それは……」
「別にいいんだ。それは私がやってしまったことなんだから。でも先輩が庇ってくれた」
『間違いは誰にでもあるんだし、それを取り戻そうとしている一色を悪く言うのは違うんじゃない?』
「嬉しかったんだ」
「そっか」
味方がいなくなると思っているときにいてくれたら嬉しいよね。
その気持ちはわかる。
「じゃあ、行ってみようか」
「私は行く。だけど、彼方までそんな危険を冒す必要はない」
「大丈夫だよ。だって、幼馴染の問題だからね」
「……すまない」
「アリスは……」
「カナタが行くのなら行くに決まっているだろう。妻だからな!」
「ぐっ!」
アリスが一色に胸を張り、一色が呻く。
うーん。
大丈夫かな?
ちょっと心配になった。
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