88 黒鳥居の向こう側 01
恐々と触れるとするりと抜けた。
「うわっ」
タタッとたたらを踏んだ先は眩しくて目がちかちかした。
「明るい?」
電灯の光?
違う。
「え? 昼?」
太陽の光が燦燦と降り注いでいる。
ちょっと暑いぐらいだ。
「ていうか、どこ、ここ?」
あぜ道、山、田んぼ。
田舎の風景だ。
「あれ? アリス? 一色?」
二人ともいない。
僕だけが黒鳥居を潜ったってことはないだろうし、別々の場所に出た?
「まいったな」
待っていても二人が現れる様子がない。
生活魔法の失せもの探しで二人を追ってみても反応がない。
魔眼・霊視&遠視で周辺を鳥瞰してみても山間にある集落という風景しかない。
というか人気がない。
家はあるんだけど外に人は誰もいない。
念のためにと近くの家でチャイムを鳴らしたりしてみたけど誰も出てこない。
誰もいない。
元の場所に戻って僕が通った黒鳥居を探してみても見つからない。
ないない尽くしだ。
「……とりあえず、うろうろしてみようか」
いったん魔眼・霊視をオフにして歩く。
このままだとどうにも歩きづらい。
遠視は使ったままアリスたちを探しつつ移動するために並列思考のレベルを上げておくことにする。
うーん。
思い切って5から10に。
貯蓄魔力値がまた減って残り16900か。
でも、遠視を使い続けたままの負荷が減ったから無駄なレベル上げではなかったはず。
とりあえずこのまま道沿いに歩いてみようか。
「お兄ちゃん、誰?」
そう思っていたら、いきなり話しかけられた。
振り返ると、女の子がいた。
幼稚園の年長さんぐらいかな?
「え? 誰?」
いきなり現れた。
「あたし、れいちゃん。お兄ちゃんは?」
「あ、僕は彼方。よろしくね」
「かなた?」
「そう」
「かなたお兄ちゃん」
そう言って女の子は笑う。
「かなたお兄ちゃんはどこから来たの?」
「さあ? それがわからなくなったんだ」
「そうなの?」
「れいちゃんは? お家はどこ?」
「わかんない!」
にっこり笑顔で言うセリフではないと思うんだけど。
「そっか、困ったね」
「ううん。大丈夫だよ」
「どうして?」
「お友達がいるから!」
「お友達?」
「うん、そう! 見せてあげる!」
友達を見せる?
その奇妙な言葉遣いに疑問を抱くけれど、尋ね返す暇もなく、女の子は走っていく。
この子にしか会えていないのだから、鍵は彼女だけだから当然、追いかける。
その途中で何度か霊視をオンにする。
燦燦とした太陽の光が嘘になるくらいに黒い靄が溢れていて一気に視界が悪くなる。
走りにくいのでやはり霊視はオンのままにできない。
裏世界って言葉を思い出した。
とある小説に使われている言葉。
特殊な空間に迷い込む怪談や都市伝説をテーマに扱った作品で、マンガにもなっている。
僕がいるここも裏世界のようなものなんだろうか?
たぶんそうなのだろう。
女の子が走っていくのは山の方。畑と畑の間に道があり、それが山の奥へと繋がっている。軽自動車なら入れそうなぐらいの幅の道がある。もしかしたら大型農機具みたいなのが入り込んだりするのかもしれない?
でもこの先に畑がありそうな雰囲気はないけど。
不思議に思いながら進んでいくと、ようやく女の子が足を止めた。
道はまだ続いている。
だけど道の片方。山の外側の方が木々がなくて開けていて、景色を良く見渡せそうだ。
「見て」
女の子、れいちゃんがそう言って示したのはそちら側。
そして視線を向けると……。
「ううっ!」
叫びそうになって、なんとか堪えた。
そこから見える向こうの山のそのまた向こうから、それはひょっこりと顔を覗かせた。
「あか……ちゃん?」
山に負けないぐらいに大きな頭。その大きな頭を支えるには小さな体とそこから生えた手足。
ハイハイで山を乗り越えて来る。
「ぽーちゃんだよ!」
れいちゃんは嬉しそうに巨大赤ちゃんを紹介し、ぽーちゃんは空を震えさせるような大きな声で「ぽう」と言った。
そして、僕と目を合わせた。
ぞっとした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。