74 掛井君喜ぶ
モンハンを手に入れたことを告げると掛井君は非常に喜んだ。
まだキャラクターを作ってもいない状態なんだけど、問題ないと言ってくれる。
そんなに狩友に飢えていたんだろうか?
朝のまだHRも始まっていない時間。
次々に教室にクラスメートが入って来て、挨拶していく。
やってきた一色にぎろりと睨まれる。
ラインでも文句を言っていたけど、先に旅館を出たことをいまだに根に持っているみたいだ。
そしてアリスはそんな一色に「ふふ~ん」とドヤっている。
一色はそれを見て「きぃっ!」ってしてる。
僕は見ない振りをしよう。
「……何の話をしてるの?」
「モンハンだよ」
「モンハン?」
「スウィッチのゲーム」
「ああ」
その反応で一色がゲームをしないのだとわかる。
「手に入ったから掛井君とやろうって」
「通信でもいいけど、今度、琴夜君の家に行ってやろうぜ」
「え? うん。まぁ、いいけど」
アリスもいるけど、問題ないよね?
ちらっと彼女を見ても気にした様子はないから大丈夫っぽい。
「彼方の家? 私もやる」
「え?」
「スウィッチとモンハンを買えばいいんだな」
「一色?」
「彼方の家でやろう」
なんでかそういうことになって、今週末の予定が埋まってしまった。
「そんなに面白いのか?」
「うん?」
バイト終わりの帰宅中、アリスがいきなり聞いてきた。
「モンハンだ」
「ああ」
何気なく店長にモンハンを買ったことを話すとすごく熱く語りだしたのでびっくりした。
「ゲーム、つまり遊戯だろう? そこまで面白いものなのか?」
「なに言ってんの?」
「む?」
アリスらしくないことを言うなぁと思った。
「遊戯、遊びなんだから面白いに決まってるじゃない」
もちろん、合う合わないとかはあると思うけど、ゲームなんだから面白いを追及してるに決まっている。
「ふうむ。なるほど」
「帰ったらちょっとやってみよう」
昨日はセッティングしかできなかったから、僕だってやりたい。
特にあの巨大モニターでやったら大迫力に違いない。
楽しみだ。
その後、家に帰るとミズハのための神棚をセットしてお供えなんかをした。ミズハはあれから姿を見せないけれど、不意に気配を感じたりする。
いまも神棚の中に金色の光が吸い込まれていくのが見えた。
それを確認してからモンハンをやる。
初心者のアリスにテレビモニターを譲り、二人でキャラを作り、ストーリーを進める。
「う、む、む……」
コントローラーになれないアリスはマルチプレイに辿り着くまでにすごく苦労した。
スウィッチを触ったのは出会ってすぐのころに僕のステータスの基礎を作った時だけかもしれない。
だとしたらモンハンの操作はちょっと難しかったかもしれない。
あの顔だとすぐにやめるかもしれない。
そう思いつつ、今夜は一緒に一狩りだけして終わった。
目が覚めた。
「あれ?」
この感覚には覚えがある。
自分の用で自分ではない感覚。
あ、これスライムだ。
「アリス?」
「うむ」
あ、近くにいた。
「えっと……これって異世界?」
「そうだ」
「なんか急だね」
こっちに来るなんて寝る前には言わなかったけど。
「どうしたの?」
「我はな、考えたのだ」
「うん?」
「モンスターをハントしたいのであれば、我らにはこの方法もあるではないかと」
「なるほどね。……そんなに、ゲームでイライラした?」
「そ、そんなことはないぞ!」
うん、きっとそうだよね。
「……まぁそれはいいよ。アリスとここに来るのは好きだから」
「そうだろそうだろう」
「それで……」
「うん」
「ここはどこ?」
僕たちは辺りを見回す。
あちらこちらに水たまりみたいなのがある。
でも、地面? や壁? や天井? は肌色っぽい色をしている。
なんか変な煙? 湯気? 出ているし。
そこら中が『?』だらけなんですけど。
「うむ、我も考えた」
「うん」
「そこでな。思い出した。我らはこの前、どこであちらに戻った?」
「どこって……」
たしか、アリスに連れられてスイリュウ? の口の中に飛び込んで、貯蓄魔力値をもらったんだったよね。
その後は?
「あ」
たしか、河の中。
「河は海に通じているな」
「そうだね」
「そして海も深い領域に行くとスイリュウぐらいに大きなモンスターがたくさんいる」
「ソウナンダ」
ここまで来ると僕だって結論の想像が付くよね。
「つまりここは……モンスターのお腹の中?」
「そうなるな」
「ハントどころじゃないね」
「まったくな」
海の中のモンスターの中。
僕たち、ここから帰れるのかな?
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