68 GW騒動記18


 作戦は簡単。

 それぞれの場所に赴くのではなく、僕がこの場所で浄化作業をする。

 邪魔する存在がいるならここに襲って来るだろうから、それをみんなで連携して守る。

 分散するより一点集中した方が強いっていうのは宇宙戦国物でもやっていたし、どうかなって思って提案してみた。


 もちろん他の大人たちは僕の実力を疑って微妙な顔をしていたけど、紅色さんが請け負い、霊障を払ったのが僕だと改めて楢爪さんが説明したことで作戦は受け入れられた。


 すでに陽は落ちた。

 作戦の開始のタイミングは僕に預けられた。

 魔眼・遠視を発動する。

 さらに並列思考も併用する。

 すると外の光景を映していたいた遠視の視界が五つに分かれた。

 そしてそれぞれのチームが担当していた旅館に向かう。

 前日に僕たちが担当していた旅館は今夜も黒い靄の濃度が薄い。周りに影響されて呑まれて入るけれど、旅館そのものからは湧いている様子はない。

 なので残り四つの旅館に配置し、残った一つの遠視は扇谷全体を偵察することにする。


「始めます」


 宣言と共に魔眼・魔力喰いを発動させる。


 おおおおお……。


 声が出そうになったけど、ぎりぎりで抑えた。

 近くにはアリスや一色がいるから、変な反応を見せると

 その感触に思わず全身が震えた。

 四つの視界が真っ黒に染まり、大量の黒い靄が遠視の視覚に吸い込まれていく。

 貯蓄魔力値が凄い速度で増えていく。

 すごい。

 これなら竜の巣穴を掃除した時の数値も目指せるかも?


 ん?


 開けている五つ目の視界で動きを察知した。

 黒い靄が無数の化け物の姿を取ってここに向かっている。


「来ます」

「わかった」


 僕の呟きを聞いた一色が大人たちに告げ、それが外に待機していた人たちに伝わっていく。

 戦いの音が聞こえてくるのはすぐだった。

 五番目の視界でさらに周囲を確かめる。

 大きな動きがないことを確かめると、戦闘になっている場所から少し離れたところで魔力喰いを発動させる。

 五番目の視界も真っ黒に染まってしばらくはこの状態が続いた。


 旅館を守る人たちは何度か交代する。

 その際に霊障を受けていないかのチェックも忘れない。


「いいね。状況は安定してる」

「それどころじゃないぞ」

「邪気が確実に薄まっている。……この能力はすごいぞ」

「ふふふ……かな君は誰にもやらないからな」

「いえ! 是非とも正式に退魔師協会に!」


 大人たちの会話にも余裕がある。

 油断じゃないかなと心配になるぐらいだけれど、いまのところは問題なさそう。たぶん? きっと?


 スタートに余裕がなかったせいか、はらはらした気分が抜けきらないまま二時間が過ぎて……。


「え?」

「どうした⁉」


 思わず出た僕の声に一色が慌てた。


「ごめん。視界が……」

「なに?」


 旅館に当てていた四つの視界が、晴れた。


「旅館から靄が消えた」


 そんなことを言っている間に、旅館に襲い掛かっていた化け物に向けていた遠視の視界もきれいになっていく。


「邪霊が消えていくぞ!」


 ロビーで戦況を見守っている誰かが叫んだ。


「うおおお! 勝った!」

「勝った! すげぇ!」

「やった!」


 蓮たちが無邪気に喜び、大人たちは茫然としている。


「まだだ!」


 喜びの雰囲気を切り裂いたのはアリスの鋭い声だった。


「まだだ愚か者ども。まだ気を抜くには早い」

「アリス?」


 一色が驚いている。


「因もなく果があるわけではなかろう。この地の因果はまだ残っているぞ」

「っ!」


 その言葉に楢爪さんがはっとした表情を見せたのを僕は見逃さなかった。


「あなた……なにを知って……?」

「なにも知らん。だが、土地が意味もなくここまで穢れるのが普通の道理か?」

「うっ」

「表に出ているモノが消えたのだ。因に意思があるなら、いまこそ正体を見せる時だ。正念場はこれからだぞ」


 アリスの宣言が嘘ではないというのは、すぐにわかった。

 旅館を揺さぶるような咆哮が届いたからだ。





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