64 GW騒動記14


 GW三日目。

 バンに戻ると運転手さんが気絶していた。

 いや、違うのかな?

 紅色さんが窓をノックするとすぐに我に返って、ドアの鍵を開けて僕たちを中に入れてくれた。

 旅館に戻る。

 他の人達も同じように帰って来ていて、入り口が少しだけごった返していた。

 みんなが疲れた顔をしている。

 蓮たちがいたけれど、彼らも話す気力がない顔をしていて、僕らと目が合っても軽く手を振るだけで終わった。


「……僕たち、元気ですよね?」

「そうだな」

「かな君のおかげだよ」


 紅色さんが言う。


「かな君のしてくれたあの不思議な術。あれが私たちの力を底上げしてくれたし、体力も癒してくれている感覚があったよ」

「はぁ……」

「なに、自分でわかっていないの?」

「あんまり。悪いことにはならないとはわかっていたけど」


 体力回復の効果もあるとは思わなかった。

 いや、単純に耐久力とかスタミナ的なステータスが上昇したことを体力回復と受け取ったって可能性もあるのか。


「ふうん」


 紅色さんが意味深に笑う。


「まぁ、かな君が私たちに悪いことをするなんてはずもないしね」

「すごい信頼ですね」

「それはもちろん」

「かなく……「彼方だから!」


 紅色さんがなにか言おうとしたのを一色が上からかき消すように叫ぶ。


「一色……」

「母さん、だめだぞ」

「ふふふ、この件に関しては娘といえど容赦はしないぞ」

「ふん、年増がしゃしゃり出てくるんじゃない」

「ふふふふ……」

「ふん!」

「ほんとに元気だね」


 なにか急に張り合いだす二人から僕はそそくさと遠ざかった。

 カウンターのところで楢爪さんたち退魔師協会の職員さんがなにかレジ袋に入ったなにかを配っている。


「琴夜君、ご苦労様」


 楢爪さんが袋を渡してくれた。

 中身はサンドイッチとおにぎりにお茶のペットボトル。朝ご飯だ。

 アリスの分もお願いするとすぐに渡してくれた。


「琴夜君たちは元気ですね。どうでした?」

「ええ、よくわかりませんけど、大変でした」

「そうですか」


 ちらりといまだに張り合っている境衣親子を見る。


「本当に、なんでそんなに元気なんですか?」


 僕だけでなく彼女たちも元気なことに驚いているみたいだ。

 もしかしてだけど……僕だけなら紅色さんのおまけで何もしていなかったっていう可能性を考えたのかもしれない。

 でも紅色さんも一色も元気だし、でも、楢爪さんの知っている二人の実力ならさすがに疲れているはずとか?


「ふふ……」


 いきなり楢爪さんが含み笑いした。


「どうも君は、私が思っている以上に期待の新人みたいですね」

「い、いやぁ……どうでしょうか?」

「こっちの道に進むなら、是非とも退魔師協会に任せてね」

「は、はは……考えておきます」


 プレッシャーのある笑みに僕はじりじりと距離を取って逃げ出した。


 部屋に戻るとアリスはまだ寝ていた。


「ん、帰ったか」


 僕が寝顔を覗く前に布団から起き上がる。


「……真っ裸だし」

「カナタがおらんかったのだからよかろう」


 あくびをしながら平然と言う。


「いまはいるんだけどねぇ」

「むう……仕事の疲れを癒してやろうか?」

「そういうことを言わない」

「新妻っぽくないか? 風呂? 食事? それとも……という奴だ」

「風呂は魔法で済ませるし、食事は甘いものばかりじゃないか」

「うむ、だから我一択ということだな」


 自信満々に言われて、僕はため息とともに手洗いうがいを済ませて食事を選ぶ。

 アリスの分を見せたが、当たり前のように首を振られたので空間魔法に収納し、代わりのヤマザキパンを出す。

 今朝は大きなチョコチップメロンパン。


 美味しそうに食べる姿に癒される。


 はっとする。

 癒されるから食べさせちゃうんだよなぁ。


 ……見てると僕も甘いものが食べたくなってきた。

 もらった食事を空間魔法に片づけて僕も選ぶ。

 どれにしようかな?

 これだ。

 高級クリームパン。

 シンプルに甘くておいしい。

 疲れた体に甘味が染みる。


「…………」

「なに?」


 気が付くと、アリスにじっと見られていた。


「我もそれがいる」

「それを食べ終えたらね」

「うむ」


 満足げに頷くとチョコチップメロンパンをリス食いする。

 ああ、ぼろぼろと零れてる。


 アリスの世話をしながら高級クリームパンを食べ終えて、塩気が恋しくなったのでさっきのおにぎりを食べる。

 ペットボトルのお茶を飲み干したところで、眠気が急に来た。


「あれ?」

「疲れて当然だ。もう休め」


 ようやく高級クリームパンに手を付け始めたアリスがそう言って、僕に生活魔法を使って体に染みこんだ汚れと汗の不快感を消してくれた。


「ありがとう」

「おやすみ」

「うん」


 さっきまでアリスの使っていた布団に潜り込むと、僕はあっさりと意識を手放した。





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