65 GW騒動記15


 夢を見た。

 夢だと思う。

 女の子がいた。

 おかっぱ頭の巫女の格好をした女の子。

 縄をかけられた大きな岩の上にいる。

 僕はそれを見ている。

 遠視で見ているような、奇妙な立ち位置で見ている。

 女の子は僕を見ていない。

 ただ、呆けた様子でぺたりと座り、前を見ている。

 前を見ているというか、顔を前に向けているだけというか。

 目に光はない。


 女の子の不思議さに目を引かれていた僕だけど、その内、太い縄をかけられた岩の方が気になりだした。

 小さい女の子とはいえ人が一人座っても余りある大きな岩。

 縄がかけられている。

 神社で使われているようなとても太い縄。

 その意味深さに視線が引きつけられていく。

 視線は下に、下に……。

 あれ?

 岩よりもさらに下。

 岩の下。

 岩と接している部分で視線が止まった。

 真っ黒いコールタールのような液体が、岩と地面の狭間から滾々と湧き出している。

 その不気味さに目を奪われていると、ふっと、黒い液体の隙間にそれが見えた。

 黒に染められた骨。

 無数の骨。

 岩の下にあったのは普通の地面じゃなかった。

 それは大量の、地面が見えないぐらいに大量の人の骨だった。



「起きたか?」


 目覚めはアリスの顔だった。

 ほっとする。


「どうした?」

「いや、なにか変な夢を見て」

「夢?」

「そう。変な夢」


 オカルトな夢だった。

 夜にオカルトな体験をしたからかもしれない。

 時計を確認するとまだ昼食でもない時間だった。

 ちょっと寝足りない。

 布団の中で「ん~」と唸っていて、はたと気付く。

 アリスは僕の隣で布団の中にいた。


「アリス、ずっと隣にいた?」

「うむ」

「なんで?」

「カナタがおらんと暇だからな」

「そう」


 そして当たり前に、アリスは真っ裸だ。


「もう」


 と唸ったものの、またすぐに眠くなってきた。


「眠れ眠れ。昨夜はよく頑張ったんだからな」

「うん」


 アリスに頭を撫でられ、僕は二度寝に入った。


 次に目覚めたのは昼食時を少し過ぎたぐらいだった。

 ぼんやりと顔を洗ったりしてのんびりとしつつ、目が覚めるのを待つ。

 どうもすっきりしないのは徹夜したからか、実は疲れていたのか。


「う~ん」


 うなりつつ、昼食をもらいに食堂に向かった。

 一色にはラインで連絡をしておく。

 食堂には人がほとんどいなかった。


「おはようございます」


 楢爪さんが話しかけて仕出し弁当を渡してくれる。


「もう皆さん食べられたんですか?」

「いえ、ほとんどの方が降りて来られていないですね」

「そうなんですか」

「さすがに一晩中戦われるのは熟練の退魔師といえど、体力を削られることですから」


 そう説明する楢爪さんと別れてテーブルに着く。

 一色たちを待つかどうか悩んで、ラインに返事がないので食べることにする。

 アリスは変化がない上に甘味の少ない次第の弁当が気に入らない様子。後で菓子パンを出さないといけないだろうな。


「それで貯蓄魔力値はどれくらいになった?」

「え? ええと……」


 そういえば途中からはステータスを確認していなかった。


「お、二万超えてる」


 24200になってる。


「美味しいね」

「うむ」

「これだけあるならなにか上げようか」

「そうしろ」


 というわけで、とりあえず魔力最大値増加を10から15に。

 魔法応用を8から10に。


「あ、そうだ。ねぇ、アリス」


 僕は思いついたことをアリスに話した。


「これができた方がもっとたくさん集められると思うんだけど」

「ふむ……それなら並列思考を手に入れたら解決だな」

「並列思考……」


 スキル獲得欄をチェック。

 あ、あった。

 基本消費が1000か。空間魔法ぐらいに育てにくいってことか。


「上げれるだけ上げても問題ない?」

「……そうだな。問題ない」


 生命装甲と魔力最大値増加は上げられるだけ上げているしね。

 アリスも文句はないみたいだ。


「そっか。それなら遠慮なく」


 というわけで、残っていた貯蓄魔力値を使って並列思考を5にする。


 結果、こういうことになった。


【ステータス】

●カナタ・コトヨ 男

●生命力 60/60

●生命装甲 1500/1500

●個人魔力 1750/1750(+1500)

●スキル:魔眼lv08(霊視・魔力喰いlv03・遠視lv03・解析)/個人情報閲覧/総合制御lv15/運動能力強化lv06/仮想生命装甲lv15/魔力最大値増加lv15/生活魔法lv10/空間魔法lv10/基礎魔法lv10/魔法応用lv10/神聖魔法lv10/変身(スライム時限定)/万能翻訳/魔法陣学lv05/透明化/気配遮断lv01/恐怖耐性lv02/並列思考lv05

●蓄積魔力値:200

●加護:なし



 運動能力強化も5から6に上げてみた。


「あ、また素の個人魔力がちょっと上がってる」


 生命力は上がってないけど。

 やっぱり減ったりとかしないと上がらないのかな?

 とはいえ自傷行為は嫌だなぁ。


 昼食を食べ終わったけど、一色からの返信はなかった。

 これからどうしよう?

 このまま旅館にいるのも退屈だし。


「ちょっと、散歩とかする?」

「この中にいるのも飽きたしな。温泉もないし」

「そうだね」


 そんなわけで散歩することに決まり、ラインでそのことを連絡だけして僕たちは旅館を出た。




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