40 憑依スライム・アリス&カナタ08


 そして翌日。

 休憩時間中に宿題なんかを済ませて帰宅。

 バイト先の食料品店で材料を買い、夕食を作る。

 作るのはカレー。しかも作り置き分も込めてたっぷり作る。

 空間魔法がレベル10になったことで中に入っているものが時間停止状態になった。

 つまり、保存ができる。


 たくさん作れる!


 一緒に買った大鍋でたくさん作ってやる。

 ご飯を炊飯器にセットして、コトコト煮込む。

 初日はさらさら。次の日から火を入れ直すたびに水分が抜けてねっとりしてくる。

 その変化が好きだ。


「冷蔵庫の必要がなくなったな」

「ぐっ」


 食事中にぼそりと言った真実が胸に突き刺さる。


「大丈夫だし! 使い道あるし!」

「そうだといいな」


 なんだかアリスが得意げだ。

 まだ来てないけどね。学校とかで配達の人が来る時間に合わせたら日曜しか空いてなかった。


「空間魔法で保存すれば、時間停止だから熱いままにしておけるぞ」

「あ、そうか」


 アリスの当たり前の助言で温め直しの必要がないと気付いたのですぐに空間魔法に入れておく。明日の朝食分のご飯も炊いておいたので炊飯器ごとこちらも入れる。

 食事を済ませ、風呂も済ませて、寝る準備ができた。


 いざ、異世界へ。



 森の中のあの車の前だ。

 僕の意識がない間にスライムがやったのか、車が半分になっていた。


「さて、さっそくだが遠視を試してみよう」

「失せもの探しと合わせる奴だね」

「うむ」


 レベルもあがったし、以前よりも遥さんの居場所がわかりやすくなっているかも。

 あ、わかる。


 車に残っていた薄い遥さんの気配から始まって、どう流れていったのかがわかる。

 気配の線は、まっすぐに一つの場所に向かった。


「あっちにある大きな街だ」

「やはりな」


 僕がそちらの方角に向くとアリスが頷いたのかわずかにぴょこった。


「知ってる場所?」

「ああ、王都……いや、いまは旧王都だな」

「旧?」

「こんな森が近くにある場所を政治の中心にはできないだろう」


 気のせいか、アリスが「どやぁ~」って笑っている気がする。


「そちらに向かうわけだが、慣れるためにもここから変身していこう」

「うん、わかった」


 変身(スライム時限定)を使ってみる。

 なりたいものを意識する。

 今回は……元の自分。


 瞬間、スライムボディがぼにぼにしてポンと変身。


「うん?」


 なにか変だ?


「ねぇ、変じゃないかな?」


 そう思ったらいきなり目の前が白い布で覆われた。

 あ、これアリスのゴス服だ。


「か、かわいい」

「へ?」

「カナタめ。そんな可愛い姿になるなど反則だぞ」

「ど、どういうこと?」


 なんとかアリスを押し退けて自分の姿を確認する。

 手が小さい?


 ええと、こういう時は。

 生活魔法の鏡だ。

 目の前の空気が歪み、手鏡サイズの鏡ができる。

 そこに映っているのは……小さい時の僕だ。

 写真で見たことがある幼稚園ぐらいの頃の自分。着ているのも、なんとなく覚えのある子供服だ。

 僕はいま、この姿になっている?


「なんで⁉」

「スキルを持っていても練度が足りんかったか」

「練度?」

「使い慣れていないから、足りない質量を補えなかったのだろうな」


 確かにスライムは小さかったし、ぽよぽよだから形は自由になるけど、質量まではどうにもできない。

 慣れているとそれを魔力で補うことができるらしいのだけれど、僕はまだできなかった。

 それで子供になったということ、らしい。


「まぁ、おいおい慣れればいい」


 アリスにニヤニヤ顔で慰められる。


「さて出発……の前に」


 アリスがちらりと視線を動かすと地面に光が走り、なにかの紋様が生まれた。

 魔法陣だ。

 すると魔法陣の中からスルスルとなにかが浮き上がって来る。


「馬車?」


 馬車だ。

 二頭立ての立派な馬車が馬付きで現れた。

 馬も高価そうな馬具で飾られていて、いかにも貴族が乗っていそうだ。

 見ればちゃんと御者までいる。


「これは?」

「うむ我の馬車だ」

「あの人は?」

「魔導生物(ゴーレム)だ。気にするな」


 魔導生物?

 執事っぽいお仕着せを着た御者さんは僕と目が合うとにっこり微笑んで会釈してくれた。


「え?」

「良くできているだろう」


 魔法って凄い。

 いや、アリスが凄いんだろうね。

 そう思いつつ、僕たちは馬車に乗り込んだ。





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