37 月曜日の事情聴取
森を出たところでアリスに時間切れを宣言されてしまった。
「うあぁ……もやもやする」
目覚めはすっきりだけど気分まではそうはいかなかった。
でもまさか、遥さんたちが異世界に行っているなんて。
「それは、バイトにはこれないよね」
それにしてもどういう理屈なんだろうか?
「タイミング的に我の異世界追放がなんらか関係していそうだがな。だが……」
「だが……って?」
「いや、おそらくだが我らが行っているあの世界の時間軸は我が追放された時より百年は過ぎておるはずなのだが……」
「ええ?」
「どういうことなのかな?」
「いや、僕に聞かれても」
アリスにわからないことが僕にわかるわけもない。
とはいえ起きてしまったのだからまた今夜……いや、今夜はバイトだからまた明日かな。
支度を済ませて学校に行く。
掛井君が気になる女の子の話をしてくれた。
隣のクラスにいるそうだ。
アドバイスを求められたが僕だってどうしていいかわからない。
まさか峠道で放置されたところでばったり会うのを待つなんてことを言えるわけもない。
とりあえず接点を持てるように努力するのがいいのではなかろうかと言ってみるしかなかった。
間違ってたらごめん。
その後は無難に学校が終わり、バイトに向かう。
「琴夜君!」
いつも通りに品出し作業をがんばっていたら店長に呼び出された。
バックヤードの店長たちが作業する一角、監視カメラなんかがあるところで警察の人が僕を待っていた。
一瞬ぎょっとしたけれど、すぐになんのことか見当をつけつつ、恐々と近づく。
警察の人は、やっぱり遥さんのことで僕に話を聞きたいということだった。
土日に連絡が取れないことをおかしいと思った彼女の両親が通報したのだという。
それに関係して、他の連中もいなくなっていることが判明して、彼らの行動を追跡しているのだそうだ。
どうも、あの日の遥さんと車に乗って出発するところが駐車場を映す監視カメラに映っていたのだそうだ。
「この夜のことを教えてくれないかな?」
実際に監視カメラの映像を見せられてから警察の人から質問が飛ぶ。
「隠してたわけじゃないんですけど……」
僕はあの夜のことを語った。
峠の人食いの家という心霊スポットに肝試しに行くのに遥さんが誘われていたこと。その遥さんに誘われて僕も行くことになったこと。
そして心霊スポットで僕だけ置き去りにされたこと。
アリスと出会ったことは言わない。
僕の話を聞きながら店長は「うわぁ」という顔をしていた。
警察の人は無表情。
「どうして、すぐに警察に連絡しようと思わなかったのかな?」
「僕が置いて行かれた以上のことは起きないだろうって思っていましたから」
「なぜ?」
「だって、僕っていう目撃者を残してるのに、遥さんにひどいことをするなんてありえないって思いました。男の人たちはわかりませんけど、女の人は遥さんと仲良さそうでしたし」
「なるほど」
「それに遥さんの連絡先は知りませんでした」
「どうして君は彼女に誘われたと思います?」
「なんとなくですけど、僕を利用してドライブの話そのものをなしにしたかったみたいに感じました。高校生の僕を連れて行くなら肝試しはなしになると思ってたのかもしれません」
「ふんふん」
なにかをメモっている。
「君は、彼らのやったことに腹は立てなかったの?」
「腹は立ちましたけど……」
そんな感じで根掘り葉掘りと質問? 尋問? が続いていく。
警察の人たちは遥さんと連絡が取れないことしか言っていないけど、懐古の森で見たあの自動車からして、いなくなったのは他の三人ものはずだ。
うっかりとそのことを言わないようにしないと。
疑われたくはない。
やっぱり何もしないという僕のアクションは間違いだったかもしれない。
「大丈夫、見つかるよ」
そのことに反省していると、僕が落ち込んでいると思ってくれたみたいで警察の人たちが慰めてくれて、そしてそれで彼らは帰っていった。
「いや、大変だったんだね」
最後に店長さんにも慰められてから仕事に戻る。
「お、終わったのか? ご苦労」
いつのまにかバックヤードの休憩室にアリスがいて、チョコケーキを食べていた。
「それ、どうしたの?」
「うむ……眼鏡の店員が奢ってくれたぞ」
たぶん、恰幅の良いおばちゃん店員さんのことかな?
「ちゃんと働いてた?」
「もちろん、今日はずっといらっしゃいませを言っていた」
「品出しは?」
「がんばったぞ」
「…………」
目を反らした。
あやしい。
確かめてみるとぜんぜん品出しが進んでいなかった。
残り時間でめっちゃがんばった。
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