38 バイト終わりの状況確認


 今日も頑張ったからと弁当をくれた。

 アリスと二人分。

 もちろんアリスは弁当ではなくスイーツを所望。カスタードシュークリーム四個入りをゲットしていた。

 さっきもチョコケーキを食べていたのに。

 とりあえず野菜ジュースを追加購入して帰ることにする。


「我はドラゴンと同じだから魔力があれば大丈夫なんだぞ?」

「そんな言葉は信じません」

「本当なんだぞ」

「聞こえませーん」


 そんなやり取りをしながらアパートに戻って汗を流す。

 今日はシャワーを浴びる。生活魔法は楽だしすっきりするけど、シャワーを浴びるのはまた違う。さらにお風呂だと格別。


「広いお風呂に入りたいなぁ」


 銭湯とかスーパーが付くのとか、温泉とか。

 いまならお金がある。

 いやいや、調子に乗ってると後でしんどくなる気がする。


 そんなことを考えながらシャワーを終える。

 アリスはすでに着替えている。

 パジャマではなく、なぜか最初に着せたシャツ一枚。


「なぜ?」

「こっちの方が楽だ」

「むう」

「着ておるんだからいいだろう?」


 まだだめな気がするけど、あまりゴネるとアリスもへそを曲げそうな気がする。


「せっかく買ったのに」

「まぁ、またいずれ使うかもな」


 その言い草は使わない人のアレではないかと思いつつ、仕方ないので聞き流す。


「さてそれじゃあ、遥さんを探しに行く?」

「まぁ、待て待て」


 体力が余っているからそう言ってみたのだけど、アリスに止められた。


「最初に聞いておきたいが」

「うん」

「探して、どうする気だ?」

「え?」


 アリスにそう言われるとは思わなかった。

 いや、その可能性を考えていなかった。


「もしかして、無理だったりするの?」


 僕とアリスが簡単にあっちとこっちを行き来しているし、戻ろうと思えば戻れる的なことを言っていた気がしたんだけど……。


「我とカナタだけならば、不可能ではない」

「だけど、遥さんは無理?」


 その理屈は?


「世界間にできた穴の問題だな。我らが魂の一部とはいえ行き来できているのは、我をこちらの世界に追放するときにできた穴を利用しているからであり、そしてその穴は我の魂の形で出来ている」

「魂の形?」

「そうだ。それが合わなければ通るのは無理だ」

「でも、僕は?」

「カナタと我はこの指輪で繋がっている。いわば二つで一つの状態だ」

「あ」


 このとき、スキルの基礎魔法が僕に知識を流し込んできた。


「だから、魂の一部?」

「そうだ」


 僕の気付きをアリスが肯定する。

 僕とアリスは指輪の力で繋がっている。この繋がっている状況でなければアリスは魔王としての力を使うことはできない。そしてこの状態を維持するには、僕がアリスに全幅の信頼を置いておかなければならない。

 それこそ、アリスが失敗して僕が死んだとしても笑って許せるぐらいに信頼していないとだめだ。

 それぐらい、魂が繋がっていないといけない。

 そのことで、僕とアリスの魂は一つの存在となっている。

 だけど、魂の量は違っている。

 その穴を通るには、魂の量を一人分に調整しなくてはいけない。


 だから、一人分になるように魂の一部だけを分離させて異世界に送っている……そういうことだ。


「スキルがちゃんと身に付いているな。よいよい」

「でも、それじゃあ遥さんは戻れない?」

「不可能とは言い切れない。実際にその女はあちらの世界に移動しているわけだからな。世界間にその女が開けた穴もあるだろう」

「それなら……」

「しかしそれを、その女自身が感じ取れなければ無理だ。それができるなら、我やカナタが補助することで戻ることもできるだろう」

「そっか」


 難しい。

 けど不可能でもない。

 そういうニュアンスで受け取った。


「なら、とりあえずはそのことを遥さんに伝えるだけでも伝えておかないと」

「それはいいだろう。だが、まずはスキルを割り振ったらどうだ?」


 アリスは苦笑しながら言う。


「魔眼を鍛えれば容易くなるだろうし、異世界転移をするのであれば空間魔法を極めた先にある時空間魔法を手に入れなければならないからな」


 時空間魔法?

 なにやら入手までの道のりが長そうなスキル名が出てきた。


「それにしても、なにやら焦っていないか? どうした?」

「それはね。警察に目を付けられたんじゃないかって思うとね」


 僕は何もしてないし悪くないんだけど、あの人たちに目を付けられてるって思うと落ち着かなくなる。


「そんなに気になるなら魔眼の洗脳や魅了、呪法を上げて精神支配をするとか、方法はいくらでもあるぞ」

「そういうことがしたいわけじゃないけど……できるの?」

「できるぞ。言っただろう。我は暗躍する魔王だぞ」


 暗躍する魔王怖い。



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