33 目的がずれた


「給金が手に入ったならパフェだ!」


 目覚めて封筒の中身を見たアリスはぶれない。

 羨ましい。


「どうしたカナタ?」

「いや、びっくりしないの? 大金だよ?」

「カナタは我を侮っているぞ?」

「え?」

「魔王ぞ? 我魔王ぞ? その程度の大金、何度でも見ておる。純金と宝石の山だって作ったことがあるわ」

「いまは持ってないんだよね?」

「ないな!」


 そのすっぱり感がすごい。


「とにかく、パフェだ。行くぞ!」

「ていうか、朝も食べてたよね?」

「奢りのパフェと夫の稼いだ金で食べるパフェは違うに決まっているだろう!」

「暴論!」

「そんなに気にするなら違う店のパフェにするぞ!」

「あ、それなら!」


 というわけで初めて行ったファミレスではなく、歩いて十分のところにあるショッピングセンターに向かった。

 パフェパフェうるさいアリスを連れてフードコートに行き、クレープ屋を見せてみる。


「む、むむむ!」


 成功。

 見事につられた。

 いや、できればもっと健康に良さそうなものを食べて欲しいんだけどね。

 甘味ばっかり食べすぎだよね。絶対。


「チョコバナナシュガーバターの生クリーム蜂蜜マッシマシだ!」


 蜂蜜が入ってるから健康に良い説は……ないか、ないよね。

 見てるだけで胸焼けしそうだから別の店舗で僕はあっさりとかき揚げうどんにする。


 料理が来てテーブルに移動。


「それで、どうしてここなんだ?」


 蜂蜜塗れの生クリームの中に顔を突っ込むような食べ方をするから、アリスの顔中が白でべとべとになっている。

 生活魔法できれいにできるからいいけどさ。


「ここなら冷蔵庫が買えるんだよね」

「冷蔵庫?」

「そう。食材を保管する機械ね」


 そう。

 大金が手に入ったから、買えるんだよね、冷蔵庫。


「空間魔法はどうするのだ?」


 アリスが持っている中身がみっちり入ったクレープが型崩れしないのが不思議だ。

 と思ったけど、たぶんあれ、魔法でなんとかしてるっぽいって気付いた。

 それに関連してだけど、食べるのが遅いのにパフェのアイスが溶けない謎も解けた。魔法で温度を維持してたんだな。


「それなんだよねぇ」


 アリスの指摘に僕は苦笑いするしかない。

 冷蔵庫を手に入れるよりも空間魔法を冷蔵庫並みにレベルアップする方が早いと思ってたんだけど……。

 まさか、紅色さんからあんな高給の仕事を紹介されるとは思わなかったし。

 ていうか、あんな世界があるなんて知らなかったし。


 そもそも、アリスと出会わなければその世界とは関わり合いになれなかったのだろうし。


「まぁ、空間魔法を手に入れて損になることもない。とりあえずは目標まで育ててみればよかろう。それに物を保存するだけが空間魔法でもないしな」

「わかった」


 そういえば僕のステータスはどうなってるんだろう>

 アリスがクレープを堪能している間に確認してみる。


【ステータス】

●カナタ・コトヨ 男

●生命力 60/60

●生命装甲 500/500

●個人魔力 635/635(+500)

●スキル:魔眼lv05(霊視・魔力喰いlv03・遠視)/個人情報閲覧/総合制御lv10/運動能力強化lv03/仮想生命装甲lv05/魔力最大値増加lv05/生活魔法lv05/空間魔法lv02/基礎魔法lv10/魔法応用lv02/神聖魔法lv02

●蓄積魔力値:5250

●加護:勇武の神ガバ(恐怖耐性lv02)


「あれ?」

「どうした?」

「なんか、ステータスがおかしい」


 生命力と個人魔力がちょっと増えている。スキルの仮想生命装甲とか魔力最大値増加とかと関係のない部分で、ちょっとだけ。

 それに神聖魔法のレベルも一つ上がっている。


「どうして?」

「成長したからだろうな」

「え? でも……」


 確か、魔力に馴染んでいないから自然な成長はどうとかこうとかって言ってなかったっけ?


「使えば馴染む。そういうものだろう」

「ううん」

「神聖魔法もその理屈だな。なにしろカナタは初めてその能力を使って戦ったわけだ」

「うん」

「そのスキルを頼りにした気持ちは強かっただろう?」

「そりゃあ……」


 あの場で神聖魔法&霊視の複合攻撃が決まらなかったら、僕にはどうにもできなかったわけだし……頼りにしていたよね。


「その気持ちが神聖魔法に対する成長を促したのだろう。無自覚で貯蓄魔力値を消費してレベルアップしているのかもしれないな」

「つまり、無自覚で貯蓄魔力値を割り振っていたかもしれないってこと?」

「使用による成長か、無自覚の消費か、それは観察してみないとわからないな。なにしろこのシステムはカナタ用に作ったわけだが、このシステムにカナタがどのように適応しているのかはこれからわかるわけだから」

「あ、でも、勝手に使われるんだったら、なにかを目標してる時困るなぁ」


 たとえばいまは空間魔法を育てようと思っているわけだけど、あとちょっとでレベルアップできるって時に、勝手に他のスキルに使われたら悔しいかもしれない。


「その時は必要にかられてだろう? 身の安全を大事にすべきだと思うが?」


 もっともだ。

 反論することもできず、呆れた目で見られてしまった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る