29 オカルティックに職場見学02
次の場所に移動するため、車に乗り込む。
「やあ、仕事がサクサク終わるっていいことだね」
紅色さんは嬉しそうだ。
「こういうのって頻繁に仕事があるんですか?」
「ま、それなりにね」
運転しながら答えてくれる。
「事故物件ばかりじゃないけどね。協会なんてものがあって、それが千年の歴史を誇るぐらいにはお仕事には困らないよ」
「千年……ですか」
「そう、退魔師協会っていうの」
まんまな名前だ。
「協会はもともと陰陽寮が最初でね。それが時代の流れで名前が変わっているってわけ。まっ、別にここに所属しなくても退魔師活動はできるんだけど、ここに所属してれば営業活動とかしなくていいから楽だよ。いまならアプリで仕事の紹介とかしてくれる」
「アプリで、です?」
なんだか急に、お手軽人材派遣アプリみたいな気軽さになった。
「とりあえず、かな君は私の弟子兼助手ってことで登録させてもらうから。本気で働きたくなったら自分で登録してもらうことになるし、その時には方法を教えてあげる」
「はい」
話が終わったところで僕はステータスを確認する。
貯蓄魔力値が3150に変化していた。
「やっぱり魔力を吸ってたんだ」
隣にいるアリスに話しかける。
「正確には違うのだろうが、カナタの場合はそれを魔力に還元して吸っている、というところだろうな」
「ふうん」
冷静に教えてくれているけど、アリスの機嫌はあまりよくない。
やはりオカルトなことは苦手なようだ。
車に一人でいるのも実は嫌なのだろう。
「でも、教室の時は変化したかな?」
「濃度の違いだな。あそこには数値化できるほども魔力がなかったと考えるべきだ」
なんの濃度かは知らないがと、吐き捨てる。
僕も、なんの濃度なのかは、まだ言語化できない。
「なら、魔力に変換できるぐらいに濃度が濃い場所が事故物件だったりするわけだ?」
「そういうことになるな。ところで、これを生業にするならスキルが足りないのではないか?」
「そうだね」
魔力喰いだけだと、吸い切れずにあの変な黒い人型に襲われるところだった。
紅色さんが助けてくれたからいいけど。
いくらもらえるかわからないけど、仕事にできるならスキルのことも考えないといけない。
「どんなのがいいかな?」
アリスから助言をもらっている間に次の場所に到着する。
今度は山の前の細い道で車を止めた。
「今度は一色の番だよ」
「うー」
一色は嫌そうな顔で低く答えた。
「我は車で待つ。ほれ、カナタもこっちだ」
「え? でも」
「カナタは我を守ればいいのだ!」
「ああ、いいよいいよ」
機嫌の悪いアリスに配慮したのか紅色さんは気軽に手をひらひらとさせて、僕たちを置いて車を出た。
でも、そこから山の中に入るわけではなく、山を見上げて二人で話している。
「とりあえず、視える状態にはしておけ」
「あ、うん」
腕をしっかりと掴まれた僕は霊視をオンにする。
ちょうど一色が能力を使う所だったのか、彼女の背後に黒い靄が集まっていた、
それが人の姿を取る。
「あ、あれって……」
「うむ、この間の怖いのだな」
掴まれている腕が痛い。
声は冷静なのにひどく怖がっているのがそれでわかってしまう。
「あれが一色の能力だったんだ」
霊能力? 陰陽道とか?
この世界にも色々あったんだなぁと感心してしまう。
黒い人影は一色が取り出した札の束らしきものを投げかけられると、それが全身に纏わりつきミイラ男のようになる。
変化はさらに進み、ミイラ男は源平の頃のような鎧武者の姿になると山の中へと入っていった。
紅色さんと一色はそこに立ったままで、なにか言い合いをしている。
山を見上げる。
霊視がオンになった状態で見るそれは真っ黒な雲に呑み込まれそうになっているかのように見える。
「ねぇ、アリス」
「どうした?」
「そんなに怖いなら、別にこの仕事はやらなくてもいいんだけど?」
アリスに貰ったこの能力が有効に使えるのはわかったけど、でもそれで一緒にいる彼女が嫌な思いをするというのなら、僕としてもやると決めるのは躊躇してしまう。
だけど、アリスはそれに首を振る。
「前も言ったと思うが、この世界での魔力の成り立ちがこのようになっているのであれば、ここで逃げたところでまたどこかで出会ってしまうものだ」
「そうかな?」
「そうだ。ソレに出会ってしまうということはな、そういう能力があるというだけではない。その人物の行動そのものが、ソレに出会ってしまうような性質を帯びているということだ」
アリスが暗い顔で言う。
なにか、その話をすることで、嫌な思い出を引き出しているみたいだ。
「人はそれを運命ともいう。本物の運命というものはもっと残酷なものだが、自身の行動がそうさせていることもある」
「なら、僕の行動を変えれば……」
「それはつまり、我を捨てるということだぞ?」
「え?」
「我と出会うような行動をするから、いままで見なかったものを見るような生活となったということだからな。どうする?」
「それは嫌だよ」
「なら、諦めろ。それにな前にも言っただろう? 我を守れるような男になれと」
「うん」
「我は守られたことがない。カナタがそうなってくれるなら、我はもう極上に幸せだぞ」
「わかったよ。がんばる」
「その上で我にもっと甘味を味合わせてくれるような生活になることを希望する」
だからもっとお金を稼がねばなと、アリスは笑うのだった。
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