22 憑依スライム・アリス&カナタ03


 そして再びやって来ました異世界。

 前回と同じスライム? なのか、辺りを見回すとピンクのスライムがいて、あの黒鎧の眠っていた場所が近くにあった。


「アリス?」

「うむ」


 近づいてきたピンクのスライムはやっぱりアリスだった。


「さて、今夜も魔力を集めるとするか」


 アリスに誘われて森の奥へと進む。

 途中で見つけた骨や以外を吸収していく。


「ていうか、骨が大きいよね」

「懐古の森で生きようと思えば、ゴブリンのように繁殖力が凄まじいか、それとも強いか、どちらがなくてはな」

「そっかぁ」


 大蛇らしいトンネルみたいな骨を吸収しながら僕はアリスの話を聞く。


「これはきっとデモンヴァイパーの骨だな。悪魔の名を冠するほど強力な毒を持ち、しかもその毒を大量に吐き出すのだ。牙も強力でな、この牙で作った剣はかなりの高値が付く」

「なら、この骨を売ったら大儲けだったり?」

「そうだな」


 それなら……と思ったけど、すぐに気が付いた。


「こちらで儲けた金を、どうやってあちらで換金する?」

「だよねぇ」


 拾った金塊だって警察に預けてしまった。

 それが無事に手元に戻ってきたとしても、換金するには色々と苦労することだろう。

 だとしたら、こちらの世界でお金を稼いで、それを元の世界で換金可能な貴金属に替えたとして、それをどうやって換金すればいいのか?

 もしも換金できたとしても、そんなことを頻繁にしていたら警察に睨まれることになりそうだ。


「あっ、でも、それならこっちにあるものをあっちに運んだりはできたりする?」


 このスライムの状態でも。


「うむ」

「それってつまり……」


 スキルをスライムの状態でも使えたりするってこと?


「魂の一部をこちらに運んでいるわけだから、魂に紐づけされたスキルももちろん使える。だがな、その効果は小さいぞ」


 まともに使いたければもっと強くならなければなと言われてしまった。


「そっかぁ」


 大蛇の骨を吸収し終えたので次を探す。

 森の奥へ向かうほどに木々の太さと高さもかなり変わっていく。

 今目の前にある木はいまの僕で三十ぴょこたんぐらいしないと一周できないようなものがあちらこちらにある。

 そしてそんな木が、まだ元気そうなのに荒々しく折れていたりする。


 こんな大樹を折ったりするような魔物がいるのかと思うと、ぞっとする。

 ぞっとしたのに、すぐにズンズンと地面を揺らす足音が聞こえて来た。


「お、見てみろカナタ」


 そんなこと言われなくても見てしまう。

 地鳴りと共にやって来たのは巨人だった。

 鼻の上、眉間の下に大きな目が一つある。


「サイクロプスだ」


 人間の僕だとしても首が痛くなるぐらい見上げないといけないんじゃなかろうか。

 それをより小さなスライムの視界で見ているのだから、動いているだけでダイナミックすぎる。


「こやつらの集落ならゴミの中に亜竜の骨ぐらいあるかもしれんな。今度こそ集落に向かうぞ」

「一歩の差が大きすぎて無理だよ」

「なに、直接追いかける必要はない。見ろ」

「あ、足跡か」


 サイクロプスの大きな足跡が森の地面を沈めている。

 これを探しながら移動すればいいのか。


「よし、行くぞ」


 アリスを追いかけて、サイクロプスの後を辿っていく。

 立派な木の壁に覆われた集落が木々の隙間から姿を現した。


「高っ!」


 城壁? 外壁? 守りの壁はひどく高い。


「ていうか、高すぎない?」

「サイクロプスの基準で考えればこれぐらいはいるのではないか?」


 アリスは気にした様子もない。

 しばらく城壁の前をぴょこたんしていると小さな隙間を見つけることができた。

 そこを潜って中に入る。


 集落は暗かった。


「そりゃあ、これだけ壁が高かったらね」


 森でただでさえ暗いのにこんなに壁が高いのだから陽が当たる時間がかなり限られる。

 明かりがないと困りそうだけれど、スライムの視界ではちゃんと見えている。

 暗いというのはわかっているのに、ちゃんとどこになにがあるのかわかる。色もちゃんと認識できる。変な感じだ。


「スライムの知覚を人間のそれに変換しているからな。あまり深く考えるな」

「……つまり、アリスはすごいってこと?」

「それでいい。それよりも、ゴミ捨て場は……あれだな」


 集落には広い建物が五つほどあった。

 一軒に四人いるとして二十人? 人間基準で考えると少ない集落かもしれないけど、サイクロプスのサイズを考えると、そんな数がいるというだけですごい脅威のように思えてしまう。


「実際、どうなの?」


 広い穴でしかないゴミ捨て場の中で色々吸収しながら質問してみた。

 スライムの知覚は嗅覚がなくて助かってると思う。

 そうじゃないと腐敗臭がすごそうなゴミの中になんて飛び込めない。


「集落としては中規模ほどだな。もちろん、人間にとってはかなりの脅威だ」

「やっぱり」

「とはいえ、普通は人間と人型の魔物が争うことはそうない」

「そうなの?」

「人間の住んでいる場所は、魔物にとっては魔力が薄い土地だからな。奪ってもあまり利点はない」

「そうなんだ」

「逆に、人間にとってはサイクロプスの開発した土地は魔力的な利点が多い」

「え?」

「可能であれば奪いたいと考えているだろうな」

「おおう……」


 人間の野心の怖さを感じてしまった。


「とはいえ、そこまで気にすることもない。サイクロプスだって、人間の目から見て褒められた品性をしているわけでもないからな」


 そんな話をしているとすごい音がした。

 どうやら城門が開いたみたいだ。


 ゴミ捨て場でぴょこたんして様子を窺うと、外で見かけたサイクロプスが戻ってきたみたいだ。

 判断の基準は、腰に巻かれている魔物皮の柄。虎柄っぽい。

 その音で髭のあるサイクロプスが建物から出て来て、なにやら話し始める。

 でも内容はわからない。

 ギャイゴウギャイゴウと言っているようにしか聞こえない。


「言葉はわからないかぁ」

「万能翻訳は高いぞ」


 そんなスキルもあったのか。

 数が多すぎて把握できてない。

 ちなみに手に入れるには100000もいるそうだ。

 高い。

 遥さんの件をすっきりさせたいので、いまは魔眼の精度を上げたいかな。


「見ろ、カナタ。これが亜竜の骨だ」

「え?」


 ゴミ捨て場の中にある一際立派な骨に乗ってアリスが言う。


「亜竜というのは竜の中でも自我が野生の獣程度しかない連中のことだ。これは二足歩行の大顎竜だな。気性は荒いが狩りが下手でな、弱い奴の獲物を奪うのが主だ」

「なんか、どこかで聞いたことがある説明だなぁ」


 たとえば恐竜的な?

 そんなことを思いつつ骨を吸収して魔力を頂く。

 髭サイクロプスと最初に会った虎柄サイクロプスが同じ建物に入っていくのを見届ける。

 さらに別の骨を見つけてその説明を聞いていると……。


「ギャアアアアアアアア!!」


 すごい悲鳴が集落の中を轟いた。




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