17 憑依スライム・アリス&カナタ02


 ゴブリンを追いかけてぴょこたんぴょこたんと進む。


「これって、ちゃんと集落に向かってるのかな?」


 隣のピンクスライムなアリスに尋ねる。


「森の奥に向かっているから大丈夫だろう」

「そういえば、こうやって話してても大丈夫なの?」

「他の者には聞こえていないから大丈夫だ」

「それならいいけど」

「あっ、この森って名前とかあるの?」

「名前か……ここの名前はな」


 アリスがなにか言った。

 けどそれは前から聞こえて来た音でかき消された。


 藪を切り裂く鋭い音。

 ギャウ! というゴブリンの悲鳴。


「……え?」


 ゴブリンが白いなにかに地面に押さえつけられていた。

 なにか……白い毛の柱……じゃなくて、脚?


 脚にそれぞれゴブリンが一体ずつ。

 たしか、ゴブリンは三体いたはず。


 そう考えていると上からゴリゴリという音が。

 見上げると、そこには大きな犬がいた。

 犬の口にはゴブリンが挟まっていて、噛み砕かれている。血がぼたぼたと地面に落ちて来る。

 靴下を履いたみたいに足先だけが白くて、残りは灰色の犬? 狼?

 小さなスライム視点だからかもしれないけど、とにかく大きい。


「ひえ」

「おう、グレートウルフだな。このサイズは珍しいかもしれん」


 アリスが呑気に呟く。


「心配せんでも、こいつもスライムは食わんよ」

「いや、こういうのは大丈夫なの?」

「どういう意味だ?」

「怖くないの?」

「? 当たり前だろう」

「当たり前じゃないよなぁ」


 これで、どうしてオカルトはだめなのか。

 アリスとやりとりしている間にグレートウルフは前脚で押さえていた残りのゴブリンも食べてしまった。

 ゴリゴリゴリゴリゴクンぐらいの感じで。全身の骨を砕いてから飲み込むみたいな流れだった。


 そして、そのすぐ後だ。


 いきなり強風が吹いた。

 森の木々がざあっと一斉に鳴いたかと思うと影が辺りにを暗くして、そしてグレートウルフの巨体がなくなった。

 いや、その一瞬をなんとか見ることができた。

 グレートウルフは大きな黒い影に掴まれて空に消えていった。


「ほう、ロックイーグルだな」

「……ねぇ、ここってなに?」

「名前を教えている途中だったな。ここは懐古の森。大魔力飽和地だ」

「……そう」


 大魔力飽和地。


「なんか、すごそうだね」

「うむ! 我の成果の一つだな!」

「そう」

「魔力が溢れかえっているから魔物もたくさんいるし、その死骸も多い。スライムで魔力を貯めるにはちょうど良い場所だ」

「……刺激的そうだ」


 ちょっと遠くを見るような気持ちでそう答えた。


「ほれ、奥へ行くぞ」

「どうして奥?」

「中心に近ければ近いほど魔力が濃いのだ。つまり、そこに居座っている魔物はとても強いし、そこに落ちている死骸の魔力も濃い」

「死骸……」


 ここに来て、それに気付いた。


「ええと、死骸を食べるの?」

「食べると言っても味覚も触覚もないから心配するな。さっき、なにか感じたか?」

「そういえば……」

「強い魔物の糞とかでもいいんだが……そうするか?」

「うん、死骸にしよう!」


 意気揚々と森の奥へと向かっていく。

 それから、いくつかの魔物の死骸や骨を見つけて、取り込んで魔力を吸収する。

 死骸も最初は怖かったけど、すぐに慣れた。

 もっとグロイことになっているかと思ったけど、放置されている死骸のほとんどは他の魔物に食べつくされた後で、残っているのは骨と皮ばかり、みたいなものばかりだった。


 森はかなり広いらしく、まったく進んでいる感じがしない。

 目印にした巨木にもぜんぜん辿り着かない。


「今日はそろそろ帰るか」


 アリスがそう言ったときにそれを見つけた。

 目印にしていた巨木とは別の場所にある木。

 蔓が寄り集まったようなその木の根元でそれは座り込んでいた。


「なにあれ?」


 黒い鎧?

 隙間もないような全身鎧。

 ロボットのようにさえ見えた。


「ほう、まだ残っているのか」


 懐かしそうにアリスが言う。


「これは我の兵士だ。魔導兵士。ゴーレムだな」

「へぇ!」


 これがゴーレムか。

 魔法的なロボットだよね。

 なんだかわくわくする。


 黒い鎧のゴーレムは下半身のほとんどを苔に呑まれ、傷ついた部分を中心に錆が広がっているようだった。

 寄り添わせるように大きな剣もある。こちらは半ばから折れていた。


「カナタ、これも取り込んでくれるか?」

「え? できるの?」

「できる。金属だっていずれは腐って消えるものだろう?」

「まぁ……そうだね」


 なにか寂しそうな雰囲気に押されるように、僕は黒い鎧の頭の上に乗っかった。

 大きな金属鎧と大剣を取り込むのには時間がかかったけど、全てきれいに魔力に変わった。


「ありがとう」


 最後にアリスにお礼を言われたのがなんだかむず痒かった。





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