16 憑依スライム・アリス&カナタ01


 スライム。

 スライムと言っても色々な形態があったり、その怖さ強さも作品によっていろいろだけれど、僕の目の前にいるピンクのスライムはドラゴンクエスト的なそれが一番近そうだった。


「……夢?」

「夢ではないぞ」


 そう言ったアリス声のピンクスライムの前に鏡が現れる。

 それに映っているのは青色のスライム。


「え? 僕?」

「そうだ」

「え? どういうこと?」

「ようこそ異世界へ、ということだ」

「え?」

「うん」

「え?」


 ちょっと……状況を理解するのに時間がかかった。

 その間に、アリスが説明してくれた。


「つまり簡単に言うと……僕とアリスの魂だけが異世界に来たってこと?」

「正確には魂の一部だな」

「で、通りすがりのこのスライムの体を借りていると?」

「うむ。スライムは自我がないからな。乗っ取りはとても簡単だ」

「なんでこんなことをしたの?」

「だから、カナタを強くするためだな。正確にはそなたに授けた魔眼を成長させるためだ。魔力を取り込ませるのが手っ取り早いのだが、あちらの世界にはそういうことのできる場所が少ない。なら、こっちに来た方が簡単だったということだな」

「え? 簡単に元の世界に戻れるの?」

「我を移動させたことで世界間の壁に穴ができているからな。そこを通るのは簡単だ」

「え? だったら……」

「我一人でこちらの世界に戻る気はないな」


 僕が言いかけた言葉を、アリスは先んじて止めた。

 あまり、こちらの世界にいい思い出はなさそうだ。


「だが、この程度の干渉であれば連中にばれることもなかろう」

「ふうん」


 連中っていうのが誰なのか気になった。

 勇者? もしかして勇者?


「そういうわけで! しばらく寝ている間はこのスライムで生活するとしよう」

「どうしてスライムなの?」

「スライムは掃除人と呼ばれるほどなんでも食べる。なんでも食べて、その物質を魔力にまで還元するのだ」

「へぇ」

「その魔力は本来、世界に戻っていくのだが、それを我らがもらう」

「そんなことしていいの?」

「かまわんよ。魔力は溢れているからな」

「ふうん」


 そういうことだったら遠慮なく。

 ぴょこたんぴょこたんと移動して枯れ枝の上で止まってみる。

 すると、見る間にそれがスライムの体内に入り込んでじわじわと溶けていく。

 そして消えた。


「これで魔力を手に入れたわけ?」

「そうだ。枯れ枝ではたいした魔力は手に入れられていないがな」


 まぁ塵も積もれば山となるってね。

 ぴょこたんと移動しながら色んなものを取り込んでいく。

 枯れ枝とか、枯れ葉とか、骨とか。


 嫌いじゃない。

 こういうゲーム、嫌いじゃない!


「地面とか木とか草とかは食べれないんだね」

「スライムが取り込めるのは生命活動が終わって腐敗を待つ物だと思っていればいい。地面はある意味で物質の始点であり終着点だからな」

「ふうん」


 つまり、スライムはスカベンジャーってことか。

 しかも肉に拘らない。


「うわっ!」


 森を移動していると、いきなり茂みをかき分けて緑色の肌が現れた。

 もしやこれは……。


「ゴブリン?」

「そうだ」


 口から牙を零した緑肌のゴブリンが三体いる。

 ゴブリンは僕たちをじろりと睨むとそのままどこかに向かっていった。


「ああ、びっくりした」

「心配せんでも、スライムを襲うものはおらんよ」

「どうして?」

「そう簡単に死なんし、口にでも入られたら大変なことになる」

「大変なこと?」


 中から溶かすとか?


「胃の中に入って来た食べ物を全部スライムが食べてしまうのだ」

「……ああ」


 うわっ、それは嫌だな。


「食べてるはずなのに餓死しちゃう的な?」

「的な死に方をする」


 こわっ。

 スライムこわっ。


「それよりも、奴らについて行けば集落があるはずだ。行ってみるとしよう」

「わかった」


 そんなわけでぴょこたんぴょこたんと付いて行くことにした。




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