15 彼シャツ力はパワー


 交番でのバタバタのおかげで晩御飯が遅くなってしまった。

 晩御飯を作る。


「我は甘い物だけで生きていけるぞ」

「健康に悪いからダメ」


 パンは好きなのを選ばせてあげたんだから文句を言わない。

 ぐつぐつ煮込んでいる間にスウィッチで対戦ゲームをいくつかして時間を潰す。


「ほうほう、これはいいな」


 アリスはスウィッチを妙に気に入って、ひたすら感心していた。

 そうこうしている間にビーフシチューができたのでご飯にする。


「どう?」

「カナタが作ったのだから美味しいに決まっている」

「そりゃよかった」


 ただのお世辞よりはマシそうだと顔色を見て判断する。

 ミニスナックゴールドの方が美味しいと感じていそうなことも見逃さない。


「そうだ、よいことを思いついたのだ」


 ミニスナックゴールドの白いので顔をべたべたにしながらアリスが言った。ミニスナックゴールドのわんぱく食いはやめなさい。


「よいこと?」

「うむ。カナタが我を守れるようにな」

「僕が?」


 アリスを守る?

 すごく非現実的なことを言われた気がする。


「どうもこの世界の魔力はああいう形で顕現することが多いようだからな」

「ああいう形って?」

「怖い奴のことだ」

「ああ……」


 つまり、ホラー、オカルトってこと?


「あれはだめだ。我には怖すぎる」


 思い出したのか、アリスがぶるりと震えた。


「そういえば、ファミレスのは大丈夫だったよね?」


 あのおっさん福助のことだ。


「あれはただそこにおっただけだ。見た目だけのことではないぞ」


 わかるような、わからないような。

 おっさん福助も、ファーストインパクトは怖かったけどね。


「とにかく、我がだめなことなのだからカナタが大丈夫にならなければならない。強くなるぞ、カナタ」

「強くなるって、どうやって?」

「だから、よいことを思いついたと言っただろう」

「うん」

「まぁ、我に任せておけ」


 そう言うと、アリスは食事に集中した。

 あいかわらず遅い。


 僕が先に食べ終わると、「後は寝るだけにしておけ」というので風呂の支度をする。

 でもまだ入らない。

 アリスの食事が終わらないと、皿が洗えないからね。

 とりあえずコーヒーでも飲みながらアリスの食事が終わるのを待ち、顔がべたべたの彼女を先に風呂に行かせて、僕は皿洗いをする。

 残ったシチューは明日の朝、レンジで温めればいいようにだけしておく。朝パンは薄皮クリームパン。手軽に美味しいよね。


 風呂から出てきたアリスに代わって入浴し、出てくると彼女は真っ裸だった。


「なにか着なさい!」

「寝る時は裸派なのだ」

「そういう問題じゃないから!」

「そういう問題だ。寝ている時までなにかの魔法を維持しておくのはしんどいのだぞ」


 アリスの服は全て彼女の魔法で出来ている。

 しかたないので僕のパジャマを着せる。

 下はウェストが合わないのでシャツだけ。


 ……逆にエロくなった気がする。

 いや、真っ裸よりはマシなはずだ。


「別に抱いてもいいんだぞ?」

「そういうこと言うのは止めようね」


 僕の理性が壊れるから。


「それで、これからどうするの?」

「うむ、寝るぞ」

「寝るの?」


 思いついたのはどうしたのかと?


「なに、目覚めた時のお楽しみだ」


 そう言ってにやりと笑う。

 なんなんだろうと思いつつ、一緒にベッドに入る。

 ピタリと引っ付くアリスの感触に困り果て、これはすぐに眠れないなぁと思っていたのだけど……いつのまにか眠っていたみたいだ。


 そして気が付くと、僕は知らない森の中にいた。


「うむ、成功だな」

「アリス?」


 声がしてそちらを見ると、そこにいたのはアリスではなく……ピンクのスライムだった。





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