09 お昼問題は解決しました
なんだか居づらい雰囲気のままお昼休憩に突入した。
僕たちは購買でパンを買い、人気のなさそうな場所を探す。
校庭にあるベンチが空いていたのでそこにした。
「……とりあえず、君のお昼ごはんの心配をしなくてもよくなったのはよかったけど」
購買で買ったのは僕がミックスサンド。アリスがチョココロネ。それから紙パックの野菜ジュース。
噛みついたら反対から飛び出すチョコクリームに慌てふためいている。
「で、どうやったの?」
もちろん、転校生の件だ。
「なに、認識を誤魔化す魔法をな」
なんかすごそうな魔法なんだけど。
「調律がどうとかいってなかったっけ?」
「うむ、だから気を付けて使っているよ」
「そう? ばれない?」
「我は暗躍とかしておったからな。潜入は任せておけ」
「あれ? 城の奥で勇者を待ち構えていなかったの?」
「なんだその、負けるのを待っているみたいな姿勢は?」
「……そう言われればそうだね」
それにしても……。
「そういえば、どうして婚約者に格落ちしたのだ?」
思い出したのか、アリスがむっとした顔で僕を睨む。
朝のホームルーム後のことだ。
いきなりの結婚宣言でざわめく教室で、僕は婚約者だからと慌てて訂正したのだ。
「ええとね、この国の法律では、結婚できるのは十八歳からなんだよ」
で、僕は高校一年生。
今年で十六歳だ。
「アリスも僕と同じ高校一年生ってことだから、一応、僕と同い年ってことになる」
本当の年齢は知らないけど。
まぁ、魔王に年齢なんて関係ないよね。
「だから結婚はできなくて、せいぜい、婚約ぐらいなんだ」
「なるほど。そういうことか」
「そういうこと」
「ならば、対外的にはそういうことにしておこう」
「うん」
「我とカナタの結婚は制度などに捕らわれん」
「そうそう」
「真実の愛だからな」
「真実?」
「そう、真実だ」
真実。
……真実ってなんだろう?
一瞬だけ、宇宙を見たような気がした。
そんなやり取りをして昼食を済ませる。
それから図書館に移動して午前中の授業で出た課題を済ませておく。
「まじめだの」
「帰ってからの時間を確保しておきたいだけ」
「一人暮らしは大変か」
「まぁね。……ていうか、僕の家の事情、言ったっけ?」
「む」
一人暮らしなのは見ればわかるけど、さっきの言葉のニュアンスは、なんかわかってるか感があったから聞いてみたんだけど。
……これは、なにかしたな。
「なんか……魔法でした?」
「むむむ……」
目を反らすアリスをじっと見つめると、彼女の顔から冷や汗がどばどば溢れて来る。
「すまん」
「まぁ、いいけどね」
どうせいつかは話さないといけないことだっただろうし、手間が省けたと考えるべきだよね。
僕以外から変な風に話されるよりはよかったのかもしれない。
「軽蔑した?」
それでも、僕はそう聞くのを止められない。
「なぜ? 軽蔑されるのは我の方であろう」
「いや、内容的にさ」
「騙されたのはお前の方だ」
「うん、まぁね」
「なら、そんなことを気にする必要はない」
なにか言おうとしたけれど、その前に図書カウンターに座っている図書委員に睨まれた。
声を潜めていたつもりだけど、響いていた様だ。
僕は一度言葉を呑み込み、それから小さく「ありがとう」と伝えた。
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