04 お嫁さんになった?
「説明を最後まで聞かないのが悪い」
指輪を取ろうとしたら取れなかった。
「仰る通り。でもこれ、他の人に見られたら困るかも」
校則に引っかからないかな?
「なんだ? 恥ずかしいのか?」
「そうじゃなくて、校則」
「うん?」
「たぶん、装飾品は禁止だった気がするんだよね」
公立だし。
「外れないのは困る」
「見えなければいいのだろう?」
「え? まぁ、そうだね」
「なら、こういうのはどうだ?」
アリステラが僕の左手を撫でる。
ひやりとした感触に驚いていると、薬指にあった指輪がスーっと消えた。
「え?」
「目隠しの魔法だ。触ってみろ。ちゃんとあるから」
「あっ、ほんとだ」
すごいすごいと見えない指輪を触っていて、はたと気付いた。
「え? 魔法?」
「そうだ」
「……そうなんだ」
「なんだ?」
「いや……地味だなって」
「贅沢だの。ここを焦土にでも変えれば気が済むか?」
「……焦土は物騒だよね」
「怖かろう?」
「そうだね。怖い」
「婿殿に怖がられたら我も困る。なら、これぐらいで満足して欲しい。ああ、そうだ」
「うん? あれ?」
なんだか、体が軽くなったような?
「疲労抜きの魔法を使った」
「ああ、なるほど?」
「実感したか?」
「した……かも?」
ああ、それなら。
「遥さんを探してくれない?」
やっぱり、一応は気になる。
「ふむ。新婚にして浮気を気にしなければならないのか。悲しい」
「いや、そうじゃなくて……」
「冗談だ。とはいえ、それは無理だ」
「どうして?」
「我はその遥という人物を知らん」
「あ……」
なるほど。
「何か手がかりになりそうなものでもあれば、あるいは方角ぐらいはわかるかもしれないが……どうもこの世界の人間は我とは少し違うようだからな。少々、調律も必要だな」
「手がかり」
他の部分はわからないけど、手がかりがいるというのはわかる話だ。
とはいえ、そんなに都合よく彼女の私物を持ってはいない。
いや、持ってる方がおかしい。
だって知り合ってまだ三日だしね。
「無事であることを祈ろう」
「それがいいだろうな」
何度目かのその結論。
それでいいのだろうかという思いも少々あったりもする。
「ねぇ、そういえば」
「うん」
もにょりつつ、僕は一つ気が付いたことを質問した。
「なんだかすごくお腹が空いたんだけど?」
そう。さっきから急にお腹が空き出した。
無事にここまで来れて安心したからか? そういえばバイト前にコンビニおにぎりを一個齧っただけだったとか、そんなことを考えていたのだけど、それにしても急な、そして切迫した感じのある空腹感だ。
一応、半分ことはいえ大盛ポテトを食べたのに。
「ああ、それは当然だ」
「え?」
「疲れを癒すには栄養がいる。先ほどの魔法は疲労回復で失われる栄養を魔力で補填したのではなく、ただ回復を促進させただけだからな」
「そうなの?」
「おかげで、明日筋肉痛に苦しむこともなくなったのだぞ」
「それは助かる」
「それに、婿殿はまだ魔力に馴染んでいないようだからな。いきなりそんなに魔力を送り込んだら、体が不調をきたしてしまうかもしれん」
「そういうもの?」
「そういうものだ」
「そっかぁ」
ああ、お腹空いた。
仕方ない。どうせ晩御飯は食べないとだし、移動して別の場所で食べるのも待てないし、ここでなにか食べよう。
「それで……これはなんなのだ?」
アリステラは妙にうきうきした顔で、テーブルに貼られた期間限定メニューの広告を指さした。
ああ、気になってたんだね。
「もしかして……わざと?」
「なんのことだ?」
それが食べたいから、僕を空腹にしたんじゃないのかい?
アリステラは、ツイっと視線をそらして知らんぷりする。
そんな彼女が可愛いなと思ったので、まぁいいかと中身の寂しい財布のこと思いながら注文用のタブレットを手に取った。
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