03 お嫁さんになるまで 02


 くたくたになって辿り着いたのは国道沿いのちょっと人気のないファミレス。

 国道沿いなのに人気がないのは駐車しにくいからだと誰かが予想していた。

 誰だったかな?

 家族?

 まぁいいや。確かに車が入りにくそう。駐車場の上に店舗がある作りで、柱が邪魔で駐車場の入り口がわかりにくいのだ。

 入り口のちょっとした階段を登る足がぷるぷるするのを情けなく感じながら入店した。


「ひどい目に遭った」

「まったくだ」


 アリステラもくたくたになっている。

 いまだに自分の家がどこかを明かさないこの子のこともどうしたものかと思いつつ、ドリンクバーと大盛りポテトを頼む。

 すでに深夜。

 お客は他にいなかった。


「それで、これから君はどうするの?」


 ドリンクバーの使い方を説明して二人でジュースをテーブルに持ち帰る。

 僕に合わせて彼女もコーラ。

 炭酸に目を白黒させる彼女でしばらく目の保養をしてからそう聞いてみた。


「カナタの家に泊まれんか?」

「……いきなりだねぇ」

「そうするしかあるまい。なにしろ我には家がない」


 追放無能力魔王RPは家出少女にイコールされております。

 うーん、まさしく通報案件。

 こんな地方の田舎町にもそこそこ外国人さんはいらっしゃるが、アリステラみたいな子は見たことない。

 ていうか、こんな美少女なら絶対に目立って噂になってるはずだけど、そんなのも聞いたことない。

 じゃあ、隣の市とか?

 でも、移動に電車を使ったとして、あんなところにいる意味がわからない。

 バスで無茶苦茶に乗ったり降りたりをしたとか?

 ヒッチハイク?


「ねぇ、アリステラの家はどこにあるんだい?」

「そなた、まだ信用しておらんのか?」

「そりゃあね」


 それは仕方ない。

 僕は現実的なのだ。

 現実的にならざるを得なかったのだ。

 魔法も異世界も、僕が本当に困っているときに助けてくれなかったのだから。


「異世界の魔王様も素敵だけど。いまの君も十分に素敵だよ。そろそろ現実に帰って来たら?」

「痛烈だの。では、どうすれば信じてくれる?」

「そうだね」


 そりゃ、答えは決まってる。

 だけどその前に大盛ポテトがやってきた。

 二人で食べる。

 疲れた体にコーラの糖分も染みたけど、塩と油も効く。

 しばらく無心で食べた。


「わかりやすいのは、魔法でしょ」


 残り少なくなったポテトを惜しそうに見ているので彼女の前に皿ごと押した。


「やっぱり、そうなるか」

「そりゃね」


 異世界イコール魔法。

 魔法イコール異世界。

 それが真理だよ。

 魔法のない異世界なんて認めない。

 認めたくない。


「しかし言っておるが、我はいま力を封じられておる」

「そうだね」

「だが、解く方法がないわけでもない」

「ふうん」

「この封印環を外せばいいんじゃ」

「そう」

「だが、そう簡単に解くことはできん」

「どんな資格がいるの?」

「我を受け入れることができる者だけじゃ」

「それだけ?」

「そうじゃ。我を魔王であると知りながら受け入れることができる者。だが、一時の感情で外すことができたとしても……うん、どうした?」

「いや、ちょっと。髪あげて」

「こうか?」

「そうそう」


 僕は席を立つとソファ側に座っていた彼女の隣に腰を下ろし、後ろ髪をあげさせた。

 白い首筋とうなじにどきっとする。

 そのドキドキを隠して手を伸ばし、チョーカーの後ろにある留め金を外す。

 うん、簡単だ。


「へ?」


 アリステラが驚いた声を上げた。


「はい。外れたよって……」


 そこで変化があった。

 チョーカーがいきなりぱっと消えたかと思うと、僕の指に指輪がはまった。

 しかも、左手の薬指。

 銀色の地味な指輪。


「え? なにこれ?」

「お、お前……」


 戸惑う僕にアリステラも驚いて自分の首を触っている。

 そして僕の手を見て、そして自分の手を見た。

 あ、彼女の左手の薬指にも似たような指輪がはまってる。


「まさか……こんなにも早く、婿殿が見つかるとはな」

「は?」

「これから、よろしくお願いするぞ。婿殿」

「は?」


 いきなり深々と頭を下げるアリステラに、僕はそう言うしかなかった。





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