02 お嫁さんになるまで 01


 僕たちはひたすら歩き、歩きながら話をした。

 彼女の名前は……。


「我の名前はアリステラ。魔王である」

「重病かぁ」

「む? どういうことだ?」

「いえいえ、なんでも」


 僕より少し年下そう。

 つまり中学生っぽい彼女……アリステラの自己紹介を聞いてそう診断した。

 医者じゃないけどね。

 医者じゃないけど、わかるよね。

 封印された魔眼が疼く的な……ね。


 でも、金髪白人な美少女がそれをしていると似合っていると感じるのは僕の感性ゆえか。

 中二病さえも外見で差別するか。

 おのれルッキズム。

 違うか。


「それで、家はどこなの?」

「家などあるわけなかろう。そもそも我はこの世界の住人ではない」

「へぇ、そうなの?」

「そうじゃ」

「それなら、どうしてここに?」

「む……」

「む?」

「答えにくいことを聞くのう」

「もしかして、異世界侵略?」

「はは……そんなものはもういいわ。懲りた」

「へぇ……」

「ここにはな、追放されたのだ」

「追放?」

「封印されてこの世界に流されたのだ」

「それなら、僕の世界で好き放題するのかい?」

「だからできんよ。これが見えるか?」


 アリステラは自分の喉を指さした。

 そこにはチョーカーがある。いくつもの円を組み合わせたような黒いチョーカーだ。


「これが封印環になっておる。これがあるから、我は何の力もない」

「ふうん」

「だから、こんな道を自分で歩くしかないわけだ」

「そっか。じゃあ、がんばろう」

「それで、お前……お前の名は?」

「彼方だよ。琴夜彼方」

「コトヨカナタ?」

「彼方が名前ね。琴夜は姓名」

「カナタか、よろしくの」

「うん、アリステラもよろしく」

「うむ。それで、カナタはなんでこんなところに一人でいる?」

「はは……ちょっとね」


 と、僕はさっきまでのことを話した。


「ふむ……置いて行かれたのか」

「そういうことになるね」

「その……ハルカというのは大丈夫なのか?」

「へぇ」

「なんじゃ?」

「魔王なのに他人の心配をするんだ」

「我が魔王と呼ばれる原因となった連中はあっちの世界にしかおらん。その憎しみをこっちに引きずるのは、大人げないだろう?」

「まさしくだ。アリステラは大人だね」

「我のことは良い。それで、心配ではないのか?」

「どうかな? そこまで馬鹿じゃないと思いたいけど」


 高校生を夜の山に放置して同じ大学の女性を連れ去って襲うとか、即日逮捕案件じゃないか。完全犯罪には程遠い。

 三人の名前はなんとなく聞いていたし、いざとなればすぐに警察に電話できる。

 このまま歩いていて途中で迎えに来なかったら、明日は絶対に警察に行こうと思うぐらいには腹が立って来ていたりする。


「大学生がそこまで愚かなわけない。ないよね?」

「知らんよ」


 アリステラの僕を見る目が冷たいように感じるのは気のせいだろうか?

 それに遥さんの電話番号もラインも知らないので連絡する手段がない。


「まぁ、危機管理ができない者が死ぬのはこちらの世界でも同じということか」

「いや、この国は平和な方だと思うよ?」

「危険がないわけではないだろう?」

「……そうだね」


 そんな風に言われたら心配になって来た。

 スマホを取り出す。


「それはなんだ?」


 異世界からの来訪者ロールプレイを続けるアリステラにスマホのことを説明した。


「便利な道具だな。それで衛兵を呼べるならそうすればいいだろう」

「うーん」


 衛兵。つまりは警察。

 電話してもなぁ。

 実際にはまだ何も起こっていないんだよな。だから僕が置いて行かれたことにはなにかの罪とか付くかもしれないし付かないかもしれないけど、遥さんのことに関してはまだなんともならないかもしれない。気を付けておきますねと言われるだけな気がする。


 いや、実際に、そういうことを言われたことがあるわけで。


「どうした?」

「いや、警察を呼ぶとアリステラのことも説明しないといけないんだけど」


 だってここにいるわけだし。

 電話をしたらとりあえず高校生な僕が大学生に峠道で放置されたってことは説明しないといけないわけで、そうなるともちろん、迎えに来てくれることになるだろう。

 そしたら側にいるアリステラを見て、「君は?」って聞くよね。当然。僕だって聞く。


「む?」

「僕も怒られるかもだけど、君も絶対に怒られるよ」


 親御さんの所に強制送還だね。


「それはいかんな。呼ぶな」

「そうだね」


 結局、僕たちは峠道を歩ききり、疲れた足でファミレスに入った。





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