第39話

「よっ、匠馬」

「おう」


 12月23日の今日。俺は駅前で正鷹と待ち合わせをしていた。


「んじゃ、行くか」

「そうだな」

「店の予約はしてるんだっけ?」

「あぁ。昨日電話したぞ」

「なら、問題ないな」


 しっかし……眩しいな。

 クリスマスシーズンってこともあって、あちこちが煌びやかに彩られている。

 しかも、今年に限って町長が気合いを入れているらしく、いつもよりド派手だ。おかげで、夜の7時だってのに昼間みたいに明るい。

 ったく……無駄なことに金かけやがってよ。


「やれやれ……まさかクリスマスイブイブに、お前と焼肉に行くことになるなんてな。俺、明日は七星先輩とデートなんだぜ」

「悪かったな。その代わり、今日は俺の奢り何だから文句言うなよ」

「ま、そうだな。匠馬の財布を空にするまで食いまくってやるぜ!」

「少しは加減しろよ……てか、クリスマスイブイブってなんだよ?」

「え? お前知らねぇの?」

「知らん」


 そんな言葉初めて聞いたぞ。普通は、クリスマスイブじゃねぇのか?


「クリスマスイブの前日のことを、クリスマスイブイブって言うんだよ。覚えておけよ、これ常識だから」

「そんな訳の分からん常識は、消えて無くなってしまえ」

「相変わらず、ひねくれてんなぁ」

「うるせぇ。ほっとけ」


 正鷹とそんなバカ話をしながら歩いているうちに、予約していた焼肉屋に到着した。

 店の中に入り、店員さんに席まで案内してもらう。


「食べ放題じゃなくて、単品でいいんだよな?」

「あぁ、好きなもんを食いたいだけ食え」

「んじゃ、遠慮なく」


 別に高級店って訳じゃないし大丈夫だろ。

 一応それなりの金額は持ってきたし、最悪カードもあるから何とかなるだろ。


「んで? 相談って何だよ?」

「とりあえず、肉が来てからにしようぜ」

「分かったよ」

「ただ、ちょっと長くなるけどいいか?」

「あぁ大丈夫だ」

「サンキュ」


 ――――

 ――


「んじゃ、いただきますっと」

「いただきます」


 ほどなくして、正鷹が注文した肉が届いた。しかし、頼み過ぎじゃねぇか? 軽く10人前くらいはあるぞ。テーブルの上パンパンだしよ。


「何でもいいけど、残すなよ」

「分かってるよ。ほれ、さっさと話してみろよ」

「そう、だな……」


 俺の相談事。それは、翼ちゃん、歌夜、理子のことだ。3人に好きだと告白されたこと、そして明日に答えを出さなくちゃいけないことを、こと細かく話した。


「ふーん。なるほどな」

「あぁ……」


 テーブルに乗っていた肉の皿が、ほとんど無くなっていることから、随分と長く話したようだ。その間、正鷹は特に口を挟まず黙って聞いていてくれた。


「なぁ? まずさ、根本的に匠馬は、その3人のことどう思ってるんだ?」

「どうって……」

「別に難しいことを聞いている訳じゃないぞ。単純に恋愛感情はあるのかって話だ」

「それは……」


 正直に言ってよく分からない。

 確かに、翼ちゃんも歌夜も理子のことも好きだ。だけど、それが恋愛的な意味で好きなのか、そうじゃないのか、あの日から真剣に考えてみたけど、答えを出すことが出来なかった。

 だからこうして、正鷹に相談をしている。

 まったく、本当に情けないことだ。


「はぁ……ったく、お前ってやつは昔からそうだよな」

「うるせぇよ……」

「んじゃさ、3人は匠馬にとって、どういう存在何だ? そこんところ話してみろよ」

「分かった」

「あ、その前に追加で注文するからな」


 こいつまだ食うのかよ……まぁいいけどさ。


「まず理子は、とにかく一緒に居て退屈しないやつだな。いっつも元気でさ、そんでもって眩しいくらい明るくて、笑顔が絶えない。ちょっと生意気だけど、でもどこか憎めない可愛い後輩なんだよ。あいつと居るとさ、嫌なことがあって気分が落ちていても、いつの間にか楽しくなっちまうんだよ。自分だけじゃなくて、周りまで照らして暖めてくれる太陽みたいなやつだな」

「そうか。んじゃ、鳶沢さんは?」

「歌夜は、とにかく素直じゃないやつだな。本当は寂しがり屋の癖に変に強がるんだよ。んで、人付き合いが苦手でさ、つい攻撃的な発言ばっかしてよく勘違いされるんだよ。すごくいいやつなのに本当にもったいないんだよな。そして、歌夜は俺にとっての絶対なんだ。あいつだけは、何があっても俺を裏切らない。そんな存在だ」

「なら、白井先輩は?」

「翼ちゃんは、一緒に居て安心出来るんだよ。誰よりも無邪気で、だけど誰よりも大人で、そして優しくて泣き虫。だからかな? 俺も変に気を使わいでいられるんだ。なんと言うか、対等な関係って感じだ。それと同時に尊敬もしている。空のように高くて大きいんだ。でもさ、どこか危なっかしくて、放っておけないんだよ。それが翼ちゃんなんだよな」


 こうやって、3人のことを話してみると、やっぱり俺にはもったいないくらいの人達だ。

 両親のとこもあったから、今まで心のどっかで、俺は不幸なやつだと思ってたけど、それは間違いなようだ。あの3人が俺の事を好いてくれている。とてつもない幸せもんだよ。


「なぁ匠馬」

「ん?」

「もう答え出てるじゃねぇか」

「え?」


 答えが出てるのか?

 ダメだ……分からない。


「はぁ……まだ気付いてないのかよ」

「すまん……」

「まぁいいや。匠馬らしいっちゃらしいか」


 何かすげぇ貶されている気がするんだが? でもまぁ、今は黙っておこう。


「いいか? 分かりやすく聞くぞ?」

「あぁ」

「例えば、面白い漫画を見つけた時、たまたま入った飲食店のカレーが美味かった時。その3人の誰に真っ先に教える?」

「は、はぁ?」


 こいつ、いきなり何訳の分からんこと言ってんだ?


「いいから黙って聞け」

「……分かった」

「例えば、自販機でジュースが当たった時、朝の占いの結果がよかった時、その3人の誰に聞いてもらいたい?

 例えば、その3人と喧嘩しちまった時、お前が一番へこむのは誰だ?

 例えば、その3人が困っている。でもお前の助けがなくても大丈夫でも、助けてやりたいと思うのは誰だ?

 例えば、その3人がお前のもとから居なくなっちまう時、一番悲しいのは誰だ?

 例えば、その3人がお前の知らない男と楽しそうにしていたら、一番嫌になるのは誰だ?

 例えば、その3人の誰の為だったらお前は本気になれる?」

「……」

「まだ続けるか?」

「いや、大丈夫だ」


 そうか。そうなんだな。

 やれやれ……俺は本当にバカだなぁ。ここまでされないと分からないなんてさ。


「念の為聞いとくけど、答えは分かったんだろ?」

「あぁ」

「そうか」


 正鷹の質問に当てはまる人物は、自分でも驚くくらい1人だけだった。

 1人の女の子にこれだけ多くの感情が向けられてしまう。

 それはもう、俺にとっての特別な存在だ。

 今は自信を持って言える。俺はその子のことが好きなんだ。


「正鷹」

「ん?」

「サンキュな」

「おう」


 マジで正鷹に感謝だな。相談して本当によかった。俺1人だったら、この気持ちに気が付けないでいたはずだ。

 とりあえず、明日この気持ちを早く伝えたい。


「んでさ」

「ん?」

「追加注文してもいいか?」

「まだ食うの?」

「おう」


 冗談だろ? 正鷹1人で、もう20人前近く食ってるぞ。お前の胃袋は、ブラックホールにでも繋がっているのか?


「ダメなのかよ? 相談乗ってやっただろ」

「分かった分かった。もう好きなだけ食え!」

「へへっ、サンキュ!」


 ったく……こりゃマジでカード使うことになりそうだな。

 でもまぁ、約束は約束だからな。この際、金額のことは忘れるとしよう。


「匠馬」

「ん?」

「明日、頑張れよ」

「あぁ、もちろんだ」

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